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トレジャー奮闘記  作者: 藤 時鳥
2/4

トレジャー舞台の島

  ――― オオシドエ街・船着場 ―――


   暴走気味のルナディの買い物から一夜が経ち、

  トレジャーハント当日となった。

 現在の時刻は早朝5時23分、もう少しで出航の時刻だ。

  出航の時刻が近いのだが、船着場の待合室には彼らの姿が

  見受けられない。

  早朝・・・しかも目的の島に行く者など滅多にいない為に

  港には船や地元の関係者しかいなかった。


ユ「えー・・・っ、何で俺が一番なワケ?

  あとちょっとで出航だからてっきりビリかと思ってたのに・・・・・・」


   軽く息を荒げながら呟く人物が1人・・・最初に来たのはユウェンだった。

  乱れた髪を手櫛で整え、外に設置されたベンチに腰を下ろし深呼吸をする。


ユ「はぁっ、トレジャー行く前に疲れたし。

  こんなんならもっとゆっくりでも良かったじゃんか」


   ぶつくさ言いながら眼の前に広がる海原を見つめ、ふっと瞼を閉じる。

  波の音、優雅に飛び回るカモメの鳴き声、そして心地よい潮風を

  全身に感じながら彼はウトウトし始めた。


ユ(・・・・・・こういう感じを〝平和〟とか〝幸福〟というんだろうな・・・。

  俺は・・・――― )


   呼吸が一定のリズムを刻み眠りへと落ちていく。

  船の汽笛が鳴り響くも彼の意識を戻す事が出来なかった。

  彼を心地よい眠りから無理やり起こしたのは、

  約15分後に突如響いた張り裂けんばかりのやかましい叫び声だった。

  折角の心地良さが破壊されて不機嫌になるユウェン。


エ「そこの船、ちょっと待ったぁァァ―――ッ!!!!

  まだ乗ってないぞぉ―――ッ!!」


ユ「朝っぱらからやかましいわァッ!!ってかお前ら遅いんじゃァッ!!」


ル「ぅわぁっ、鬼がいる!!」


キ「すいませんユウェンさん!色々あって遅れました!!」


ユ「出航時間はとっくに過ぎてるんだぞ?何してた!」


リ「本当に待たせてゴメンね、今すぐ手続きしてくるからっ。

  先に船へ入ってて~!」


   バタバタしながら待合室にいる受付と船長に挨拶に行くリフィーユ。

  他のメンバーはイザコザしながらも船内へ入っていく。



  ――― 約10分後・出航 ―――


   汽笛が再度鳴り船がゆっくりと動き出していく。

  一同はというと甲板隅にある観覧席エリアの床に正座して縮こまっていた。

  ユウェンだけがベンチに座り腕を組んで4人を見据えている。


ユ「それじゃぁ話してもらおうか・・・・・・遅刻の言い訳ってヤツを」


ル「どっ、どっちかって言ったらルナ達は巻き込まれた側っていうか・・・

  あれはエルがさ・・・」


エ「んなっ、責任丸投げかよ!言っとっけど私だって被害者なんだぞ!

  あのアホ共が絡んで来なきゃこんな事にはならんかったんだから」


リ「運悪く居たもんだね。なんでこんな朝早くから活動してるのかなぁ・・・」


エ「時間の無駄遣いだよな?クエスト登録もしないでさぁー」


ル「もしかしてあの人っち、エルの事恨んでるんじゃないの?

  それで今回のルナ達の事調べて待ち伏せしてたんだよ、きっと。

  そうに違いない!」


リ「そもそもなんでエルは朝市の方に行ってたの?

  エルの家からここまでの道とは逆方向じゃん」


エ「あぁ、なんか食べ物ないかな~って物色しに行ったんだよ。

  私が家を出た時はまだまだ時間あったからさ」


リ「それが不幸の始まりになっちゃったんだね・・・」


  女性陣だけでキャイキャイ話している傍らで放置感に浸る

 ユウェンとキリュウ。


ユ「・・・・・・ワケ分かんねぇよ。キリ、ちょっと説明よろしく」


キ「えー・・・とですね、俺は集合時間の30分前に家を出て船着き場に

  向かってたんですけど、途中でルナディさんに会ったんです。

  それで一緒に行こうと思ったら何やら市場の方が騒がしかったので

  様子を見に行ったんですよ。そうしたらリフィーユさんが市場の

  おばさん達と一緒に店を直したり誰かを止めようと声を張り上げてました。

  嫌な予感がして騒いでる輩の方を見たら・・・」


ユ「・・・・・・エルが暴走してた、と」


キ「そうッス。しかも相手は売店のおばちゃんを困らせていたあの

  ヤンキーハンター達でした。止めようにもエルさん含めヤンキー達が

  我を忘れててめっちゃ苦労したッスよ。しまいにゃ俺達も

  『サル女の仲間だ!』とか言われて巻き込まれて。

  沈静化するのに時間かかって遅刻しちゃいました・・・すいません」


   ペコペコ謝るキリュウの姿を見ながらユウェンは眼鏡を外し、

  額と眼に手を当てため息をついた。


ユ「あー、光景が眼に浮かぶ・・・んで?そいつ等はどうなった?」


キ「市場の筋肉同盟のおやっさん達が役場に突き出してくれるそうです。

  その場にいたマダム達がエルさんには非が無い事を証言してくれて、

  俺達はお咎め無用となりました」


ユ「そっか、助かったな。

  これでこっちにも問題があったらトレジャー協会から何を言われるか・・・」


キ「一般人を巻き込んでのハンター同士の争いはご法度ッスもんね。

  帰ってきたら市場の人達に挨拶に行かないと。

  筋肉同盟のおやっさん達にはお酒を贈ろうかな」


ユ「それがいいな。それじゃぁ・・・・・・エル以外起立ッ!!」


   咄嗟に声を張り上げるユウェン。

  キリュウ、リフィーユ、ルナディの3人は条件反射の如く素早く

  体を起こすと、その場にピシッと立ちそびえた。

  一瞬の事で唖然とするエル。


エ「ぅおーい!!なんで私だけ逆指名の指示が出てんだよ!」


ユ「キリに色々教えてもらった結果、エルにはちょっと反省して

  もらおうかと思ってね」


エ「何でやっ?!おいキリュウ!!本当にちゃんと説明したんだろーなァッ」


キ「しっ、しましたとも!包み隠さず真実を」


エ「じゃぁ何でワシぁこんな惨めっぽい状況に陥ってんだよ」


ユ「被害者だってことは分かってるんだけど、

  我を忘れてバトルしてたって言うのがね~」


エ「そこは隠せよキリュウ!!」


キ「えぇーっ!!なんてとばっちりだ、あんまりッス」


   正座しながらもキリュウに怒鳴り散らすエル。


ユ「エルには15分間正座しながら皆から見下され

  いじられる刑を受けてもらおう」


エ「何だその地味な嫌がらせは!!」


ル「だってエルだし☆」


リ「そうそうエルだし☆ 大丈夫だって~、ちゃんと見下してあげるから」


   ニヤニヤしながらの見下しいじられタイムが始まった。

  反発厳禁という事らしく、ただただ皆から罰ゲームらしきものを

  受けるエルであった。




 ――― 孤島・「ファースアイランド」 ―――


   2時間近くの航海を経てようやくトレジャー舞台の島に到着した。

  船長に挨拶をして船から降りると壮大なる大自然が眼の前に広がった。

  あまりにも圧倒的で一瞬言葉を失う一同。


ユ「ヤバい・・・鳥肌がおさまらないんだケド」


ル「何このキラキラ輝いてる島・・・ちょっとワクワクしてきたっ」


キ「確かにここの土地、とてつもなく清く強い〝氣〟を感じる。

  一種の聖地に近いッスよ」


エ「ぅおおっ、楽しくなってきたーっ!早く森ン中に入ろうぜ」


リ「船長さん、今日の日付が変わるまで待っててくれるって。

  思いっきりトレジャーして来いってさ」


エ「いよーっし!!それじゃ早速探検だーっ!」


   強く意気込んでズンズン森の中へ入っていくエル。

  残りの4人も高ぶる気持ちを抑えられないようで走って

  エルの後を追いかけて行った。




  ――― 森林内部・祭壇エリア ―――


   地図と今回のクエスト情報が書かれたプリントを手に進んで行くと

  とてつもなく神秘的な場所に行き着いた。


エ「スゲー・・・何ココ~♪」


ル「いかにも宝が眠ってるって感じがするじゃん」


キ「東側が森で西側が崖か・・・どっちにお宝が・・・・・・?」


リ「よし、崖に飛び込めキリ!」


キ「え~っ、俺ッスか!」


ユ「キリなら行けるね☆ ・・・・・・ん、何だ・・・アレ?」


   森と崖の中心地に祭壇があるのに気付く。警戒しつつも駆け寄る5人。


ユ「!? にゃぁがいる!」


リ「ホントだ。・・・あれ、でも何か様子がおかしいよ」


キ「弱ってる見たいッスね・・・尻尾握っても、鼻つまんでも、耳のばしても反応が無い」


   弱っているのをいい事に祭壇上に横たわる黒猫に色々とちゃちゃを

  入れるキリュウ。


?「・・・ッ、貴様等!クロキ様に何をしとるニャッ!!!!」


   ――― バキィッ!!


エ「ぐぼぶっ!!」


ル「ぅわっ!エルが吹っ飛んだ!!」


   エルに飛び蹴りをかました物体は宙に円を書き地面に着地する。


ユ「しっ・・・白いにゃぁだ」


キ「今こいつ、喋ってなかった?」


?「こいつとは無礼ニャ奴・・・我はシロカ、この地を守護する者ニャ」


   白く綺麗な毛並みに高価そうな宝石付きのローブを纏っている猫が

  突如一同の前に姿を現した。

  白猫は素早く動いて祭壇上の黒猫の元へ駆け寄り一同を警戒した。


リ「すごっ・・・守護神かぁ、初めて見た。強いんだね」


エ「くっ、不意打ちとは!このクソネコヤロー・・・・・・っ」


ル「あ、起きたよ。タフだねぇ~」


シ「貴様等がクロキ様に手を出すからニャ」


ユ「クロキ様って、このにゃぁの事?」


シ「にゃぁって・・・。そうニャ、クロキ様はとても偉大なお方ニャ。

  この地そのもののエネルギーを司り島全体の自然を護って

  おられるお方なのニャ」


ル「でも、何か弱ってない?」


シ「・・・うぬ、クロキ様は闇の力によって体を侵されているのニャ。

  助けようにも薬草はここには無いニャ。ましてや我は此処から

  離れる訳にはいかん」


リ「あ・・・でもそのコ・・・・・・」


シ「悟ったか娘、そうニャ・・・このままではクロキ様は死んでしまうニャ・・・」


エ「何でそんなに落ち着いてんだよ!テメェの大事な奴なんだろ!?」


シ「ほざくな小娘が!!どんな気持ちで今日まで来たと思っている!

  我かて、クロキ様を死なせとうないニャ!」


キ「まぁ落ち着きなって。あのー、何か助かる方法はないんですかね?」


シ「・・・・・・1つだけあるニャ。ただ、容易ではないニャ」


エ「何だょ、それ」


シ「クロキ様を助けるには蒼光草が必要ニャ。だがそれは地上では手に入らぬ」


ル「地上に無い?じゃぁドコにあるの?」


シ「海底ニャ」


 ((海底ーッ!?))


シ「そうニャ。数百年前は地上にあった都市でニャ・・・

  宙からの天災を避ける為に海底に沈んだのニャよ。

  あの都市特有の土でしか育たぬ蒼光草・・・・・・

  あぁ、こんなに欲した事が今まであっただろうか」


キ「スケールでかっ!」


ユ「今その都市は・・・」


シ「わからぬ。機能しているかもしくは既に死んでいる可能性もある。

  ましてや蒼光草があるかも不確かニャ」


エ「だが諦め切れないんだろ?」


シ「当たり前ニャ!だが我は動けぬ・・・・・・」


ユ「わかった。じゃぁ俺が行く」


リ「ユウ!?」


   突然のユウェンの発言に驚くリフィーユ。

  他のメンバーもビックリしていたがエルだけは「やっぱりなぁ」

  という感じでケタケタ笑っていた。


ユ「苦しんでいるにゃぁをほっとけないからね。

  で、どうやって海底まで行けばいいんだ?」


シ「・・・本気で言っとるのか?死ぬかもしれぬぞ」


ユ「にゃぁの為に死ぬんなら本望だ」


シ「・・・・・・すまニャい。海底の行き来は我が自然の力を借りて

  主に術をかけよう。それで海中でも息や動きに支障は出ぬはずニャ」


ユ「わかった。じゃあ早速やってくれ。すぐにでも行動したいからね」


シ「承知したニャ」


ユ「じゃぁ、ちょっと行ってくるよ。クエスト放棄してゴメン、俺・・・」


エ「何言ってんだ?私らも行くに決まってんやろ」


ユ「えっ?!でもさ・・・・・・」


キ「抜け駆けはズルイぞ~。俺達、チームだし」


ル「そぉそぉ、皆で行った方が何かと効率イイでしょ?」


シ「・・・・・・・・・」


ユ「それだとクエスト放棄になっちゃうじゃん。

   後でトレジャー協会に罰則かせられるかもしれないよ?」


リ「未知なる領域で蒼光草を見つける・・・立派なトレジャーじゃない☆

  ネコちゃんの為にも皆で行こうよ!」


ユ「皆・・・ありがと」


シ「・・・よし、施しは終了したニャ。制限時間は日没、

  貴様等を信じておるニャ、無事に戻って来てくれ」


ユ「あぁ、必ず戻って来るよ」


エ「ぃよっし!じゃぁ、皆行くぞーっ!!」


 ((おぅっ!!))


   掛け声と共に走り出しシロカが指示する方角の崖から飛び降りる5人。

  シロカはクロキに寄り添い、皆の無事を祈っていた。



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