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あと3回、夢で逢えたその先の世界で  作者: 鈴虹色
第一章 
17/22

第17話 秘密の庭園




 あの昼食会から10日ーー。

 その間に私の宮には他国の王子や貴族から数えきれない程の宝石やドレス、希少な繊維で織られた絨毯や見たこともない異国の置物などが毎日のように運ばれてきた。最初の3日位は私も仕方なく受け入れていたが、あまりにも大量の贈答品に嫌気がさし、5日目には宮に出入りする者たちに制限をかけたおかげで、ようやくこの宮に静かな時間を取り戻すことが出来た。



 部屋に溢れかえる宝石や美しい反物、正直よく分からないけれど明らかに高価に見える彫像を見つめてはため息をついてしまう。しかし、王女である私にそのような価値あるものを贈ることは残念ながら無意味なことである。彼らがそれを理解していてもしていなくても、彼らは今後も私にたくさんの金銀財宝を贈ってくるだろう。贈り物は私個人ではなく、あくまでこの国の王女に向けて贈っているからだ。王の寵愛を受ける王女と婚姻を結べば自身の地位を強固なものにできるからだ。そこには彼ら、そして私の感情は完全と言っていいほど無視されている。それがこの地位にいる人間の生き方だと思うのも個人の自由であり、その通りに生きる者もいればそうではない者が存在することも確かである。



 私は自分がどんなに非難されようとこの王宮から抜け出してみせるし、私がそれを信じて疑わない。ここから出られるのなら、身分も宝石もドレスも、それを望む誰かに今すぐ全てを受け渡していい。自由を求めるにはこの身分は重すぎて、幸いなことに私は煌びやかな宝石や着飾るためのドレスにもほとんど興味がないからだ。しかし生きていくためにはお金が必要であり、数年前から資金集めを始めている。この資金は主に今私の部屋に山積みにされている目の前の贈答品を出来る限り換金しておくということだ。換金に関しては私が全面的に管理をしている。宮の管理を任せている侍女のラーレの母親のネリだけには、私が贈答品を資金へと変換していることを知らせている。



 贈り物が私に届いた時点で、それらは私の所有物となる。それを私がどう扱うかは個人の自由であり、誰も指図出来ない。ただ換金する際にあまりにも高価なものはそのまま保管となり、街で換金しても怪しまれない程度のものを厳選している。そしてそのお金は密かに街の金融機関に隠している。



 今日もこれからラーレと一緒に街へ出て、換金をしに出かける予定だ。その前に贈答品の金貨の一部を宮内にある広大な庭に隠しに行かなければならない。資金は街の金融機関以外に宮内にも資金をいくつかに分けて隠しており、庭は最も効率が良い隠し場所だった。



 そこは私の母が作ってくれた場所だ。庭の奥、茂みをかき分けた先にある小さな泉と石碑が存在する場所。不思議なことにここは私と母だけが訪れることの出来る場所であり、ネリやラーレでさえこの場所にたどり着くことが出来ない。なぜかは分からないけれど、そもそも私と母にしか見えない場所だった。



 その場所は私が子どもの頃母とこの庭を散歩していた時に、母の手によって一瞬にして造られた秘密基地だ。母と私が歩いてきた道は緑で塞がれ、母が何かの言葉を発した途端に目の前の平坦な地面からみずみずしく若い新芽が顔を出し、ぐんぐんと成長し辺り一面に小さく可憐な花をたくさん咲かせた。私がその不思議な現象に驚いていると、左手に空中から水の球がいくつも現れ、それらは大きな水の塊となり、地面へと落ち消えたかと思えば水面がキラキラと輝く小さな泉がそこに存在していた。その泉の水はまるで生きているようにゆらゆらと波打っていた。その泉に触れると、その水は冷たいのにとても優しい感触がした。



 泉の右側には小さな石碑のようなものがすでに建っていた。見た目からしてそれは石のようだけれど、触れてみるとその石碑は中が透明になったり柔らかいピンク色や黄色のオーロラのような動きを見せてくれた。その石碑のようなものは自由自在に色が変わるようで、まるで生きているように見えた。



 嬉しくて私が母を見上げると母の美しい黄金色の瞳が、眩しいほどに光り輝いて見えた。黄金色の瞳の中には夜空の星たちを散りばめたようだった。その星のような光はこの空間辺り一面に舞っていたようにも見えた。その光は目の前の泉の美しさも忘れてしまうほどに美しかった。黄金色という表現も私が普段目にする黄金という金属など、比にならないほどに母の瞳は美しく輝いていた。



「ママの目、キラキラしてとっても綺麗! 妖精さんみたい!」


 

 私の言葉を聞いた母は美しい瞳を丸くしながら優しく微笑んだ。



「ありがとう。サラに褒められて、ママとっても嬉しいわ」



 母はそう言って、私を愛情いっぱいに抱き締めてくれた。

 そして私を見つめてこう続けた。



「サラ、この場所はママとサラだけの秘密の場所よ。他の誰もここには来れないの。ふたりだけの秘密の場所。パパもここには来られないわ」



「パパも? じゃあネリも来れないの?」



「そうよ、ここはママとサラだけの秘密基地。ここにはね、宝物を隠す場所もあるのよ」



 そう言って笑った母はいたずらっ子のような瞳で微笑んだ。



「わぁ!! 秘密基地!? 宝物持ってきていいの?」



 秘密基地と宝物という、子ども心をくすぐる言葉に私はものすごく興奮した。



「もちろんよ。誰にも見つからないように、安心してサラの宝物を置いていいのよ」



 そう言って母は石碑の前に膝をつき、花が咲く芝生の上に手を置いた。すると母の手の下に、何もない空間が突如現れた。



「さぁ、ここに入れてね」



「うん!!」



 私は何度も頭を振って頷き、それを見ていた母は声を上げて笑っていた。



「ママ、大好き!!」



 嬉しさのあまり、私は母に抱きついた。母は私の頭を撫で、頬に優しくキスをしてくれた。



「ママもサラのことが大好きよ。愛しているわ。……()()私の元に来てくれてありがとう」



 母が私に向ける愛情溢れる瞳が大好きだった。誰よりも私を深く愛し、誰よりも私を見守ってくれた瞳。己を信じ自由を求め、この世界で一番勇敢で尊敬する人。最後まで平和と平等を貫いた高貴な人。



 窮屈に感じるこの王宮の中で、唯一安心して過ごせる場所が自分にプレゼントされたようでそれが私にはとても嬉しかった。私が18歳になった今でも変わらない、私にとって癒しの場所だ。



 そんな昔のことを思い出しながら、私は金貨の入った袋を手に持って庭の秘密基地へと1人向かった。この宮は今は最低限の人間しか出入りはないし、例え私を見かけたとしても秘密基地までは誰も入ることの出来ない。私と母だけが出入り出来る場所へ向かった。



 キラキラ輝く泉を横に、いつも通りに石碑下の空間を開けて金貨が入った袋を入れようとした時、ふと人の気配がした。



「誰かいるのか?」



 私以外の人間の声がした――。

   





___________





 1週間の謹慎を終え、再度王宮の座学を朝から晩まで2日間叩き込まれ10日目の朝を迎えた。

 俺は王より任命されたサラ王女の宮に向かって王宮内を1人歩いていた。この10日間、耳にタコが出来るほどに聞かされたイルファン騎士団長の言葉が脳裏に浮かぶ。



「サイラス、お前はサラ王女の専属騎士となる。辞退はもちろんこの決定に関してお前の発言権はない。今回はヒラル王女……いや、短期間の謹慎だけで済んだから良かったものの、今後何かあった時は……この世から消えることになる。お前も、俺も」



 王女の専属騎士入れ替え事件と噂されたのもたった1日、その件に関してはすぐさま箝口令(かんこうれい)が敷かれ、そのおかげで余計な噂話に悩まされることもなかった。


 

 王宮騎士団に属して3日で俺が王女の専属騎士に任命されるとは誰も想像できないほどの異例なことだった。入団の際に王に忠誠を誓う際、王が座る方から異様な視線を感じ取ってはいたものの、自身の見た目がこの国では珍しいだけだからと感じていた。それがまさか王女の護衛を任されるとは夢にも思わなかった。しかしその時その場に居合わせた別の王女に目をつけられたことに気づくことが出来なかった。



 その翌日、王族の命令を断る権利などない俺がヒラル王女の宮に呼ばれた時から嫌な予感はしていた。サラ王女には別の騎士をつけるから俺にヒラル王女の専属騎士になれという内容だった。そもそも当時王女の顔と名前が一致しない俺にとって、目の前に座る女が第2王女のヒラルだということもその時知った。ヒラル王女はサラにはすでに話がついているから安心していいと言われたが、俺は正直誰の専属騎士になろうがどうでも良かったというのが本音だ。むしろ困ることで、そもそも王族の護衛騎士になどなるつもりもなかった。



 ヒラルという名の王女が俺を見る目は、過去に誰かしらから向けられてきた目と同類だった。その目は正直吐き気を覚えるほどだった。その王女の目から逃れるように、俺はまた自身の感情を閉じることにした。



 外国出身の見た目はこの国ではあまりにも奇異な生き物に見られてきた。他国に奴隷として生まれた母から生まれた俺も間違いなく奴隷の身分であったが、7歳の時見た目の希少性から貴族の愛玩物として高く売られた。この世に地獄というものがあるとしたら、俺の生きる世界はどこまで行っても永遠に地獄なんだろうと思う他なかった。いずれ愛玩物として興味がなくなれば自然と体罰や暴力の対象となることを知り、13歳の時に刃のついた鞭が右眼を直撃した。俺は己が生き残るために初めて人間を殺した。有難いことに、罪悪感は一切生まれなかった。



 生きるために物を奪い、人を騙し、盗賊をしながら金を貯め、この国に流れ着いた時に剣の腕を買われ傭兵団に入った。幸いにも右眼が見えずともそこら辺の傭兵など簡単にねじ伏せることができた。その噂がどう流れたのかは分からないが、王宮騎士団の試験を受けないかと傭兵仲間に誘われた。王宮騎士団の試験は基本的に身分の規定があるものだが、その時の試験内容に身分の規定はなく、剣の能力重視というものだった。しかし例え試験に合格したとしても素性を調べられるのがオチだと知ってはいたが、なぜかこの騎士団に興味が湧いた。この腐った世界から抜け出せるかもと淡い期待を抱いてしまった。



 しかしその結果が王女の護衛を任されるとは想定外の出来事であり、そしてこの王宮という場所でさえも舐め回すような目で俺を見てくる人間が存在することに諦めを感じた。いや、もしかしたら以前より酷いかもしれないと直感した。



 ――それならば……王族だろうが何だろうが殺してしまえばいい。どうせこの世界は地獄なのだから。



 王直々の2度の命令に背くことは許されるはずもなく、こうして()()の護衛対象であるサラ王女の宮まで辿り着いた。宮を見上げてみると、他の王族の暮らす宮とはあまりにもかけ離れているように見えた。建物は白を基調としていたってシンプルだ。しかし所々にこの世のものとは思えないくらいに美しく精巧なデザインが施されており、王宮で見かける絢爛豪華な造りより、この宮がよっぽど好印象に思えた。



 2日間の座学でこの宮について学んだことは少なかった。外国から連れて来られた踊り子とその2人の間に生まれた王女の暮らす宮であり、母親はすでに亡くなって数年経っていること。存在する王子や王女の中で最も王に愛されている人間。あの日ライオンを従えていた赤い髪色をした王女のことだ。



 立っていた門番に名前を告げると、あっさり宮中に入ることが出来た。

 宮内もいたってシンプルだった。しかし外観にあったように至る所に美しい装飾が施されており、辺りは緑に溢れていた。どこを見ても豊かな緑と鮮やかな花が目にとまり、宮には良い香りが漂っていた。庭が見渡せる廊下を歩いていると、人の姿が見えた。声をかけようとしたが、なぜかやめた。



 緑豊かな庭の上を歩くその人は、紛れもない護衛対象の王女だった。



 王女は辺りを少し見回し、颯爽と歩き出した。どこかへ向かうのだろうか、彼女は重そうな袋を手に抱えていた。遠目から見ただけで確信はなかったが、あの袋の中身は形状からして金貨のように見えた。



 ーー王女が自分の宮で金をあんな風にして持つだろうか?



 護衛対象とはいえ、彼女に不審を感じて後をついていった。だからと言って一介の護衛騎士が王女に言えることは何もないのだが、なぜそんな行動をとるのかに興味が湧いた。どのみち専属の騎士なのだからこれからは常にそばにいることになる。それでも声をかけずに後をついて行ったのかは、なぜか説明できない。



 王女は目的を持って歩いているように見えた。()()()()に向かっているようだった。すると今の今まで目で追っていた王女が消えてしまった。辺りを見回しても、どこにもいない。気づかれてはいないはずなのに、王女が消えてしまったのだ。その時、背後に殺気を感じた。前にも感じた気配だ。ゆっくり振り返ると、王女のペットであるライオンが唸り声も出さずただこちらを睨んでいた。



 恐らく王女と俺の気配を察知して来たんだろうが、肝心の王女がどこにもいない。目の前のライオンの状態からこの場は身を引いた方が身のためだと感じ、一歩脚を後ろに引いた。その時、さっきまでなかった感触が脚に触れたことに気づいた。振り返ってみるとそこには何も存在しなかった。ただ緑豊かな庭が広がるだけ。でも後ろに引いた右脚に感じる感触は本物だと確信した。俺は目を閉じ、そのまま身体を後ろに移動させたーー。



 再び目を開けると目の前には緑の壁が立ちはだかっていた。振り返ってみると、そこには奥へと続く小道が存在していた。ライオンの気配はせず、上を見るとそこにはさっきまでと同じ青い空が広がっていた。不思議な空間だった。周りには現実のように感じる木々や花々があるものの、それらは初めて見る植物ばかりだった。恐る恐る奥へと脚を進めていくと、小道の曲がり角の先に人の気配を感じた。普段なら声をかけずに探るはずだか、不思議な空間のあまりつい声を発してしまっていた。




「誰かいるのか?」



 

 俺は無意識に剣を握っていた。いや、声をかけてしまった時点でどうしようもないのだが。敵であれば斬るしかない。



 そこにいたのは、さっき見失ったばかりの赤い髪色の王女だった。

 













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