010.男女がダンジョンに二人で行くのはデートなのか
8日の寝る前に見るとジャンル別日刊7位になっていました。応援ありがとうございます。
頑張って書きますので今後ともよろしくお願いいたします。
退職四日目。
ミイナは昨日は来なかったが、今朝早くにやってきた。
週末である。今日明日はミイナは休みであり、荷物を担いでの登場だ。
「休みの日までダンジョンに行きたくなかったですけど」
「仕事の日に一緒に潜るほうがしんどいだろ」
荷物はダンジョン装備である。
今日の二人はダンジョンにこもり、餓鬼をたくさん討伐する予定なのだった。
なんとも殺伐としたデートである。
二人は手早く食事をとってからダンジョン協会へ。
たしかに休日に職場に顔を出すのはあまり楽しい経験ではないなとリュウイチはミイナの主張に賛同した。
だからといって予定変更はしないが。
「あれ、ミイナちゃん、先輩と二人で潜るんすか?」
「そうなのよー」
ミイナは依頼を受注する。餓鬼玉納品である。
リュウイチは受注しない。
「先輩はガチャっすか。ミイナちゃん乗り換えない?」
「んー、まだリュウイチさんかなあ」
「ははは」
「いつでも待ってるっすよー」
突然退職してガチャを始めたリュウイチの評価は順調に下がっているようだった。
「わたしの取り分はガチャに使いませんからね」
「わかったわかった」
そんなやり取りをしながら、二人はダンジョンへと向かっていった。
「うわ、本当にスキルポイントが……」
『疫病のダンジョン』4階。
レベルアップしたミイナが驚きの声を上げた。いや、むしろ引いている。
レベルアップごとに1ポイント得る貴重なスキルポイント――だったものが、いま1レベル上がっただけで36ポイント増えたのだ。とんでもないインフレだった。
仕事柄レベルやスキルに関する悲喜こもごもを見聞きしているミイナも、リュウイチ同様の感慨を抱いたのだろう。
だがこれで一蓮托生である。
「嘘だと思ってたのか?」
「そうじゃないですけど、実際に見ると……」
「気持ちはわかる。とりあえず経験値にふっておいてくれ」
「予定通りですね」
退職前のリュウイチ同様レベル8だったミイナもレベル9になった。もちろん、リュウイチもサポーターにクラスチェンジして同じレベルまで上げている。
ここまで約2時間半。ソロの時より若干時間はかかっているが、大きな支障はない。
これで今日の目標の一つは達したが、タスクはまだまだ積みあがっていた。
「次はボス撃破でレベル10だ」
「ひーん」
餓鬼の群れはビジュアル的にグロいのであまり得意でないミイナである。
二人がレベル10になるのにボスである『腐った匂いの毒ガスを纏う大きな餓鬼』を2回倒す必要があった。
「あ、出ましたよ、ポイント」
「俺固有のものではないということが確定したな」
今日の目標その3。
『パーティ取得スキルポイント増加』をミイナが覚えることができるか、という検証は無事、取得可能という結果が出た。
ちなみにその2はレベル10となりクラスチェンジ可能になることである。
「それじゃもう2周……の前に戻って飯を食うか」
「待ってください。お弁当の用意があります。ここで食べましょう」
「マジか」
帰還の水晶のある踊り場である。
学校の教室くらいのスペースがあるので隅に寄れば誰かが通るとしても邪魔にはならないだろう。
リュウイチの心づもりでは、ダンジョン協会のロビーを通ってガチャ通いの印象を重ねるつもりだった。
だが。
「ここに二人でいることを誰かが目撃するのは都合がいいんじゃないですかね」
「それは、そうかもしれない」
最近見かけない猫のキャラクターのレジャーシートを準備しながら言うミイナを手伝いながらリュウイチは頷いた。
少数でボスを突破できたという実績を目撃させられれば、今後クラスチェンジを行っていることを知られても言い訳しやすい。
適当なところで大餓鬼玉を見せることで証明するつもりだったが、その前段階としてミイナと二人でボスを討伐したというストーリーは順を追うようで納得しやすくなる、かもしれない。
というわけでダンジョンピクニックとなった。
薄暗いのが玉に瑕。光を放つ帰還の水晶がきれいだった。
次は照明を持ち込むか、魔法使いの明かりのスキルを覚えてみるのもいいかもしれない。
そんな話をしながらミイナのお弁当を食べる。
なんと重箱入りだった。量が多い。いつの間に用意したのかと問えば朝自宅でと返ってくるだろう。
おにぎり、たまごやき、からあげ、プチトマト。彩りも考えたお弁当の定番だ。
ポテトサラダ。ほうれんそうのおひたし。ウインナーはカニさんだ。
「どうでしょう」
「なんだか懐かしい気持ちになるわ。冷めてても普通にうまいのすごいよな」
「ならばよし」
焼きたて揚げたて作り立てがうまいのはある種当たり前である。
しかし、冷めてもおいしいというのはどういうことなのか。さっぱりわからない。
と、思考停止するから自分は料理の腕が変わらないのだろうとリュウイチは思う。
まあミイナが通ってくるようになって料理をする機会が減ったこともあるだろうが。
食事中に3組のパーティと遭遇した。
いずれも知った顔であり、軽く挨拶する。物欲しそうな目で見てきたやつもいたのでリクエストを聞くとたまごやきとからあげが人気だった。ミイナは余分の割りばしを用意していた。準備がいい。
とはいえ彼らにも予定があるので長々と世間話をするわけでもなく、すぐに奥へと向かっていく。
これで目的は達したわけだ。
「ごちそうさま。ありがとうな」
「えへへ、いいってことですよ。それじゃあもうひと頑張りしましょう」
「お、やる気じゃないか」
「だってこれすごいですよね」
「わかる」
貴重なスキルポイントがじゃぶじゃぶ稼げるようになったのは、テンションが上がる。脳内麻薬が分泌されて、気分はハッピー。
きっとそのうち慣れて当たり前になる。この気分の良さは今だけだろう。
楽しいことはしっかり味わっておくことが人生のスパイスだ、とミイナさんはのたまった。
そして午後はふたりとも『僧侶』のレベルを上げた。
さらに、『サポーター』にクラスチェンジ後、ボスを1周してから今日はここまでとし、ダンジョン協会でミイナの依頼を清算してから神社で餓鬼玉を消費した。
「そういえば筋肉痛がひどくないな。『健康』のせいかも」
「え、わたしも取ります」
■新しく取得したスキル:僧侶
『ヒール10』
『解毒10』
『リカバリー10』
『サイレンス10』
『ブレス10』
『敵意感知10』
『クリエイトウォーター4』
■サポーター
『サポータースキル強化59→67』
端数は省略
面白かった、続きが気になると思ったら、いいねと評価をお願いします。