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第24話

部活及びサークル活動の見学に来ていた俺は、新聞部の隣の教室を訪ねていた。


「して、桐谷さんは具体的に何を見学しになさったんですかね。」


動じず俺を見据える眼鏡女子は、ジトッとした目で見上げてきた。


「・・・広報部の展示で、生け花の作品を出すことになったんだが、俺は入学してから部活動やサークル活動に参加したことがない。作品は各活動アピールでもあるから、それぞれの雰囲気や個性を知るために来た。」


「・・そうですか・・・。つまりうちがどういうことをしているかのイメージをお知りになりたいと。」


「ああ、そうだ。」


「そうですか・・・。申し遅れました。当サークルの代表を務めています、今田と申します。御覧の通りうちは女子が多く、貴方のような見目麗しい男性を見慣れておりませんので、奇行をお許しください。」


「・・・はぁ・・・。」


「・・・先ほど申し上げた用語ですが、漫研とは『漫画研究』の略で、アニ研は『アニメ研究』の略称です。レイヤーとはコスプレイヤーの略・・・つまりはアニメや漫画に登場するキャラクターの格好をして、撮影などを行う人たちのことです。」


「ああ・・・なるほど。・・・そのレイヤーっていうのはここにいる全員で行うのか?」


「いえ、うちは約20名ほどの部員がいますが、その8割ほどが女子で、レイヤー活動をされる方はそのうちの1割ほどでしょうか。」


「そうか・・・。具体的な活動内容を伺ってもいいだろうか。」


今田さんは頷いて脇にあった棚を開けた。


「以前展示したものでよければどうぞ。部員たちが作成した漫画や、イラスト集がございます。」


「へぇ・・・。」


手に取って作品を眺めていると、いつの間にか側にやってきた金髪の女性が俺の顔を覗き込んだ。


「今田さ~ん・・・桐谷さんってすっごくコス映えしそうな方です~。」


「・・・明智さん、広報部からの方ですので、失礼のないように。」


「え、失礼なんですか?」


相手にするにはめんどくさそうな奴だ・・・

俺は再び作品に目を向けると、手作り感満載の原稿用紙に何とも惹かれるものがあった。


「漫画の原稿用紙ってのを初めて見たんだが・・・この柄のついたシールみたいなものはなんだ?」


「・・・トーンのことですか?主にアナログ原稿で使用される効果を表現するものです。最近はデジタルで漫画を描く方が大半かもしれませんが、こういったものは普通に文房具店で購入できます。」


「ほう・・・・。それでさっき話してくれたレイヤー・・・とやらはどういうことをするんだ?」


俺が尋ねると側にいた金髪女子がニッコリ微笑んだ。


「それに関しては私が詳しいから教えてあげるよ~先輩。」


原稿用紙を置いて改めて見据えると、金髪ツインテール女子は後ろ手を組んで上目遣いに言った。


「コスプレは芸術なの。キャラになりきるためにコスチュームやアクセを手作りしたり、購入して着てメイクしたり・・・自分自身をキャンパスにして2次元のキャラを作り上げる行為。」


「へぇ・・・実際の作品はあるか?」


俺が尋ねると待ってましたと言わんばかりに、その子はニッコリ笑みを浮かべた。

そして急いで着替えてくると言い残して、教室の隣の扉に消えて行った。

待っている間漫画を制作した部員から、どういう構成を考えてストーリーを組みたて、漫画としてのクオリティを出すための工夫があったのか、細かい部分を尋ねていた。

そのうち各々の好きな漫画について語りだし熱弁しだすので、今田さんが冷ますように割って入りながら宥めていた。


「今田さん、コスプレの着替えは時間がかかるものか?」


「・・・ええ、メイクの時間を考慮すると30分以上はかかります。先に申し上げておくべきでしたね。」


「そうか・・・。俺も無限に見学の時間があるわけじゃないから、またそれくらいしたら戻ってくることにする。」


「承知しました。」


俺は廊下に出て隣の部屋までくると、女性たちの賑わう話し声が聞こえてくる。

ドアの張り紙を見ると、「手芸、料理サークル」と書かれていた。

とりあえずノックをすると、こちらもまた「は~い」と返事が返ってきたので扉を開けた。


「失礼します。」


「・・・あれ?桐谷くん?」


一つのテーブルに集まって話していた女性の中から、佐伯さんがこちらを見た。


「え!なになに!?リサの彼氏!?」


一人がそう声を上げると、周りの女性たちも興味深そうに視線を向けてきた。


「違うから!同じ学部の知り合いだよ。」


「あ・・・もしかして広報部の人が言ってた見学に来る人って・・・貴方だったりする?」


茶髪の女性が立ち上がると、周りも合点がいったように口を開けた。


「はい、部長さんですか?」


「そう。うちはサークルだから部長とは呼ばれてないけど・・・一応代表の笹原です。」


「どうも。生け花の作品を手掛けるにあたって、各活動のアピールとなる物を見学させてほしい。イメージを固めたいので。」


「そう・・・なんだね。・・・・でも一つ一つサークル回ってたら大変じゃない?部活動も合わせると10や20じゃないよ?」


「印象に残った作品は写真を撮らせてもらいます。記憶力はいい方なのでご心配なく。」


「じゃあ・・・そうだねぇ・・・去年の学際で展示した作品の写真見てもらおうかな。実物はバラバラで並んであるから、隣の教室にどうぞ。」


キッチンが並んだ料理室から隣の扉を経て移動すると、被服室だろうか、ミシンや作品である人形類が沢山並んであった。

笹原さんから写真が入ったアルバムを受け取り、適当な椅子に腰を据えて眺めた。


「一応私が作った代表的な作品置いとくね。」


テーブルに服を着た大きな猫のぬいぐるみを置かれ、しっかり背筋を伸ばして座るそれは、キラキラ輝いている目をじっとこちらに向けてきた。

着ている服も独特で色鮮やかだ。


「何とも個性的でいいな・・・。」


「そうでしょ?去年は『個性』をテーマに各々が作品を手掛けてたからね。私の猫は、さっき話してた佐伯さんのと対になってる存在として作ったの。詳しい作品の説明とかは、そこの写真と一緒に書いてあるから。」


俺は説明文も確認して、作品をスマホで撮影させてもらった。

だいたいの写真に目を通して、普段の活動内容や実績を教えてもらった。


「ありがとう、そろそろ失礼する。」


アルバムを笹原さんに手渡して、一同に見送られながら教室を後にした。


「確かに彼女の言う通り・・・一日じゃ済まないな・・・。」


その後移動しながら文化部と各サークルの教室を回った。

皆一様に学際の準備で忙しそうにしながらも、快く迎え入れて活動内容を話してくれた。

時にナンパもどきな対応を男女問わずされる場面もあったが、適当な対応をしつつ写真を撮らせてもらって、各活動のイメージから選ぶ花材や手法を思案していた。


仕入れる花材の予算に糸目をつけないとのことだったし、教室の中央を彩る巨大な生け花を拵えるのでいいだろう。

それが例えサークルと部活動と同じ数の花材であっても、予算以上の結果を出せばいい。

周りの展示物に囲まれるように作りたい・・・。

余計なものは入れずに・・・そうだ・・・枝や葉物は一切入れずにやってみるか・・・。


色んな活動を目の前で見てイメージを固めるという名目ではあったけど、知れば知る程かなり未知で無謀な依頼をされたのかもしれない・・・と思わざるを得なかった。


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