第七ノ話 始まりの花園。
ほうじ茶派です。
その他大勢は帰ってください。
「ほらここが茶室だ。」
城内の長い螺旋階段をどれくらい登ったのだろうか。
大きな、赤い扉が開かれるとそこは草花に満ちた茶室の名前には似つかわしくない天国にきたかのように感じるくらい美しい花園だった。
名も知らない綺麗な花達が咲き乱れ、林檎の木がなだらかな傾斜の山の頂上まで続く道を挟み込むように並んでなっている。
そのなだらか山の頂上には天をも突き抜けるごとくそれは大きな大きな大樹が聳え立っていた。
その樹下に白いテーブルひとつと椅子が2席ポツリと並べられている。
「凄いな…。死んだ後の世界みたいだ。」
心の奥底から俺の本音が湧き出た。
「それは違うな創士殿。死んだ後の世界ではない。ここはサンビタリアの始まりの花園だ。」
「始まりの…花園。」
「ああ。茶室なんて銘打ってはいるが、ここはサンビタリアの聖地であり。サンビタリアと呼ばれる国そのものなのだ。」
「初代国王。そしてこの世界を統一した王。サンビタリア前王は花や草木といった自然を好んでおられていてな。ここはそのサンビタリア前王が生きていた1000年以上前から変わらずあり続けているのだ。」
世界の王と言われたサンビタリアは本当に心優しいやつだったのだろうな。
じゃなきゃこんな空間を作れはしない。
ここにいると嘘なんて吐けないように心が洗われて本当の自分を隠すことなんてできないみたいだ。
世界を統一する力をもってしても傲慢ではなく、強欲でもなく、ただ世界の平穏を願い、それを実現できると信じ生きたのだろうな。
それでも『静かなる世界を求めて。』と言う言葉を残し世界をさったのはどう言うことだろうか。世界に嫌気がさしたわけでもなさそうに。
「因みにここの草木や花の手入れはシャル爺に任せてある。ここは聖域だ。メイドも兵隊達も誰も足を踏み入ることができない。故にここに来るのはシャル爺以外他の一人もいないのだ。」
たしかにここじゃ気軽に友達を呼んでお茶でもしようなんて言えないよな。そんな聖域に足を踏み入れることができる俺はよほど信頼に値されこの国で権力を持つものだろうか。
そうこうしている間に山の頂上へと辿り着き俺達は椅子に腰掛けた。
椅子が二つしかないため、爺さんはマコトの後ろに立つ。
上品なティーポットに茶葉を入れてマコトは俺に茶を振舞ってくれた。
「ここで取れた茶葉を用いた一級品の茶だ。これは私でも自慢できる一品だ。召し上がってくれ。」
俺は茶を飲んだ。正直な話、あまりいい茶というものに巡り合ったことのない俺がこれが美味しいのかとか気品ある味だとか全くもってわからなかったが、俺が飲む姿を見て、まだかまだかと目を煌びやかにかがやせ感想を待っているマコトに気を遣って
「美味いな。このお茶。」
お世辞にも程がある語彙力なさすぎる返答をしてしまったがマコトはその言葉に満足したのか得意気な笑顔とともにもう一杯茶を入れてくれた。
これ以上、何も言えないから勘弁してくださいと心では思いながらももう一杯目の茶を俺は啜った。
すると今度はどうだ。味が変わったんだ、確かに一杯目の味は俺には理解し難い味だったが二杯目の茶は俺好みにアレンジしたかのように今俺が飲みたいと思っていた茶そのものに変化しているのだ。
「驚きが隠せていないぞ創士殿。これはサンビタリアでしか取れないマールムの木の葉を使い煎じてある。」
「この茶葉は、一杯目の味はさほど美味しくないのだが二杯目からは自分好みの味にアレンジされるのだ。何故一杯目から美味しくならないのかは疑問だがな。」
じゃぁ、俺が気を遣って美味しいだなんて言ってしまっていた事はバレバレな訳ね。
それにしても凄い茶だな。これなら何杯だって飲めそうだ。
「本題に入ろう創士殿。創士殿が記憶を無くしていたのは、聞いたと思うがナイトメ家の仕業だ。」
「私が半年ほど前に創士殿にアリスロンドへの偵察を頼んだ際に何故か道中でナイトメ家に巻き込まれこのような事態に陥ってしまったみたいだ。」
「ナイトメ家っていうのは、アリスロンドにいるのか?」
「違うな。ナイトメ家は国を持たず、場所も実態もわからない特殊な手段をふだん上でしか出会えない悪夢の象徴。」
「この世界は五大勢力といわれているが、4つの国とナイトメ家になる。ナイトメ家は一家一つでこの世界でニつの国が手を合わせても勝てないと言われている。」
「そんな物凄いやつに、俺は目をつけられてなんで生きてられるんだ?」
五つの勢力を白い空間で聞いた際に4つしか国ねぇじゃんって思っていたがそう言うことだったのか。でもそんな凄いやつらに俺は記憶を改竄されただけで命は生き永らえていた。
不思議な疑問だらけだ。
「それについての詳細は私にもわからない。だが言えることは。」
「ナイトメ家が動き出しと言うことは、始まるのだ玉座争奪戦の本戦が。」
彼女のその言葉とともに先ほどまで静かだったこの花園の草木や花が風で煽られ始め花園は静けさを無くした。
なにより、彼女の目が先程までの可愛らしいポニーテールの女性の目ではなく。
戦場に向かう命をかける覚悟をした、なんとも凛々しく。
殺意に満ち溢れた目だった。