016.衝撃の
『どうするん?』
『どうもこうも、俺たちの手に負える話じゃないよ、これは』
『俺が全部まとめて何とかしてやるぜー、みたいな人じゃないですからね、この人』
ひとまず話し合いをしよう、ということになったのだが。
落ち着いた場所、例えば喫茶店の個室だったり、誰かの自宅だったり、あんな話を聞かされてそういう場所でゆっくり話をしようというのは逆に落ち着かない、とマリカが主張したので、スキルポイントを稼ぎながら話をすることになった。
毒餓鬼やマヒ鬼を撲殺しながらのほうが落ち着くというのもなかなか特殊な感覚である。
もしかするとマリカはワーカホリックの気があるのかもしれない。まだ学生だというのに。
「じゃあ、他に誰がこの事態に対応できるっていうの?」
思わず声に出して訴えるマリカ。
ことがことだけに焦っているのがよくわかる。
『ちょっと考えてみてくれ。俺たちのクラスはなんだ?』
『それは、サポーター、じゃけど。でも、』
『戦いの経験は少ないし、へたくそだ。レベルやスキルが折り合ったとしても、プロフェッショナルには到底及ばないだろう。他のクラスのスキルを持ってはいるし、高レベルではある。時間があれば経験を積んで自分で強くなれるかもしれないが』
『今日明日じゃないにせよ近くに、ってことだと怪しいですね。100階にたどり着くだけでも時間がかかるでしょうし』
初見の階層を探索するのは時間がかかる。5階を2時間で踏破できる知り尽くした階層とは違うのだ。経験はその探索の間に積めるかもしれないが――。
その時間を、氾濫が待ってくれるとは限らない。
『俺たちは英雄にはなれない』
「そんな!」
『それにな、マリカさん』
リュウイチは言った。
仮に今回氾濫を止めることができたとして。
しかしダンジョンはこの『疫病のダンジョン』だけではない。
世界中のダンジョンの氾濫を止めるために駆けずり回るのか。駆けずり回った程度で手は足りるのか。
マリカは、それを聞いてうなだれてしまった。
「もう一度確認しよう。俺たちのクラスはなんだ?」
「サポーター……です」
肩を落としたまま答えるマリカ。
『だからできることがある』
「え?」
『そしてどちらにしても、まずすべきことは足止めだ。これも俺たちだけじゃ無理だけどな』
『じゃったら、どうするん?』
『他人を巻き込むんだよ』
『わたしたちは他人をサポートするわけですねー』
リュウイチに詰め寄るマリカを引き離しながらミイナがまとめた。
『段取りを考えながら話すから、何か気づいたら言ってくれ』
『はいはい』
『は、はい』
マヒ鬼を殴って、リュウイチはにやりと笑った。
「課長、新発見があったんですが、言っても信じてもらえない類のことなんでちょっと付き合ってもらえませんか。できれば部長と、誰かサポーターを連れて」
「あん? 部長は今日は休みだぞ」
ダンジョン協会、日曜の夜番。
部長と課長が揃って居ることはないと知っていたが、リュウイチはあえて部長のことにも言及した。話の規模が大きいことを示唆するためだ。
「退職した云々は言わねえけどよ、そんな大ごとなのか?」
「一探索者として、ダンジョン協会の管理職以上の方の耳に入れるべきと考えます」
「同じく」
「ダンジョン協会職員としても同意見です」
同行していたマリカ、ミイナも真剣な表情で頷いたことで、課長は納得してくれたようだ。
「わかった。じゃあそうだな、誰かサポータークラスの者、来てくれるか?」
「あ、私行きまーす!」
先日、安かったらサポーター支援を利用したいといっていた、リュウイチの元同期が手を挙げた。
「どうせなら6人で行きたいんですが」
「馬鹿、夜は最低限の人数でやってるんだ、そんな大勢引き抜けるか」
というわけで、5人パーティを結成したのだった。
残って仕事をする職員にはごめんねと謝っておいた。
ダンジョンゲートを抜けてダンジョンに入る。
「『帰還』」
「お、おい?」
突然『帰還』スキルを使ったリュウイチに、課長が戸惑った声を上げる。
次の瞬間、5人は帰還の水晶の前に立っていた。
「なっ!?」
「ええっ!?」
驚きの声を上げる課長と元同期。
ダンジョンから脱出するスキルであったはずの『帰還』によって、ダンジョンの奥に進んだことになる。
『ここは5階と6階の間の水晶です。あ、それと、これはパーティ内意思疎通のスキルなんで、ここからはこれで話しましょう』
リュウイチはここぞとばかりに畳みかけた。課長は絶句。元同期はうわーうわーときょろきょろあたりを見回していた。
『まだあるんです。こっちに来てもらえますか』
そういって、リュウイチは5階のボス部屋に誘導する。
『あ、課長がいたら等分できませんね。課長、クラスチェンジする気はないですか? サポーターに』
課長はバリバリのたたき上げで、若いころはガンガンダンジョンに潜っていた戦闘職である。レベルはリュウイチの記憶だと31か2だった。
『いや、それは……』
混乱していても、さすがに拒否する課長。
十年以上かけて積み上げたレベルだ。いきなりクラスチェンジしろと言われても頷けない。
『わかりました。じゃあちょっと彼女と二人で行って倒してきます』
『あ、私? レベル上げてくれるのね!』
『ああ。いいか?』
『よろしく頼むわ』
元同期を連れてボス部屋に裏から入る。階をまたぐとパーティの恩恵は届かず、一時的に2人と3人パーティに分かれる形になる。
そして当然、首尾よくボスは倒され、元同期はレベルアップして。
水晶の間に戻ってくる。
「あ、あの課長、スキルポイントが」
「どうした?」
「スキルポイントが100以上増えました」
「はあ?」
立て続けに衝撃を与えられて、課長は混乱が止まらない。
「課長、クラスチェンジしませんか?」
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