011.依頼と6階と
本日は2話投稿しています。
ミイナの貴重な休日を二日続けてダンジョンに費やした。
その成果として、ミイナのスキルが大きく強化された。
副産物は他にもあるが、ミイナの安全面が多少なりとも補強されたことはリュウイチにとっても有益なことだった。
この先何かしくじったとき、あるいはしくじらなくとも、リュウイチの近くにいるミイナが巻き込まれる可能性はある。
二人が離れる気がないのであれば、なにかしら保険は必要だった。
スキルレベル10といえば現段階では世界トップといえる。
レベル不足でステータスが低くとも、危険を避けるためならこれらのスキルは用をなすだろう。少しは安心材料になる。
代償としてミイナもリュウイチほどではないが特別な存在になってしまったが、こちらは近いうちに解消される。しばらくの我慢である。
そして、さらに三日間、リュウイチはガチャ通いを続けた。
一日6周、約12時間。三日で18周。
ダンジョン協会に勤めていたころよりもよほど働いている。
そんな生活でも体調はむしろ以前より良かった。『健康』『睡眠』スキルのおかげかと思われる。気をよくしたリュウイチは、スキルポイントの端数でほかにもいくつかハズレと評価されているダンジョンや戦闘にかかわりのなさそうなスキルを取得した。
「あれ、今回は納品するんスね」
「ああ。スキルが当たったからな」
「え、マジっスか。どんなスキル引いたんすか!?」
「それはー、まあ秘密だな」
「えぇ~」
その三日間の最後の日。
リュウイチは餓鬼玉を換金した。
ガチャでスキルが当たったのは事実である。そのスキルは秘密にする。尋ねられてもごまかすのだ。しかし、喜んでいる様子を見せる。
実際に当たったのは『口内炎になりにくい』というスキルだった。あって損はないように思えるが、『健康』の範疇でもありそうで、そこまでうれしくはない。
ただなんであれスキルが当たったという事実はうれしかった。事実と違うことを装う必要が一つ減ったからだ。
『パーティ取得経験値増加30→50』
『パーティ取得スキルポイント増加30→80』
『サポータースキル強化67→83』
「相乗的に増えていく……どうするんだこれ」
自宅で一人になったとき。
どうするも何も自分でやっていることなのだが、リュウイチはわかった上で独り言ちる。
リュウイチの計画では、今この時が最もハイリスクといえる。
やはり『サポータースキル強化』の存在のやばさが頭一つ抜けている。
だが同様のスキルがほかのクラスにもあるとすると、やはり人類はまだまだダンジョンを知らないのだろう。
主語を大きくして現実から目をそらした。
翌日。
木曜日の午前中に、必要な手配と準備を進める。
書類を作り、不動産屋を訪ね、税理士と会い、貯金を崩して買い物をする。
そしていつものダンジョン協会へやってきた。
「『サポーター』クラスのレベルアップ支援、レベル10まで上げたいサポーターを募集、ですか。リュウイチさんが上げてもらうのではなく、ほかの人が上げる手伝いをするわけですか」
「ああ、10まで上げればクラスチェンジできるからね」
依頼窓口で、同期だった職員と話をする。
依頼を受注するのではなく、発注するのだ。
発注の内容は、レベル10未満のサポーター募集。依頼人、つまりリュウイチがレベル10まで引き上げる代わりに報酬を請求する、というもの。
期間はレベル10になるかどちらかが終了を求めるまで。初日はお試しとして気に入らなければ無償でキャンセルしてよい。
そして報酬金額は1万円、完全成功報酬と設定した。
通常は依頼人は探索者に何かをやってもらって、報酬を出すのだが、これはその逆になる。
ただし、依頼窓口ではパーティメンバー募集も取り扱っているので、こちらの検索にも引っかかるようにしてもらう。
狙いはもちろん、取得スキルポイント増加持ちを増やすことである。
そのためにはサポーターを育成しなければならない。
それゆえのサポーター募集である。
サポーターは一見有用そうなスキルに恵まれているが、スキルポイントがレベルごとに1ポイントという前提で実際に運用してみるとそれほどでもない。
なのでよく知らずにサポータークラスに就いたり、転職してみたが、思うようにいかなくて最初のボスを倒せないままのフェードアウトするサポーターが意外と存在する。
さらに言えば、ダンジョン協会職員のなかにもレベル10未満のサポーターは多い。リュウイチとミイナもそうだったように。
そういったサポーターの救済、という名目をリュウイチは取ることにしたのだ。
レベル10まで上げることができればクラスチェンジができる。
そうなれば改めて別のクラスで再出発できるのである。
需要はあるはず。
だまし討ちのような形になるが、想像以上に利益があるというだけなので甘んじて受け入れてもらおう。
以上がこの依頼にかかわる目論見だ。
もちろん元同僚にはそこまで教えていない。
「もうちょっと安かったら私も頼むんだけどなあ」
「ははは。応募がなかったら値段下げるかもな」
需要はあるようだ。
リップサービスだとしても、全く思わないなら出てこないだろう。
レベルが上がるとわずかでも身体能力が上がる。それはダンジョン外での生活や仕事においても役に立つ。米を買ったとき少し楽になるくらいのことでも、コスト次第では考慮に値する。はず。
その後、餓鬼玉の依頼を受けてダンジョンへ。そしてボスを倒した後、6階へと足を踏み入れた。
「一人で6階は初めてだな」
クラスチェンジによりレベル1になって6階をうろつく。
一度、研修でボスを倒した後足を踏み入れたことはあった。
その時は同僚6人のパーティだったのだ。
少し緊張するが、落ち着いて考えれば何ほどのことでもないはずだ、とリュウイチは意識する。
マップは把握しているし、モンスターの知識もある。前職さまさまだ。
『疫病のダンジョン』2層、6階には通常の5階のボスを通常の餓鬼サイズにした通称『毒餓鬼』と、爪の攻撃を受けるとマヒしてしまう通称『マヒ鬼』が出現する。
毒餓鬼は餓鬼玉を落とすがマヒ鬼は落とさない。代わりにマヒ解除ポーションを落とす。
マヒは行動不能になる危険な状態異常で、ゆえに単独での探索は非推奨とされているのがこの6階以降である。ついでに言えば腐臭が普通に臭いのでそれだけでもここが好きというものは少ないだろう。つまり不人気な狩場といえる。
「『予防』」
だが、リュウイチにはマヒ耐性もあり状態異常耐性もある。
さらには状態異常を1度無効化する『予防』スキルを使用して、対策は万全。だと思いたい。しかもガスマスクもある。
6階にやってきたのはほかでもない。
5階までの周回はもう必要ないからだ。餓鬼玉ガチャはもう終わりなのだ。
ボスの経験値は雑魚より多いが遭遇できる回数はそれ以上に少なくなる。
被ダメージ減少が十分な効果を発揮するという前提であれば、ダンジョンをより深く潜るほうが効率が良かった。
「終業時間は17時だな」
2時間少々。
リュウイチは6階をさまよった。
状態異常さえ対策すれば、同等ランクのモンスターよりも直接的な戦闘力は低い。
そしてスキルによって与えるダメージは十分以上でうけるダメージは封殺できるほどもある。
予定通り、なにも、問題は、なかった。
レベル10以上になるごとにクラスチェンジを行った。
そして、17時きっかりに、『帰還』を使ってダンジョンを脱出した。
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