第十五ノ話(続) オルガニア制圧作戦会議(2)
後ろに人の気配を感じて振り返ると何もいないって時ありますよね。
あの時後ろはいないけど、上や下にいるんじゃないかって考えたりしませんか?
まぁそんなことどうでもいいんですけど、おにぎりはやっぱり高菜に限りますね。
「我々はオルガニア制圧作戦の第一フェーズとして陽動作戦を行う。」
マコトの口から発せられた言葉に会議場にいる兵隊達が騒めき始めた。
「先程言った通り。我々は一対一の場面を作らなければならない。そうなるとオルガニアにいる戦力そして幻獣を全て引き出し、国内に残る戦力を最小限に抑えたいと思う。」
「国王のドルナレオ。執事のラファート。飼育場の管理者ルーカロは表立った行動をした記録が未だに残されてない。つまり戦力も未知数だが、常時戦闘の場に参加しているとは限らない。」
「しかしながらオルガニアはいわば戦闘民族の集まり。老若男女問わず戦闘を好み、血を欲する獣人族。我々が正面切って攻め入ればそれに釣られて戦闘に参加する獣たちが溢れるだろう。」
確かに戦闘を好む者が勝負を仕掛けられると対抗せざるを得ないという状況は把握できるが、そんな奴ら大勢相手に俺たちのような人間が太刀打ちすることができるのか?
ここにいる兵隊達も口にはしないが内心で思っている筈だ。
結局のところ、作戦を立てたって、何をしたって俺たちは人間。しかも能力も持たない人間。
獣人族相手にどうしろっていうんだよ。
「創士殿。少し不満気な顔してどうした。納得いかないか?」
マコトは急に俺へと話を振りかけてきた。
俺はいきなりのことに少し驚いた顔を見せたが起立して声をあげた。
「お前の言ってることは理屈じゃねえのか。確かに俺たちに力があれば可能だと思うが、獣人相手に何ができるっていうんだよ。」
今俺があげた言葉は男として人間としてとても情けない言葉だが、それが現実だ。
俺の言葉を聞いたマコトは怒ることも悲しむこともせずクスりと笑った。
「創士殿。君の能力、なんでも良いから皆に見せてやってはくれんか。」
「え?」
俺は俺の能力を今見せたところで何が変わるんだよと思いながらもマコトの言われた通り心の中で強く想像した。
なんでもいいから考えろ。何を創ろうか。
ふと俺が真っ先に思い浮かんだのはこれだった。
「変異創造!」
俺はグローブをつけた右手を天に上げて叫んだ。
黒い霧に覆われて、そのファントムをみた兵隊達は驚きの声をあげた。
黒い霧が晴れて現れたのはキスキピが着ていたメイド服だった。
俺は頭の中で恥ずかしながらもずっとキスキピに囚われてしまったままだったのだ。
勢いよく技名まで叫んで格好つけてクオリティを使った割には出てきた物がメイド服とは全く持って恥。
「汚らわしい。」
どこからかボソッと呟いているキスキピの言葉が俺の胸へと静かに突き刺さる。
そんな男を惑わすような姿や体をしているから悪いんだよと思いながらも流れてくる涙を俺は止められなかった。
「うむ、出てきた物が何故メイド服なのかは理解し難いのだが。これが創士殿のクオリティ「変異創造」だ。」
お願いだから、もうメイド服には触れないでくださいマコト国王陛下様。
「知っている者も皆の中にはいるとは思うが、自分が想像したものを創ることができるクオリティだ。」
「このクオリティがなければ陽動作戦は実行できない。このクオリティがあれば我々は勝利を手に入れられる!」
マコトが俺が創り出したキスキピのメイド服を天高く掲げて力強く叫んだ。
それに続くように兵隊達は歓喜の声をあげて叫んだ。
俺は心の中でそんなに高く掲げないでくださいと恥ずかしさにやられながらも叫んだ。
でも一体、俺のこのクオリティがどう役に立つって言うんだ。しかもそれが今回の陽動作戦の要になると言うではないか。
マコトは何を考えているんだ。俺の不安を無くすために出た励ましだけの言葉なのか?
「キスキピ。用意していた物を。」
「かしこまりました。」
キスキピは席を立ち、部屋から出て行く。
暫くすると扉が開き、台車を押すキスキピとその台車には今にも揺れで崩れそうなほど本が山積みされている。ざっと400冊、いや500冊はあるだろうか。なにせ一つ一つが辞典の如く分厚い。一体これで何をするのだろうか。
まさかこれを鈍器で戦おうってのは言わないだろうな。
「ありがとう、キスキピ。」
キスキピは静かにお辞儀をして席へと戻る。
マコトは握りしめていたメイド服を爺さんに渡してなにやら耳打ちをした。
そして山積みにされた本を一つ取り出して開けては俺達に見せた。
そこには文字がぎっしりと敷き詰められていたり、名前はわからないが幻獣ナルバロに似た絵が描かれている。
「見ての通りここに描かれているのは今日討伐した幻獣ナルバロだ。そして記述されているのはナルバロの生態や特殊な力だ。」
「この一冊には今までに我々が討伐してきた幻獣やオルガニアについてが記されている。同じような内容もあるが全てがオルガニアに関することだ。」
「この全てをオルガニア制圧作戦までに創士殿に読んで勉強に励んでもらう。」
嘘ですよね。こんな大量にある本を一から全て読んで覚えろっていうんですか。
一体何の為にそんな苦行を行わなければいけないのですか。俺は足手まといだからお城でお勉強してろっていうんですか。
「えっと。マコト…。いえ陛下様。これは何かの罰ゲームですか?」
本当に罰ゲームにしかならないだろうこれ。
俺は恐る恐るもマコトに問い出した。
「確かにそれは一理あるな。」
「一理あるの!?」
一理あってはならない状況で一理あると告げられた俺は頭の中が真っ白になった。
勉強が好きなやつなんていない。ましてや俺みたいな奴なら尚更だ。文字を読むだけで頭に激痛が走る。無理だよこんな量…。
俺は落胆して、円卓に顔を埋めた。
「創士殿、冗談だ。これは我々の陽動作戦の為に必要不可欠なことだ。」
「必要不可欠っていったって。こんな勉強に何が意味あるっていうですか。」
俺は顔を埋めながら言った。
「創士殿はジニアの森でナルバロの体液を再現しただろう?」
「それとこれと何が関係…。」
「「変異創造」は想像したものを全て作り出せる。私が「隠者模倣」を使いキミがナルバロから受けた傷、流した血液を創士殿のクオリティで想像して新たな体を創り出し、創士殿を元に戻した。」
意識が朦朧としている時、確かにマコトは俺のクオリティを使っていた。それと同時に俺は意識を取り戻していたのは事実だ。
もしかするとこのクオリティって。
「ここまで言えば気が付いただろう。「変異創造」は物質、生命問わず全てを創ることができるクオリティ。」
「故に我々はその能力を屈指する、そう。」
「------幻獣に幻獣をぶつける------」