第十五ノ話し オルガニア制圧作戦会議(1)
俺は一体何をしていたのだろうか。
確かに自分の息子との対話という時間は必要だ。
しかしながら、不本意にもあのピスキスの言動に欲情を覚えた自分が嫌になってしまう。
しかもそんな苦難を傍目にクリフちゃんにまでこの現状を見られてしまうとか本当になんの地獄なんだここは。ていうかずっとクリフちゃんがいる限り俺にそういう時間は作れないってことなのかい。どうしてそうなってしまったんですか神様。
そうこう考えている内もキスキピの豊満な胸や言葉がチラついて悩まさせてくる。
コンココッ コンコンッ コン
妙なリズムで扉をノックする音が聞こえた。
「はいはい。」
俺は返事をしてベッドから立ち上がり扉を開けた。
「創士様、いや汚らわしい豚様。ご準備ができました。」
「お前はノックも言葉も何一つなってねえな!」
「それ以上悪く言いますと、私も黙ってはいられませんよ。」
キスキピは背中に背負った双剣を両手に素早く取り俺へと構え向けてきた。
「そこまでやることないんじゃない…。」
たかだかちょっとしたことで味方であり客人でもある俺に剣を向けてくるなんて信じられないくらいに短気な女だ。
ピスキスはフンっと目を逸らしてから双剣をまた背中に背負い俺へ深々とお辞儀した。
「申し訳ございませんでした。どうぞこちらへ。」
どうやらもう準備ができたみたいだ、時計の針を見ると21時を回り、気が付けば俺が部屋に来てから1時間と少しが経っていた。
何を変なことで時間を過ごしてしまったんだ俺は。せっかくの至福の休憩タイムが台無しになってしまった。
…まぁ。俺が悪いんだけど。
俺は部屋を出てピスキスに案内されながら会議へと向かう。
「なぁキスキピさん。なんであんたはここでメイドなんかしているんだ?」
「行く宛のない私を陛下様は拾ってくださった。恩返しというのが一番型に当てはまりましょうか。」
「行く宛のないって。何かあったのか?」
「これ以上お答えする義務は私にはございません。ですのでどうかご理解を豚様。」
汚らわしくは…なくなったのね。なんか進歩したみたいで嬉しいけど豚は豚に変わりないのね。
でもなんかこいつに悪い口を叩かれてもイラつきもしないし全然許せてしまうんだよな。
不思議だな、人に嫌われて当然のような態度なのに。
まぁ、行く宛のないって言ったら親に捨てられたとかもあるだろう。俺も人の心も考えないで失礼な質問をしてしまった。
「悪かったな、変な質問して。」
俺は素直に謝った。
キスキピはそれに対してなにも返答をしなかった。
暫くすると部屋につきキスキピが扉を開けてくれた。
「中へどうぞ。皆様お揃いでございます。」
開けられた扉の向こうには部屋の過半数を占める真ん中に穴が空いた円卓が中心にあり、それを囲うように兵隊の団長達そして仮面の爺さんが座っている。
その穴が空いた円卓の真ん中にマコトが腰掛けている。
部屋の一番奥にはサンビタリア王国の国旗なのだろうか、太陽の中に花が描かれた大きな旗が上から吊るされている。
ざっと見積もって二十人近くはいるだろうか。
部屋に張り巡られている緊張が俺の身にも伝う。
爺さんの隣に二席空いていて、キスキピに連れられて爺さんを挟むように俺たちは席についた。
「只今より、サンビタリア王国。オルガニア制圧会議を行う!」
席につくと同時に一人の兵隊団長が起立し会議の開始を宣言した。
オルガニア制圧会議だと言っていたが今日であったナルバロを送ってきた国のことか。
「それでは、国王陛下。宜しくお願いいたひます。」
マコトは席を立ち、部屋の奥に吊るされた国旗に敬礼した。
「皆はすでに知っていると思うが、現在我が国はオルガニアの侵攻により幻獣の被害が後を絶たない。」
「最近は一日に一体。否、それ以上の数を討伐しているのが現状だ。」
「6年前にアリスロンドの襲撃。今尚、この国の傷は癒えていない現状に誰がまた傷付けることを許すのだろうか。」
「それにより我が国はオルガニアの制圧を行う。」
マコトはいつもの優しい顔ではなく、鋭い目をし凛々しく立ち振る舞う王としての面構えだった。その気迫に俺は押されてしまったが、座っている皆もそうだろう。
オルガニアを制圧するのは簡単なことではない。この国からも多数の犠牲がでるのは目に見えて確実だ。
しかしながら誰も異議を唱える者がいない。
皆、この国のためであることを理解し、この国のために尽くす覚悟と意思があるのだろう。
「オルガニアについての詳細をキスキピから伝える。」
そうマコトに指名されたキスキピは起立し、手帳を手に持ちそれを見ながら話し始める。
「オルガニアはご存知の通り獣人族の国です。我が国とは違いクオリティを持つ者が多数存在しております。」
「それに加えて厄介なのが幻獣と言われるオルガニア特有の生命体です。その種と能力は様々で伝えられてきたものや文献に記載されているものに限らず、我々の知らない幻獣がいることも事実です。」
「最も脅威となるのはオルガニア国王に仕える執事【ラファート・ロエン】。飼育場を管理する【ルーカロ・チェッリ】。」
「そしてオルガニア国王。狂った美食家【ドルナレオ・サングェ】。」
幻獣に獣人に本当に厄介そうな国だな。
俺たち普通の人間が太刀打ちできるのだろうか。
それに飼育場?一体何を飼育しているっていうんだ獣人が。
「ドルナレオの能力は未だに不明な上、他二名の能力も不明です。幻獣も含めてこちらの勝算
は0%に近いかと思われます。」
キスキピはお辞儀をして席についた。
言っていることは間違いなかった。サンビタリア王国は今確認しているだけでも俺とマコトとキスキピのみがクオリティ保有者。その中でも俺は論外の戦力外通告だ。
そして数はいるが、何も力を持たないただの兵士達。残念だが、勝算があるとお世辞でも言えない。
「キスキピの言う通り。我が国の勝算は0に近いだろう。しかし国対国ではなく、一対一はたまたニ対一の状況下を作ることができれば我々にも勝機がある。」
確かに俺が見ただけでもマコトの強さは確実に強いと断言できる。キスキピは不明だが、その状況を作れば勝算はあるかも知れない。
しかし、その状況を作るのが一番の困難だ。
相手がはいそうですかと言って決闘を受ける訳もない。
「失礼ながら、陛下様。どのようにその場をお作りになろうとお考えで。」
一人の兵士が質問した。
俺もそのことについて思っていた所だ。
「皆も思う所だろう。これは多数の犠牲を伴う。だが、私は今回行う作戦において皆を易々死なせるなどと考えてはいない。」
「我々はオルガニア制圧作戦の第一フェーズとして陽動作戦を行う。」