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第11話

翌朝、目を覚ますと普段感じない窮屈さに気付いた。

シングルベッドに自分と同じ大きさ程の西田が寝ていると、想像以上に狭い。

寝る前こそは俺に気を遣って端っこに縮こまるように横になっていたようだけど、裸のまま先に寝てしまった西田に、もう一枚掛布団をかけてやっていた。

お互い一緒に風邪ひいたなんて洒落にならねぇし、翔にニヤつかれるのが目に見えてる。

俺が起き上がってベッドに座ると、西田も目を覚ましたようだった。


「・・・桐谷・・・」


下着を履き直すと、西田はそっと後ろから抱き着いた。


「おはよ・・・」


「ん・・・はよ。」


「あれ・・・桐谷寝ぼけてる?」


「それはお前だろ。さっさと服着ろ。」


「んふふ・・・。なんかあれだなぁ・・・桐谷の冷たい口調とか、慣れてくると普通な気がしてくるなぁ。むしろツンデレなのかなぁとか思えてくるよな。」


「デレた覚えがねぇ。」


「え~?時々あるよ。瞬間的だけど。桐谷の知らないところで結構キュンときてるよ。」


身に覚えがなさ過ぎて、こいつ何言ってんだという顔で見返した。

西田は寝起きの髪の毛をかきながら落とすように笑うと、静かに呟いた。


「とりあえずあれだなぁ・・・桐谷に焼きもち妬いてもらえるようにしなきゃなぁ・・・。」


時計を確認すると8時だったので、さっさと着替えを済ませることにした。

クローゼットを開けていると、西田は俺が貸したスエットを丁寧に畳みながら言った。


「今日も服貸してよ。」


「なんでだよ、洗濯し終わった自分の服あるだろ。」


「桐谷のお洒落な服多いし好きなんだよ。趣味がわかるし。・・・な、桐谷ファッション雑誌の読モとか出来んじゃねぇの?」


「読モねぇ・・・。」


「あ、てか前も雑誌見て思ってたけど、カメラ目線で笑顔とか無理そうだよな。」


「あ~普通に無理だな。つーかお前がやれよ、小遣い稼ぎに。」


そんなどうでもいい会話を朝から繰り広げながら、淡々と準備する俺につられて西田もテキパキ動き始めた。

適当にパンを焼いてジャムを塗って食べていると、西田が買ってきたサラダを出して目玉焼きを拵えて出してきた。


「このサラダ美味いから一緒に食べて。」


西田は皿に盛った緑をむしゃむしゃ頬張りながら俺に勧めた。

仕方なく箸でつまみながらいると、そういや・・・と西田は口を開いた。


「今日は咲夜と予定あるから、帰ってこないと思う。」


「・・・・・あっそ。」


ここはお前のうちじゃねぇ、とか、帰る前提で話しすんな、とか思ったけど口には出さないことにした。

同じく俺も1限からだったので、その後二人して家を出て出発した。

大学に着いて同じ講義室に入りながら、西田は思い出したように言った。


「そういや・・・被ってる講義多いけど、昼まで連続で一緒なの金曜だけな気がするな。」


「そうなのか?知らんけど。」


「でも俺午前中までだからさ・・・桐谷は午後もあるよな?」


「あるよ。」


前の方の席で隣同士腰かけると、後ろの方から西田を呼ぶ声が聞こえた。

西田は2、3会話して、後ろの方の席に帰って行く連中を見送った。


「でさ・・・」


俺がスマホを眺めていると再度話を続けようとして、また遮るように声がかかった。


「よ、おつかれ。」


「あ、咲夜おつかれ~。今日4限までだっけ?」


「うん、昼前空きコマだけど・・・二人は空いてる時間あんだっけ?」


「いや、俺も桐谷もないよ。え、今日彼女とデートとか大丈夫なん?」


「終わってからの方が都合良いなら、空きコマの時間に会いに行くから大丈夫。小夜香ちゃんテスト期間で昼までだしね。」


「なるほど。俺終わってからすぐバイトだからさ~・・・夜行けたりする?」


「いいけど・・・。俺んちにすんの?大学から歩いて20分くらいだから、お前バイト先から戻ってくることになるよ?どっか外で・・・あ、そういや・・・」


咲夜は俺の前方の席について、振り返ってニヤリと笑った。


「翔から聞いたぞ?」


「え!?」


その発言でビク!っとする西田をチラっと見ると、咲夜は苦笑いした。


「西田が実家に戻ったから、最近二人して桐谷んちで遊んでんだって?何、ゲームでもやりこんでんの?西田こないだ言ってたよな、新作のゲームがどうのって。」


「あ、ああ・・・や、言ってたゲームは・・・一人用だからな・・・。」


「あ、そうなんだ。俺ハードやらないから詳しくなくて。桐谷んちは西田のうちから近いの?」


「いや、まぁ・・・遠くはないけど電車には乗るよ。バイト先と実家の間に桐谷んちの最寄り駅だから、よく寄ってるって話。」


俺が説明せずとも、西田は全部伝えてくれるから便利だ。

すると咲夜は何も言わない俺をじっと見て、頬杖をついた。


「じゃ、桐谷さ、俺ら今日うちに行っても大丈夫?」


俺がよくわからず見つめ返していると、西田が少し慌てた様子で言った。


「いや咲夜・・・俺相談事があってというか、聞きたい事があって咲夜と話したいってことなんだけど・・・」


「そうなん?え、桐谷いちゃダメな話?」


西田はどうにも煮え切らない様子で困っている。


「うちは来たきゃ来ていいよ。俺に聞かれたくねぇんなら、その間は別室にいりゃいいか?」


そう提案すると西田ではなく咲夜が返事をした。


「それはさすがに悪いよ。じゃあ西田、今日は夜しか空いてないなら、また別日にしよう。別に急ぎじゃないんだろ?」


即断即決する咲夜に西田も頷いた。

その後も適当な会話を聞き流しながら、たまに二人に話しかけてくる奴らの話題に巻き込まれないように、スマホを眺めながら気配を消していた。

やがて講義が始まって時間が過ぎる間、いつも特に話しかけない西田が、俺の太ももをトントンと指で叩いて小声で言った。


「板書・・・見える?わかんねぇとこあったら見せる。」


「・・・大丈夫。この距離なら全部見える。」


同じく少し近づいて小声で言うと、西田はニコリと笑みを返した。


講義を終えて2限目の教室に向こう途中、西田は廊下を並んで歩きながら何気なく言った。


「中高生の時もそうだったけど、こうやってさぁ・・・まるでこの先もずっと一緒にいるみたいな空気でつるんでた友達ともさ、就職したら会わなくなるんだろうな。」


「・・・まぁな。」


「本当はさ、かつての同級生とかとも連絡取れば今だってすぐ遊べるし、別に遠くに引っ越したってわけでもないんだけど・・・。何となく目の前のことばっか大事になってさ、わざわざ遊ぼうぜって声かけなくなるんだよ。」


「確かにそうなるな。」


「・・・・桐谷はさ、中高の時とか付き合ってた人いないの?」


「いねぇよ。つーかそれ4人でいる時とか、翔が何べんも聞いてきて答えてるだろ。」


「そうだけどさ・・・もしかして詳しく聞かれるのが嫌でいないって答えてたりするかなって思って。」


「いや、別に嘘はついてねぇ。」


廊下を過ぎて階段に差し掛かると、西田はわざわざ立ち位置を入れ替わって俺を手すり側に寄せた。


「なん・・・ああ、俺が右目見えてねぇから気ぃ遣ってんのか?」


「ん。」


「んなことしなくても階段くらい降り慣れてる。」


「そうだろうけど、視界が狭いとぶつかるかもしれないだろ?」


「・・・過保護め・・・」


「過保護で結構。怪我されるよりはましだよ。」


西田は俺の少し前をゆっくり降りていく。


「俺が怪我してもお前の痛みじゃないんだから、関係ねぇだろ。」


「ふ・・・軽薄なこと言うねぇ。もしかして、自分に気があるってわかったから、俺をあえて突き放そうとしてんの?」


「違う。」


階段を降り切ると、廊下の隅に立って俺を振り返った西田は、腕組みをして壁にもたれて言った。


「じゃあ何でそんなこと言うんだよ。俺の痛みじゃなくても、友達が怪我したら俺は心配だしつらいよ。もっと気を付けてあげてればこんなことにならなかったんじゃって思うよ。もしそれが重症な怪我で、もう歩けないとかになったら、俺は一生自責の念で苦しむ羽目になる。だから別に押しつけがましく恩を売ってるわけでも、気遣いが過ぎるわけでもないよ。俺は俺のために気をつけろって言ってんの。わかんない?」


「・・・自分の為と他人の為が同義のパターンか。お前はいい奴だもんな。」


「何だよそれ・・・嫌味か?」


「嫌味じゃない。思ったことをそのまま発声してる。」


西田はしょうがねぇなぁみたいな顔をして、ニヤリと口元を上げてまた歩き出した。


「そういうお前の自由なとこも好きだけどな。」


「・・・お前は痛い目みるぞ。お前みたいな真面目な奴は。」


俺の忠告を西田はまた、ふんと鼻を鳴らしてあしらった。


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