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014.順風満帆

「あの、お二人はどういう関係なんです?」


 日曜日。

 昨日の予備日として開けていたこの日だったが、リュウイチは相も変わらずダンジョンに潜っていた。

 退職してからこちら、毎日働いている。

 おかしくないか。働きすぎではないだろうか。


 そして一人ではなく、『R・ダンジョン支援』のアルバイトとなる予定のマリカと、『R・ダンジョン支援』と直接関係のないダンジョン協会職員ミイナが同行していた。


「どういう関係、ねえ」

「恋人なんですか?」


 難しい顔をするリュウイチに、女子大生がずばりと尋ねる。

 リュウイチは少し考えて、何とか答えをひねり出した。


「うーん、個人的なパートナー?」

「そうね、あとは結婚するためにリュウイチさんが頑張ってくれてるところなの」

「え、そうだったんですか! きゃあ! いいなあ!」

「そうなのかな」


 口をはさんだミイナの答えに、黄色い声を上げたマリカ。

 一方リュウイチは首をかしげていた。


「ええ、なんなんですかー?」

「なんかよくわかんない関係なんだよね。まあミイナの言ってることは半分くらいあってると思う」


 よくわからない答えに、よくわからないという顔をするマリカ。ミイナは一人ニコニコとしていた。


「結局私はミイナさんをどう見たらいいんでしょうか。バイト先の上司、ではなくて。ただのダンジョン協会の職員さん、というのも……」

「ああ、そうね、とりあえず今は、同僚くらいに思ってもらったらいいわ。秘密を共有する仲だしね」


 恋バナがしたかったわけではなく、どう対応すべきか迷っていたらしい。

 なるほど、ミイナはR・ダンジョン支援のくくりからするとイレギュラーだ。気持ちはわかる。

 とはいえひとまず解決したということで今後の課題としよう。

 リュウイチは心の中のメモに書き加えていると、モンスターと遭遇。


「まあとりあえずやることをやろうか」


 リュウイチが餓鬼を殴る。


「あのちょっと今1レベルで115ポイント上がりましたけど!?」

「あ、うんそうなんだよ。2ポイントはマリカさんのスキルの効果だよ。昨日二人が11レベルになるまで頑張った成果だね」

「いや、はぁぁぁぁぁ!?」


 昨日、不自然過ぎない程度に時間を調節するためもあって、予定のレベル10ではなく11まで二人のレベルを上げていた。

 それは30ポイントのスキルポイントを男子高生と女子大生が得たということだ。

 それだけでも、トップ探索者の半分以上のスキルポイントである。


 だが、今回はその3倍以上も取得してしまった。


「あのちょっと、まだ聞いてないことがあるんですか?」

「まあそれはね、多少はね? ああそうだ、これからはこれを使って会話しよう」


 『パーティ内意思疎通10』の『手加減』を解除する。


『わかる?』

「え、なんなん、これ?」

『テレパシーか、それに近い連絡手段みたいですねー』


 意思疎通可能距離はスキルレベルによるらしい、無言で会話に準ずる意思疎通を行えるスキルである。

 秘密の話をするのには非常に都合がいい。


『口に出さないで伝えたいと思うことを考えてみるといい』

『これでええんかな?』

『おーけー。素のしゃべり方が出るみたいだな』

『あっ、いけん。こんな話し方じゃないんじゃけど』

『ちくわ大明神』

『ミイナさんはネタに走るんじゃありません』

『存在感を出していかないと寝取られたら死んじゃいますから』

『ひぇ』


 ミイナ怖っ。

 リュウイチとマリカの心が一致したが、意思疎通に乗せなかったので誰も気づかなかった。





『今後の予定なんだけれども』


 レベル上げをしながら話を進める。


『まず、今日中に二人には1レベル当たり20か28ポイント稼げるようになってもらう。それだけあれば、俺の手を離れてもいくらでも稼げるだろうから。ボスを倒せればだけれどな』

『俺?』

『あいや、私の手をだな』

『リュウイチさんも素が出とるんですね。気にせんでもええですよ』

『要練習かもしれないな。まあいいや、今はお言葉に甘えるぞ』


 テレパシー、ぽいものは意図は伝えやすいが言葉の使い分けに難があることが分かった。


『続けるぞ。ここのボスは低レベルでも攻略する方法があるからそれを教える。ただ、それを使わなくても力押しで倒せるスキルも持っておいてもらいたい。サポーター以外のクラスのスキルでもいいが、サポーターのスキルでも十分できる』


 同じクラスにクラスチェンジはできないから、別のクラスを経由する。その過程で戦闘が得意なクラスのスキルを覚え、高レベルにすれば1層ボスの突破は容易だ。

 ただ、サポーターのスキルで強化した固定値と毒耐性でごり押しすればもっと安全ともいえる。


『基本的にダンジョンには従業員二人以上で潜るようにしたいから、無理にソロ撃破できなくてもいいけどな。できるほうが望ましい』

『わ、わかりました。あの、じゃったら直近で従業員を増やすんですか?』

『サポーター育成の依頼に応募してくる人がいたら勧誘する。ひとまず1パーティ組める6人は集めたい。2人にも3人にも分けられるしな』

『なるほど』

『で、人員を増やすに伴って合同会社を設立する。入れ物があったほうが加入もしやすいしその後もスムーズになるはずだ。これは申請しているから次の週末までには認可が下りる。マリカさんにはこの会社の従業員になってもらう。当面はアルバイトで、将来的には正規雇用の予定、でいいんだよね?』

『はい! それまでに潰れとらんかったら是非』

『お、おう』


 今後の希望溢れる展望を話す。

 ここまではおおむね順調。マリカ勧誘に成功したことで、リュウイチは一安心していた。

 同じように勧誘していけば求める数はそろえられる。

 仮に空中分解してもいい。ある程度の数を十分に育ててしまえばリュウイチへ向く注意は分散される。

 なにも、問題はない。





 5階では、生肉を使ったボス攻略を教えた。


「これ知ってたら、まだ前のパーティで探索してたかもしれません」

「調べれば出てくるんだけどな」

「地方都市の不人気ダンジョンですからねえ。特殊な攻略法があること自体が知られていないかもしれないです。ダンジョン協会もわざわざ教えませんし」


 ダンジョン協会は別に秘密にしているわけではなく、積極的に教えていないだけだ。

 1層のボスごときを倒すのに1から10まで教えてもらうようではどうせその後も続かないだろうというスタンスなのである。

 自分で調べるなり、せめて職員に尋ねるくらいの労力をかければ見つけられるし、力押しでも6人協力すれば十分攻略可能なのだから。

 結果、サポーターが脱落するような事例も増えるわけであるが。


 6階以降はレベル上げにいそしんだ。

 レベル10以上になればクラスチェンジを行う。を繰り返す。

 マリカも感覚がマヒしてきたのか。


「『健康』をとると肌つやがよくなったわ。マリカちゃんは若いから必要ないかもしれないけど」

「ほんとですかそれ。取りますよ私も! 取りました!」


 といった勢いでスキル10レベルをポンととる。

 まあ健康は当たりスキルだとリュウイチも思う。

 ここのところの連勤も気にならないし、ミイナと遅くまで起きていても翌朝すっきり目が覚める。これは『睡眠』の効果か。



 ともあれ、新しい仲間とのコミュニケーションも取れたしスキルポイントも稼いだ、ということで、17時には『帰還』した。








 はずだったのだが。


「ここは……どこだ?」


 『帰還』スキルでダンジョンゲート前に移動したはずの3人は、見知らぬ場所に立っていたのだった。

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