第三ノ話 願い。
この季節になるとなんで、おでんを食べたくなるんですかね。
夏は全くと言っていいほど思わないのに。
三角のこんにゃく以外は受け付けませんよ?
四角だったら絶交です。
それから天使ちゃんもとい閻魔大王様は黙々と話し続けた。俺が記憶を改竄される前はただの庶民だったとか。こんな王の素質を持つだのなんだの言われるからてっきり王家に仕えてた騎士とかなんなら一国の王のとかそんな感じなのかなと期待はしていたが、なんだかあっさりしていた。
「結局、今も昔も俺は俺で変わらねえんだな。」
ちょっとだけ安心した。いきなり王家だとかなんとか言われてしまうと、今とてパンクしそうな頭がこんがらがっちまってパンクどころかバーストしてしまいそうだ。なんならいま隣にいる閻魔大王様に舌でも抜かれて地獄に落としてもらった方がよっぽど俺にとっては天国だったかもしれないな。
「なにか変なことでも考えていますか?」
軽蔑するでもない目で淡々と喋りかけてくる様子じゃ誰も寄り付かねえだろうなこの子には。
「いや、なんでもねえよ。」
「所で俺があの白い部屋にいる間、なんで君まで白い部屋にいたんだ?」
率直な疑問だろう。俺が記憶を改竄されてあの白い部屋で幻覚を見せられ閉じ込められたまでなら理解はできるがどうもこの天使ちゃんが一緒だったって点が腑に落ちない。
「私が、この部屋に閉じ込めた。」
「え?」
予想外の返答だ。なぜあの部屋に閉じ込める必要があるんだよ。味方じゃないのか?
それなら黒い霧についても納得ができない。
なぜそのような安全を確保されているような場所で黒い霧に包まれていたんだ。
考えれば考えるほど、どうやら俺が置かれている現状っていうのがどうしようもないって事だけが理解できてしまう。
「何から何まで聞きたいことだらけだが、俺はこの世界じゃどこ出身なんだ。大きく五つにわけられてるんだろ、強いのか?」
「ただ、こんな高校生の俺に頼っちゃってるような国なんて最弱もいいところだろうがな。」
「貴方は、高校生なんかじゃないわ。今の年齢は21歳よ。何を詐称しているわけ。」
「それも嘘なのかよ!ナイトメ家、マジで趣味悪すぎ。」
高校生だと思っていた俺が21歳まで歳を食っているだと?
いきなりのその真実は結構堪えるものあるよ。
華の青春時代の十代の思い出達をもすっ飛ばされて21歳。
なんだよキリが悪いにも程があるだろう。
確かに高校生の割には妙に顔が老けているなんて思った時期も偽りの記憶の中ではありましたが、まさかそんな年齢設定まで変えないでも。
もうちょっとやり方あったでしょうにナイトメ家さん…。
「この世界は大きく五つに分けられているわ。詳しくいうと、獣人族たちが制す東の国『オルガニア』。狂気に満ちた幸せの国と言われる南の国『アリスロンド』。異端であり独自の文明と文化を築き上げた北の国『バースネクロ』。」
「そして、貴方が生まれその国を背負って戦った。弱き敗北者の国『サンビタリア』。」
「弱き敗北者の国ってなかなかの言われようだな。もしかして、大昔に玉座争奪戦に負けでもしたか?」
「その逆よ、創士。先代であり初代の王が生まれ落ちそしてその王の名前をつけられた国が『サンビタリア』なの。」
「王の名前までつけちゃって、大層な割には弱き敗北者だなんて罵られてるのか。」
「そう。『サンビタリア』国王の一族が持つ能力がその原因なの。」
「能力、そんなものがあるのか。もしかして俺にもあるのか?」
どうやら、素手や武装を用いて戦う古典的手法の世界ではないのだな。そしてなにより能力と来た。異能力。偽りの記憶の中で何度も見たファンタジ小説やアニメ的展開に心が躍る。
俺の能力は時を止めたりする?もしかして金の甲冑とか着て星の加護とか受けたりする?はたまた過去に戻ったりして何度もやり直して絶望から打ち勝ったりしちゃう系??
「貴方の能力は願い。」
「願い?」
「そう。試しに貴方が今一番食べてたいものを思い浮かべて強く食べたいと願ってみなさい。」
今食べたいもの。ふと自分の手を見てみると痩せこけて細々とした何とも頼りない腕。
それもそうだ。きっとこの部屋にいる間、俺が過ごしてきたのは幻覚。食べていると思っていたものも実際は食べていなかったのだろう。
俺はどれくらいの時間かはわからないが何も食べずにいた訳だ、体がこうなるにも納得がいく。
それにしても、栄養失調で死んだりしなかったんだな。まぁいい。
食べたいもの。食べたいもの。食べ…たいもの…。
「オムライスが食べたい!」
その言葉と願いと同時に目の前は幻覚の中でみた、あの黒い霧が現れた。