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第23話

ある程度生ける感覚を取り戻していた頃、気付けばもう6月も末だった。

夏休みに入る前に全ての打ち合わせは終了しなければならないので、その日も広報部の部室へと赴いた。

ノックをして返事があり戸を開くと、いつもの騒がしいコロコロした声で捲し立てる小鳥遊がいた。


「や!桐谷くん~!おつかれ~。」


「・・・花の仕入れ先についてだが・・・」


「開口一番君は・・・なに?」


「・・・俺のバイト先はまぁまぁ多くの取引口を持っていて融通が利く、そこに変更しても構わないか?」


「・・・うぇ?桐谷くん花屋さんでバイトしてんの?」


「ああ。予算を気にせず頼んでもいいとのことだったろう、俺としては店の売り上げにも貢献出来て一石二鳥だ。」


「ちゃっかりしてんねぇ・・・」


「・・・あんたに言われたくない。」


「ん~まぁいいよ、仕入先については特に指定されてないからね。んで?どういう作品にしたいかイメージは固まったかな?」


「ああ、まぁな。展示する教室に移動して説明したい、他の部員が忙しいならあんただけでいい、来てくれ。」


「オッケー。」


書類やポスターを広げながら各々作業する部員を置いて、展示する教室へと移動した。

少し離れたそこへ向かうまで、小鳥遊は徐に声をかけた。


「ふぅ・・・しっかし毎年この時期は忙しいけど・・・桐谷くんはどうしてサークルや部活動に参加してないの?就職するとき実績残してると有利だよ?」


「・・・俺が志望している職種や会社には、そこまで有利な部活動がここに在るとは思えない。ちなみに・・・どういう仕事をしたいかっていう質問をするなよ?答える気ないから。」


「ふふ・・・質問するのが癖なんだよぉ・・・。」


「ふん・・・パパラッチの娘の性か?」


俺が煽るように視線だけを向けると、小鳥遊は特に気に留める様子もなく眼鏡を押し上げた。


「あ~確かにそうかもね。血筋ってのは色濃く受け継いじゃうもんなのよ、本人の意志関係なくね。桐谷くんも然りでしょ?」


「・・・あんたは俺をイラつかせることが好きらしいな。」


「そんなつもりないんだけど・・・。桐谷くんより私の方が、君をしっかり調べ上げてるってだけだよ。」


小鳥遊はまた得意気にふふんと鼻を鳴らして、教室の戸に手をかけた。

普段使われていないその教室からは、いらないものの一切が片付けられ、本来の教室の木材の匂いがする。

湿気た梅雨の空気のせいだろう。


「・・・作品は教室の真ん中、一点のみにしようと思う。」


「んえ・・・でも、出入り口両方にって話だったんじゃ・・・」


「昨年や一昨年の映像を見ていて思ったんだが、他の目立った展示物を置いていたとしても、華道部としての生け花が二つあると、意外と存在感を放ってた。作品自体はゴミだったが、そこまで大きい器に生けるわけじゃなかったとしても、花や枝、葉っぱが広がる大きさを考えると、さして広くないこの教室ではそれなりに目立つ。」


教室の中央に立って小鳥遊を振り返ると、彼女は口元に手を当てて少し後ろに下がった。


「ふんふん・・・・まぁ実際の作品を大きさを鑑みて桐谷くんがそう言ってるならそうなのかもね・・・。それに関しては一案として、実際作ったものを置いてもらってから改めてバランス考えるってのでオッケー?」


「ああ、構わん。明日花材を持ってくる。華道部の部室を借りることは可能か?」


「うん、大丈夫だよ。んで、作品自体はえっと~・・・前言ってた自由花?にするの?私あれから色んな生け花の様式があるの調べて知ったんだよ。立花とか・・・あ、生花しょうかでも様式が違う小さいやつがあるんだよね?・・・えっと・・・」


「生花で小さいものは、『生花正風体しょうかしょうふうたい』だな。あれはホントに小型ものだし、逆にこじんまりとし過ぎてるな。華道部をアピールにするには印象が薄くなるから、歴代でも展示に使ってなかったんだろう。まぁ・・・様式も流派によって呼び方や認識が違ったりして面倒だから、特に理解は求めてない。俺もややこしくて細かいことはもう覚えてないしな。それに今回に関しては華道部はもうないとのことだし、個人的に頼まれて作品を展示するという名目だから、そこまで様式や流派に拘って作るつもりはない。だからこその自由花だ。」


「ほん・・・その心は!?」


「・・・自由花は独創的かつ、個人のセンスを一番生かす様式と言える。アーティストや画家が、即興で芸を披露するがごとく。」


「ほえ~なるほどねぇ・・・確かにあれだね、桐谷くんっぽいかもね?」


「ふん・・・俺の何を知ってるか知らんけど、昔のような作品を持ってこられると思っても無駄だぞ。同じようなものは二度と作れないし、作品は個人の中身が色濃く出るもんだ。」


小鳥遊は考え込むように腕を組んだ。


「うん・・・まぁ、前も言ったけどただの学生の展示だし、桐谷くんは急遽決まったゲスト出演者みたいなもんだから、時田先生が見に来るならこういうのにしよう、ってことだけ考えて作ってくれてもいいかなぁ。」


「そうはいかない。それだと俺の作品だけ浮きまくることになる。大学をアピールする場だろここは。それ相応には作ってみせる。・・・何にせよ実物を拝見してもらわないことには、合う合わないの言及も出来ないだろう。明日また同じ時間に部室に行く。」


「あれ、もう帰っちゃうの?何だったら適当に華道部に余ってる花材集めて、部室も練習がてら使ってくれてもいいんだよ?」


「いや、これからバイトだ。」


「あ、そうなんだ。じゃあ改めて花材の提供、承諾を得ておいて。注文票とかこっちの書類で出してもらうことになるし。」


「わかった。」


もう一度教室を振り返って、自分の生け花がそこにあるイメージを膨らませた。


うん・・・十分だ。この場所に見合うものは必ず作れる。



翌日、華道部の部室を借りるついでにせっかくならと、小鳥遊の提案でサークルと部活動を見て回ることにした。

夏の大会などを控えている運動部も含め、今時期は皆忙しくしているとのことだ。

入学当初から特に興味なく所属してこなかったが、案外広くて大きな部室棟や、サークル活動で使用されている校舎の隅っこは、わりかし賑わう声も聞こえてきていた。


「もう夏休み近いからね~って言っても、ガチで大会に向けて取り組んでる部活動はさ、文化部であっても夏休みも大学くるからさ、むしろこれからの時期が本番って感じだよね~。」


小鳥遊は暑さに負けそうな自分を奮い立たせるようにペットボトル飲料を煽った。

団扇をパタパタやりながら、新聞部の部室の前で足を止める。


「こっから先は!男子禁制だ!なんつって!」


「・・・?なんでだ?」


「いや・・・単に今の新聞部が女子しかいないからなんだけど・・・。書いてる記事を先に見られるのも困るし、結構散らかってるから見学はお勧めしないな。」


「自分で連れてきておいて・・・」


「まぁまぁいいじゃないか、そなへんの近くの教室を回ってごらん?可愛い文科系女子と恋に落ちるかもよ?」


こいつは何を言ってるんだ・・・


「・・・まぁ、見学が自由なら行かせてもらう。じゃあな。」


ヒラヒラと団扇を振る彼女を置いて、適当に新聞部の隣から見て回ることにした。

扉の前に貼られていた看板代わりの紙を見ても、いまいち何かわからなかったのでノックをする。


「は~い、どうぞ~?」


「失礼します。」


俺が戸を引いて入室すると、部室の隅に置かれているテレビを観ていた者、テーブルに座って読書しているもの、ソファに座ってスマホを眺めている者達が、同時に俺を振り返った。


「・・・広報部から聞いているかもしれないが、展示作品のために部活動を見学させてもらっている。3年経済学部の桐谷です。・・・失礼ですが、こちらは何の活動を?」


辺りを見渡しても目立ったものはなく、本棚には漫画が敷き詰められていた。

すると眼鏡をかけた細身の女性が、黙っていた部員たちに代わって俺の前に出た。


「・・・うちは漫研、そしてアニ研も兼ねているサークルです。時にレイヤーもどきにもなりますが・・・。」


「・・・まんけん?あにけん?・・・れいやー?・・・すまん、用語がわからない。」


俺が眉をひそめて聞き返すと、教室の隅にいた女子一人がワナワナと震えて俺を指さした。


「あ・・・・高津先輩とよく一緒にいる・・・・イケメン片目男子ぃ・・・!」


・・・何だその認識・・・・


俺が言葉に出来ない疑問を抱えていると、一同興味深そうに俺を凝視した。


なんか・・・居づらいなここ・・・



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