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017.お願い

 ごすっ。

 どかっ。


 鈍い殴打の音が『疫病のダンジョン』6階に響く。

 ここは殺伐とした毒とマヒの巣窟。しかも臭う。

 ガスマスクをつけると息苦しい。

 風の防御魔法スキルを使うことで臭い対策できることを発見していなければ、つらさは何倍にもなっていた。


『こうして無理をお願いしたのにはもちろん訳がありまして』

『まだあるのかてめえ』


 ダンジョンを歩きながら話をする。

 スキルがそれを可能にする。

 罠探知。危険感知。魔力感知。敵意感知。気配察知。などなどのスキルを10レベルで使っていれば、このダンジョンの2層程度は散歩のごとく。


『神かそれに近しい存在から、遠くない将来この『疫病のダンジョン』で氾濫がおきるという助言をいただきまして』

「は?」

『神様って、そんなそんな』


 これまで以上に突拍子のないことを告げるリュウイチに、課長と元同僚は三度、驚きの表情を浮かべ、それから戸惑う様子を見せた。


 しかし、リュウイチ、加えてミイナとマリカ二人の真剣な表情を見て、考えを改めたらしい。


『本当なんだな』

『はい』


 2つの非常識な新事実を証拠付きで突き付けた後に、証拠を示せない衝撃の事実を重ねたことで信じるハードルを下げたということはある。

 証拠もない荒唐無稽な妄言を信じてもらうにはなにかしらの手を打つ必要があった。

 もっとも、嘘感知のスキルにかけてもらえば嘘でないということはわかるのだが。それでも事実だと信じている妄想だとか夢を見たとか、そういう解釈は成り立つ。

 これも必要なことだった。


 リュウイチは、謎の黄昏の空間に呼び出されたときのことを包み隠さず話した。

 『帰還』スキルに介入する形で連れ込まれたこと。

 ダンジョンの氾濫を示唆されたこと。

 そして、近い内ということはわかっても、具体的な時期は限定できないこと。

 止めるために今までにない深さまでダンジョンを攻略する必要があり、ダンジョンのモンスターを狩ることで時間を稼げること。


『近いうち、か。事実ならダンジョン協会を挙げて対策しねえとならねえが……』

『信じてもらえませんよね。信じてもらえても、いつ来るかわからないと対応のしようが』


 今日明日ではないから明後日、というわけではないだろう。そうだとしたらすでにどうしようもない。

 だがあの超越存在の時間感覚を人間同様と考えるのも危ういことだという意見ももっともである。

 結局いつになるかわからない物に備えよ、もしくは今すぐ総動員体制で対策せよ、なお証拠はないしいつまで備え続ければいいかはわからない。そういう話になってしまうのだ。

 公開の仕方を間違えれば、信用されず、オオカミ少年になりかねない。

 もともとどこのダンジョンでも氾濫の可能性は考慮されている。備えが足りているかは別として。

 変に騒げば騒いだ人間の信用が失われてしまうだけになってもおかしくない。


『厄介な話だな』

『だもんで、協力をお願いしたいと』

『腹案があるんだな? 話してみろ』


 リュウイチは、3人で考えた行動案を、課長たちに説明した。


『おめえはよう……ほんとによう』

『よくそんなこと思いつくよね』


 呆れられたのだった。




『あ、それと健康スキルマジいいですよ』

『へえ』


 ついでに『健康』を布教した。











 その日。

 R・ダンジョン支援合同会社への業務委託にかかる試験の追加実施をとある課長の権限において実施することが決定された。ダンジョン協会職員からレベル10に満たないものを優先して対象とすることとなった。

 加えて、R・ダンジョン支援合同会社のダンジョン協会における担当職員として、ミイナが指名された。


 そして、ダンジョン協会の依頼ネットワーク上に、新たな依頼が発行された。



 ■スキルポイントを獲得させます。

 費用:100ポイントあたり100万円。成功報酬。

 条件:1年間『疫病のダンジョン』で活動すること。

 クラスチェンジを受け入れること。

 『疫病のダンジョン』に足を運べること。

 ただし、サポータークラスの方に限り、初回1万円。

 応募の際は志望クラスを併記するようお願いいたします。

 期間:最大1日(契約による)

 発注者:R・ダンジョン支援合同会社

 連絡先:『疫病のダンジョン』ダンジョン協会 依頼管理局留


 ■サポーターのレベルを10まで上げます。

 費用:通常1万円のところを期間限定で今だけ1千円!完全成功報酬!

 条件:サポータークラスに就いている方。

 『疫病のダンジョン』に足を運べること。

 期間:最大1日

 発注者:R・ダンジョン支援合同会社

 連絡先:『疫病のダンジョン』ダンジョン協会 依頼管理局留



 これを見たある探索者は考えた。

 怪しい依頼である。

 後者は先日出されたものとほぼ同じものだが。前者はこの上なく怪しい。探索者の常識としてあり得ない荒唐無稽な話。こんなものを鵜呑みにするやつがいたらひっぱたいてわからせてやるべきであろう。

 しかしながら、ダンジョン協会が関わっていることがうかがえる。

 まさかだが、こんなことがあり得るのだろうか。そんな発表はない。どういうことだ責任者を出せ。このR・ダンジョン支援合同会社というのは何者だ。

 調べてみると、ダンジョン協会から業務委託を受けるため考査中であるようだ。


 ここからの反応はそれぞれであった。


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