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Sil-ENT 静かなる玉座  作者: 寺田卍丸
第一ノ章 サンビタリア王国編
2/17

第一ノ話 偽の物。

最近寒いですね。

冷え込みすぎて、僕の一発ギャグも冴え渡るくらい寒いですね。

「ここは…一体。」

俺は死んだのだろうか。嫌、死んだんだろうな。

あんなわけの分からない黒い霧に襲われて、しかも腕まで落ちて。

「母さん、母さんは!…死んだよな…。」

言葉が出なかった。よく考えてみりゃ母さんには苦労ばかりかけてしまったと思う。

生きてる間にもっと親孝行してやりたかったな、最後くらいありがとうって言いたかったな。

死人に口なしとは言うが、こうもあっけないとか人生本当に無理ゲーだな。

「あぁあ。結局、王の資質っていうのは結局嘘八百かよ。まぁ、無理もないか。こんな非凡な高校生にそんな劇的展開があるわけな」


「貴方は王の資質を持つわ。」


突然聞こえた声に驚きながらも俺は恐る恐る後ろへと振り返った。

その目の前に立っていたのは青い髪の死の世界には似合わない。

まるで、まるで彼女は------


天使そのものだった。


「生憎、そう言うお慰めは欲しくないんだわ。天使が来たってことはここは天国か何処か?まぁ俺生涯短かったし、地獄にはいかな」


「貴方はまだ死んでないわ。」


さっきからと言い話を遮り淡々とした口調で何を言ってるんだか。

見た目は天使だが、心がない天使だな。

天使もやはり毎日死人相手にしてるとこうも荒んじまって業務的になってしまうのかな。


「死んでないも何も、あんな訳の分からない黒い霧に覆われて母さんは四肢断裂、終いに俺は左腕を無くしちまってんだぜ、もし生きてるって言うんなら死んだ方がマシだ。」


そうだ。死んだ方がマシなんだ。

もし本当に生きているなら、母さんは勿論死んでいる。この先俺はどうやって生きていくんだ?一人でやっていけるのか?こんな俺でも働けるようなことはあるのか?そんな疑問が沢山不安の山に降り積もるというのに、生きているっていうありがたい事実かもしれないけど、今の俺にとっては死刑宣告そのもの。

ならあの時死んだ方がマシだ。


「貴方…本当に何も覚えてないのね。」


「覚えてない?だからそれはさっきも言った。訳の分からない黒い霧に包まれて俺は母さんもろとも死んだの!」


本当にここまで来ると天使なのか悪魔なのかもわからないくらい意地悪だ。

こんなやり取りせずに早く天国へいって、母さんに…。母さんにありがとうと伝えたいのに。


「創士。本名は千寿菊創士せんじゅぎくそうし。玉座を争う、4大陸の王座争奪戦の最中ナイトメ家の君主と対峙する。」


おいおいなんだよ、そりゃ異世界のファンタジー的展開にも程があるって。


「ナイトメ家との対峙中ある少女を庇う形により、ナイトメ家君主に敗北。敗北後殺されることなく記憶を改竄され嘘で塗り固められた全くの別生活を歩まされる。」


淡々と話している彼女の言葉が俺には全く理解できなかった。

争奪戦にナイトメ家?なんの話だ。

俺はついさっきまで平凡な日常を送る高校生だったはずだろ?


「そんな御伽噺展開、漫画やアニメでしか通用しないって。」


「じゃあ、貴方がさっきまで見てたあの黒い霧についても御伽噺だと片付けるの?」


確かにそうだ。確かに俺は黒い霧を見た。

そして母さんや外の皆、俺だってアレに襲われたんだ。

待てよ。さっきこの天使の青髪少女はなんで言った?記憶の改竄?嘘で塗りたくられた生活?


「君の話がもし本当だとするならば、俺の…俺の…母さんも…あれも嘘なのか?」


「そう。貴方が見ていたお母さんも、貴方との思い出も全部偽物。見せられていた幻覚に過ぎないわ。」


「じゃぁ。俺の母さんは居なくて、死んだのも幻覚で今までの思い出も全て作り物って言うのかい?」


「ええ、わたしには貴方が一人で何もない空間に向かって話しかけて涙を流し、黒い霧に包まれているようにしか見えなかったわ。」


嘘だろ。お願いだから嘘だと言って欲しかった。

俺が愛していたのは何もないただの偶像のまやかしで俺はそれに涙していたのか。

俺がずっと通っていた小学校や中学校は?

俺の数少ない友達や、帰り道によく寄っていたあの美味しかったハンバーガー屋は?

全部、全部偽物だったっていうのかよ。


「畜生っ…。そんなの。そんなのが本当の現実っていうなら。あんまりじゃないか…。」


血が滲み出るほど口を噛みしめても俺は涙を堪えることができなかった。

そんな俺を青髪の少女は憐れむこともなく、励ますこともなくただ俺のことを見ていた。


「もう一個質問いいかな、青髪の天使さん。」


俺は悲しむことを諦めた。こんなどうしようもなく残酷で絶望的な現実が本当だったとしても、俺が黒い霧に包まれて死んでいたとしても彼女に聞きたかった。


「君は俺の味方なのか?」


ただこの事実から逃げたかった俺が、一人でこの事実を抱え込みたくなかった俺が救われたくてどうか一人にしないで欲しくて溢れでた質問だった。


「ええ、私は貴方の味方よ。」


笑顔もなくその無表情な顔から淡々とした口調で告げられた言葉に、俺は救われたと心から思ったんだ。

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