第四ノ話 クロワッサンが食べたい。
クロワッサンは頭から食べる派か尻尾から食べる派ですか?
いやクロワッサンって頭とか尻尾ないじゃんって突っ込んだ貴方。
クロワッサンがミミズにみえる呪いをかけておきました。明日から貴方はミミズワッサンです。
「黒い…霧?」
あの幻覚の中で見た、幻覚の中で俺をそして人々を恐怖に陥れた黒い霧。
俺は驚くよりも先に自分の目を疑った。
だが今の俺の頭の知識量じゃ理解できない。
そうこうしている間に黒い霧がはれて目の前には出来たてほやほやのなんとも美しいオムライスが出てきた。
「これが貴方の能力。願うことで具現化し現実にする能力。」
「貴方はよくこの能力を使う際に『変異創造』と言っていたわ。」
能力使う時に技名叫んじゃったりしてるあたり厨二病感丸出しだな俺。
それにしても、このオムライス味までしっかりしている。
俺が願ったから俺好み仕様のちゃんとしたオムライスが出来上がっている訳なんだな。
上手い…。なんだかさっきまで幻覚で見ていた悲劇と言い、突きつけられた現実といい、淡々と冷静に黙々と喋っていく閻魔大王様といい酷い目にあってきたからか自然と涙が溢れでた。
「うめぇ…。」
「この世界では能力のことを夢質、通称クオリティというの。」
「夢質…クオリティ…?」
「ええ。貴方がクオリティを発動した際に黒い霧がでたでしょう。あれはファントム。能力は先天性的なものではなく、後天的に目覚めるものなの。」
「能力を得る条件は想い。それと並大抵ではない想い。ただこうしたいとか何になりたいとかを強く想っただけでは得られない。」
「そしてその強くなにかを想い、それに選ばれたものだけファントムが現れ、それに見合う能力を与えるの。」
「想いの…力。」
俺の力は願ったものを具現化する能力。
その能力を得るためには並大抵じゃない想いが必要。
そんなに何かを得たかったのか。
「そしてファントムはただでは能力をくれない。それがなにでありどんな条件かという代償は能力を得たものによって異なるのよ。」
「俺の場合はどうなんだよ。俺はなにを想ってなにを代償にしてんだよ!」
「いずれ…知ることができるわ。」
その言葉とともにこの白い部屋の空間が一気に縮小し始める。
「おい、なんなんだよこれ!」
「もう、時間が来たわ。お別れの時間。」
「君がいなけりゃ、何にも知らねえしこんな世界に俺を一人だけにしないでくれよ!」
「一人じゃないわ。貴方が持っているその折り畳みの電子機器。そこを仲介に私と連絡ができる。」
「それでも!一体どうしたらいいっていうんだよ。あんまりにもいきなりすぎるじゃないか。」
俺は縮み行くこの空間の中で必死に彼女の手をつかもうと手を伸ばした。
手を伸ばして、伸ばして。掴み切ったとおもった先に彼女の姿は消え白い空間は跡形もなくなっていた。
俺は一人でどうすればいいっていうんだよ。異世界にでも転生させられたかのような俺に。
いつしか白い空間だった光景は暗闇に包まれて徐々に明かりを取り戻した。
「おい兄ちゃん。いつまでそんなボケっとした顔でつったってんだ。ここは道なの道。兄ちゃんが立ってると邪魔なの。邪魔。」
聞いたことのない声が聞こえた。
俺は道の上に立ち、周りには行き交う人々。見た目は然程俺とは変わらない人間。
八百屋や肉屋、魚屋などの屋台が並びそこに列をなす人々。そして長いその街の行先には大きな大きな城が見える。
此処は城下町なのだろうか。この人だかりを見ると栄えている場所には違いない。
「おーい。兄ちゃん。聞こえてる?邪魔だよ邪魔。」
「すみませんが、ここはどこですか?」
「はぁ?兄ちゃん。旅人かい?ここは西の国『サンビタリア』だよ。あそこに見えるのが国王のお城。今となっちゃ弱き敗北者なんて言われているがな。まさかこんな国にまで旅人が来るなんて兄ちゃん変わり者だな。」
「ありがとうございます。それじゃ。」
「今度はつったったままとか辞めろよ兄ちゃん!」
優しく教えてくれた見ず知らずのおっさんに感謝のお辞儀をして俺は止まっていた足を進めた。この街は優しい雰囲気で漂っている。まるでさっきまできいていた玉座争奪戦なんてミリも感じないほど平和で穏やかな国だ。
俺が幻覚の中で馬鹿にしていた平和ボケのそれだな。でもよく見ると見慣れた感じがする。幻覚の中で見ていた街並みもこんな感じだったな。あそこの角を曲がれば、美味しいクロワッサン屋があったっけ。
「おっあったあったクロワッサン。」
やっぱり幻覚で見ていた街と同じ街らしいな。クロワッサンを食べたい所だが俺は金なしの無一文。待てよ。いいことを思いついてしまったかもしれない。
「クロワッサンが食べたい!」
俺は強く願った。そして俺の目の前は黒い霧。ファントムに包まれた。
ポンっとファントムがいなくなりクロワッサンが目の前に現れた。
「うん、これこれ。これなんだよこの店のクロワッサン!まじで幻覚の中とは違う現実の味って感じで心に染みる。」
ついつい言葉を出してしまった。心の声が漏れるほどここのクロワッサンは美味しいんだよな。
俺がクロワッサンを食べていると街並みの人達が全員俺を見ている。どうしたのだろう、クロワッサンが食べたいのだろうか。
「クロワッサンが食べたいのですか?何なら俺が皆様にお渡ししま」
「出ていけ」
俺が話しているのを遮り第一声で聞こえたのは俺に向ける敵意の目や恐れ慄く目。そして罵声だった。