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015.奇跡体験

本日は2話投稿しています。

 その場所は、神社のように思われた。

 なぜならば、目の前に巨大な鳥居があったからだ。

 夕焼け色の空の下。

 鳥居の奥には高床式のさらに巨大な建造物が。

 両者は石畳によって結ばれており。

 それ以外の方向には、地平線が見えている。

 動くものは自分たち3人以外にはなく。


「ここは……どこだ?」


 リュウイチが思わず漏らした声は、ミイナとマリカの心も代弁していた。

 何が起きたのか。

 いや、わかる。

 『帰還』を使ったら、この場所に移動していた。

 だが、それは異常な現象であり、何がそうさせたのか、それがわからない。


「せっ――リュウイチさん、ダンジョン端末が開けません」

「なに? ……力が出ない。スキルも機能していないのか」

「スキルが使えない? 『帰還』……あわわ、本当だ」


 恐ろしく厄介な状況に陥ったということは、みな理解した。

 リュウイチたちの安全を担保していたのはスキルである。

 それが使えない状況で、どこかもわからない不可思議な場所に、ポツンと置き去りにされていた。


 誰かが唾を飲み込む音を、リュウイチは聞いた。それは自分だったかもしれないし、全員だったかもしれない。


「これは、ここを進めってことだよな」


 目の前の鳥居と、石畳の道、そして木造の建物。

 それ以外はなにもない。ただただ広がる黄昏の世界。

 そんな風景を見れば。


「そう思います」

「私も」


 ここに3人が立っていることが、誰かの意図によるものなのであれば。

 鳥居をくぐり、石畳を進み、建物へとたどり着けと、言っているように思われた。


「じゃあまあ、行くしかないか」


 リュウイチは大きく息を吐いて身構えていた体から力を抜き、努めて気軽に聞こえるように言った。


「二人とも離れるなよ?」

「もちろん」

「はい」


 女性二人に声をかけてから正面へ向き直る。

 リュウイチが足を踏み出すと、ミイナは右側に、マリカはそれを見て一瞬迷うそぶりを見せたが左側に、ぴたりとリュウイチに寄り添い足を進めた。



 石畳の道は、思った以上に長かった。

 奥にある建物が、尋常でなく大きかったからだ。

 遠くにあって小さく見えるものを、頭が人間サイズの存在が利用する前提の大きさとして錯覚させたのだ。


 太さが数メートルはありそうな柱に支えられた床は、目視で見当がつかない高さにあり、地と床をつなぐ階段は1段が1メートルを超えている。

 この階段を使う存在がいるのであれば人間の4~5倍かそれ以上の身長を持っているのではないだろうか。


 その階段のふもとまでたどり着いたリュウイチたちは、建物を見上げ、改めて圧倒された。


『ダンジョンを探索する者よ』


 突如、頭の中に意思が響いた。

 それは、スキルによる意思疎通に似ていたが、それよりも強力で厳かで、一方的だった。

 思わずリュウイチは体を硬くした。両脇の二人も同様だったことで、同じ意思を聴いていることを理解する。


『ダンジョンを探索する者よ』

「なんで2回言ったんだ?」

『聞こえてないかのと思って』


 圧倒的な存在感に、取り繕う余裕もなく思わず漏れたリュウイチの本音に、返事が返ってきた。

 両脇の二人が噴き出す。

 一気に場の空気が弛緩した。


『聞こえているならまずは聞け。近く、汝らが探索するダンジョンより無数の鬼があふれ出るだろう。これを止めよ』

「鬼が」

「あふれ出る?」

「っ、氾濫か!」


 ダンジョンの氾濫。

 簡単に言えば、大量のモンスターがダンジョンから出てくる現象で、世界全体で何度か確認されている。

 通常、モンスターはダンジョンの入り口から出ないし、階層を移動することもない。少なくともそう思われている。

 しかし氾濫が起きた際にはそんな挙動は無視して地上に現れる。確認されているモンスターはもちろん、確認されてないおそらくはより深層のモンスターまで。ダンジョンの入り口から文字通りあふれ出すのだ。

 そしてモンスターは人を襲う。また、出現するモンスターの質量そのものも脅威である。

 氾濫の被害を減らすため、ダンジョンゲートがあり、ダンジョン協会がある。

 しかし、それだけで止められるものかといえば、氾濫でダンジョン外にモンスターが現れたが水際で防ぎ切ったという例はない。

 いずれも戦略兵器を投入し、更に高レベルの探索者が命を張って強力なモンスターを倒すことでようやく沈静化していた。


 そういうダンジョンによる災害が起きる。

 そのように、この謎の超越者は言っている。


 リュウイチは、疑わなかった。

 疑えなかった。

 『帰還』スキルに介入してリュウイチたちをここに連れてきて、スキルを無効化して直接意思を示してくるこの存在を、疑うことは無意味だったし、たたきつけられる意思は、少なくともこの存在はそのように認識しているということを理解させるものだった。


『神域が鬼に侵されぬようにせよ。果たせば、報いを与える』

「神域とは」

『汝が餓鬼玉を納めた地と、その下にあるすべての地』


 超越存在の正体がなんとなく分かった。


「近くとは」

『今日明日ではない。だが猶予はさほどないものと認識せよ』

「氾濫を止める方法は」

『100階に巣食う鬼を狩れ。さもなくばダンジョンの中の鬼を数多狩り続けよ。時を稼げるであろう』


 100階。

 人類は、すべてのダンジョンを含めても50階を攻略できていない。

 『疫病のダンジョン』に限れば40層が未攻略だ。

 ついでに言えばダンジョンは深層になるほど一つの階の面積が大きくなる傾向があり、5階まで最短で歩いて2時間かかる。


「……何か、攻略のヒントを」


 無理だ、という言葉がリュウイチの頭の中を支配する中、ミイナが横から口をはさんだ。

 それは、いかにも図々しい問いのように思えた。

 しかし。


『水晶の間を拠点とし、帰りつく地と定めるべし』

「! 感謝します」


 想像以上に有益なヒントが出た。

 リュウイチはミイナと顔を見合わせて頷きあった。

 それを見ていたマリカも、何か尋ねたほうがいいと思ったか口を開く。


「あの、なぜ、私たちを?」

『かのダンジョンで特に成長著しい様子を見せていた故に』


 『パーティ取得スキルポイント増加』のせいだった。

 いや、おかげというべきか。













 気づけば3人は、5階の帰還の水晶の前に立っていた。


「いまの、夢じゃないですよね?」

「氾濫」

「うん」

「ですよね……」


 共通の体験をしていたことを確かめ合った3人は、その場で崩れるように座り込んだ。腰が抜けてしばらく立ち上がれなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 50階が100レベルぐらいとすると 100階の鬼を倒すのはレベル300は欲しいですね!偏屈冒険者がでてきそうですが
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