039.動き
本日は2話投稿予定です。この話は1話目です。
「何、60階が攻略された? 我が国では50階すら未到達だったのでは?」
首相は、朝一番で緊急の報告を受けた。
それは信じがたいものだったが、報告者は嘘を言う者ではない。信用できるし信用できなくなったら終わりという立場の部下である。
「もしや例の?」
「はい。『疫病のダンジョン』です」
「ううむ、スキルというのは恐るべき存在だな。限界だとされてきたものがこうもあっさり更新されるか」
首相はうなった。
どこからか現れた得体のしれない不思議な力。同じく得体のしれないダンジョンを攻略するのに必要とされていて、なおかつ付随するもの。
全面的に信用するには不安があるが、スキルのレベルとやらを上げることでこれほど結果に差が出る以上、認めないわけにはいかないだろう。
「厚労省からスキルを信用しすぎるなと口を酸っぱくして言われ続けているが、もっと積極的な活用を考えるべきかもしれないな」
財務省からスキル税を新設すべきとも上申があったが、今の勢いに水を差すような真似はよろしくないだろう、と首相は考える。
逆に勢いを増し、世界をけん引する立場を固めるべきではなかろうか。
「会見と、そうだな、記念式典を催すのはどうだろう? その探索者を呼べるかね?」
「はい、いえ。会見はよろしいですが、式典はやめておいた方がいいかと。おそらく近日中に最深層はさらに更新されます。複数のパーティが競争している状態ですので、呼びつけると恨まれるでしょう」
「なに、それほどか!?」
60階でも驚いたというのに、先を争って攻略されているとは。
首相は、一つもしくはごく少数の特別なパーティが頭角を現したのだと思っていた。
しかし競い合いになるほどの状況だったとは。
この時点でスキルいうものの評価を上方修正したのだが。
「スキルについてこちらに新しい情報が上がってきております」
「ほう……分析済みの情報ではないのか。例の掲示板の情報はあてにならないのではなかったのかね……こちらは公式SNSの……一致すると」
その情報はいくつかのパーティが高レベルになったスキルの評価を拡散している内容だった。
中でも『健康』『睡眠』について特に詳しい。誰かが意図的に広めているのかもしれない。
とはいえ。
「この『健康』『睡眠』というのはうらやましいな。僕も欲しいくらいだ……いや」
首相も70代。この年になるとどうしても体の衰えは気になってくるし持病の一つや二つとは付き合っていかなければならなくなる。
内閣の仕事は激務でストレスもたまる。この国に未来がかかっているのだからそれは当たり前のことだが、人ひとりの肩には重すぎるものだ。
過去の首相にも病気で引退した方もいる。
いまなど、爆発事件の関係で過去になく近隣国のプレッシャーが強まっていることもあって、負担は大きいと言わざるを得ない。
同盟国から大統領が来ると言い出して急いで迎え入れる準備を進めてもいる。
内憂外患は常であるが、今回はその原因もまたダンジョンでありスキルである。
「どうだろう、僕もスキルをとれないかね?」
「えっ、えー、ダンジョンに入るには資格が必要ですが、資格試験は難しいものではないはずです。自衛軍は必要に応じて例外措置をとれます」
「首相は自衛軍の最高指揮官を兼ねていたよね」
「そうですね」
自衛軍は部隊編成に応じて訓練の範疇で資格を取るが、万一に備え、スキルを持たないままの部隊もある。彼らが非常事態にダンジョンに入れないと困るという状況を想定して、必要であれば資格がなくともダンジョンに入ってもよいという規則があった。
ただ、つい先日からスキルを活用する方向のウエイトが大きくなってはいる。
「一国の首相たるものがダンジョンやスキルなどという不可思議なものを頼っていいのか、と野党が騒ぎそうですが」
「万一の事態の際、不調や過労で倒れる可能性を減らすためなら利用できるものは利用するべきと答弁するかな。大体、騒いだところで今の流れでダンジョンを叩いて政権を奪えるとは思えるかね」
「思えませんな」
最近まではともかく、スキルのブレイクスルーからこちら、わずか1週間ほどの短い期間でも、世論が活発になり、スキルに対して好意的な意見が増えつつあることは報告にあった。
その上到達階層の更新だ。追い風になることは間違いない。
そして内閣調査室からは先行者利益を確保するべきとの上申もある。
状況が動くならその波に乗る、というのは賭けでしかないが、仮に自分がそれで叩かれたとしても、次の候補にスキルを持たない人材を確保しておけば、なにかあっても十分党は持ち直すだろう。リスクの少ない賭けであるから党の承認は取れると判断した。
「よし、会見の手配を。そして自衛軍にスキルの件打診してくれ」
こうして首相はダンジョンで史上初の『首相』のクラスと『健康』『睡眠』をはじめとするスキルを獲得することになった。
そしてさらに革新的な政策をうちだすことになる。
もっとも、革新的であることが必ずしもいいこととは限らない。
その評価ができるのは後の世になってからだ。
「ククク! 『難病の治療法を探そう会疫病のダンジョン支部』が60階制覇に成功したようだな!」
「奴らは我々『ご近所トップパーティ同盟』の中でもかのダンジョン攻略を最も悲願としているパーティ」
「然り。だが目的のアイテムは出なかったようだ。予防アイテムは出たらしいが」
『疫病のダンジョン』近隣の喫茶店の個室に、3名の探索者が集まっていた。
彼らは『ご近所トップパーティ同盟』という。
近隣のダンジョンのトップ探索者パーティのリーダーであり、ダンジョン攻略情報を融通しあう秘密同盟を組んでいた。
現在は『疫病のダンジョン』に一時的に拠点を移し、またレベルも下がって元の基準ではトップ探索者パーティと呼べなくなっているのだが。
そのうちの一人は女性であり、一人は釣り好きであり、一人は『ヒヴァ山のダンジョン』のトップ探索者パーティのリーダーだ。
「50と60を譲ったのだし、そろそろ義理を果たしたとみてもいいかしら?」
「彼らの縄張りに乗り込んできた負い目があるからな」
R・ダンジョン支援合同会社の募集に対応するため、地元でトップの『難病の治療法を探そう会疫病のダンジョン支部』に無断でこの地に乗り込んできた。
普通なら気にしなくてもよいが今回は違う。同盟メンバーなのだから。
かといってそれを理由にあの状況を見過ごすほど彼らはのんびりしていなかった。
『難病の治療法を探そう会疫病のダンジョン支部』からは状況的にやむを得ないと事後承諾を受けてはいるが、だからといってなにもなしでいいとも思っていなかった。
「宣言するけど、うちは100階を狙っているわ!」
「ほう。そこまで深いと考えているのか」
「なにかあるのかい?」
「きりがいい数字なら何かありそうに思わない!? ダンジョンの最深階が100未満だったら大失敗だけどね!」
威勢のいい若い女性は胸を張って言う。
二人の男性は顔を見合わせて苦笑いを交わして。
「ならうちは90階を狙うか」
「では80階を。70は引き続き頑張ってもらう方向でいいですかね」
「いいわ! もっとも、手をこまねいているようなら追い抜くけどね!」
一貫して自信満々の女性の態度だが、ほかの二人は気にした様子はなかった。慣れているのだろう。
「ところでお前さんとこは抜け道使ったそうだな」
「頭のいい参謀がいるからね! その代わり別の形で貢献しているわよ!?」
「まあ同じ時間ダンジョンに潜ったほうが利益出るでしょうからね」
ダンジョン協会経由で格安でスキルポイント稼ぎの恩恵を受けたことを指摘されても動じない。
穴があるなら利用しないほうが悪い。ダンジョンだけに。女性はそう考えていた。
男性たちも、彼女たちを学生時代から知っているのでひいき目もある。はした金とは言わないが、少々の抜け駆けくらいは気にしない。
そもそも違法でもないし真似しようとすればできるのだから。
「気に入らねえって言いだす奴も居そうだから気をつけなよ」
「真似してる連中も出ているから大丈夫だろうけどね」
「ありがとう! 注意するよう言っておくわ!」
ともあれ、『ご近所トップパーティ同盟』による紳士淑女協定が肝心の地元パーティ抜きとはいえ結ばれた。
しかし、『疫病のダンジョン』に集っているのは彼らだけではない。
『難病の治療法を探そう会疫病のダンジョン支部』にとっては試練の刻なのかもしれない。
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