第十一ノ話 隠者模倣。
昔、FF10をプレイしていたときに最終ED手前でディスクが壊れて悲壮感に浸り、急いでGEOにいって中古でソフトを購入。
気が付けば家にFF10が二つある状態になったいい思い出。
因みにEDでちゃんと泣きました。今の時代じゃYoutubeで見えちゃうけど、やっぱり自分でクリアする感動に勝るものはないですね。
本編をどうぞ。
ちなみに今何食べたいかと聞かれるとすき家の鮭定食です。
「サンビタリアに賛美と祝福を。」
そう言い放ったマコトに幻獣ナルバロは自らの大きな尻尾で払い飛ばそうとしてきた。
マコトはその尻尾を避けることもなく、剣を尻尾の方に縦へと構え
「風の徒花」
白と緑の花びらたちに囲まれたマコトを剣ごとナルバロは払い飛ばしマコトは宙に舞う。
「マコトーーーッ!」
やられてしまった。そう俺は思い込んだのだ。
その叫びにマコトは余裕ありげにほくそ笑んだ。
マコトは空から落ちてくるわけでもなく、空で風になったかの様に浮かび続けているのだ。
そして白と緑の花々に包まれてゆっくりと空から降りてくる。
地に着くと花々は天へと舞って行ってマコトが姿を現した。
「その花を使うのって呪文か何かなのか?」
「呪文とは少し違う。これは祈り。日々の想いがファントムとは違う形によって授けられる想いの力。祈り(プレケス)の冥加。」
「クゥルルルルル!」
「創士殿、話はまた花園に持ち帰ってしよう。」
ナルバロは涎を垂らしながら一角をチカチカと光らせている。
先程のより勢いは衰え、光の閃光も起こらない。
きっと空腹による戦闘能力の低下だろう。
「ナルバロは一度の閃光で体内に蓄積したファントムを多く消費する。消費した今が攻め時だ。」
やはりナルバロは弱っているみたいだ。
マコト一人でも今ならこいつを倒せるかもしれない。だがここにきて何もしておらず、尚且つ足を引っ張ってるばかりの俺自身が情けなくて俺も何か力になりたいという想いだけが募る。
今なら…俺も…。
あいつの体は攻撃を受けない。なら目を、目を潰せば。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
募る想いが止められなくなり俺は無作為にナルバロに目掛けて走り出した。
「よせ、創士殿!」
止めるマコトの声を傍目に俺だってやれるんだ、俺だってっと見栄を張る自分が心の中にいた。
好きな女の目の前で格好をつけたい男が、俺の心の中にはいた。
そんな気持ちも見ず知れず、ナルバロはまた尻尾を大きく振り上げ俺を払い飛ばそうと振りかかってきた。
ここで怯んじゃだめだ、逃げちゃだめだ。
俺がやらなきゃだめなんだ!
と、謎の使命感が俺の中で産まれた。
「変異創造ッ」
俺の目の前に黒い霧が現れる。
俺は走りながら、ナルバロの尻尾からくる強い衝撃を防ぎたいと心から願った。
防ぐものを創造したい。防ぐものを。
「鉄壁ィィィッ!」
黒い霧が消え去り、俺が想像したナルバロよりも遥かに大きい鉄の壁が作り出された。
ナルバロは尻尾を止めることなく振りかぶり、俺はこの鉄壁なら防げるだろうとたかを括っていた。
尻尾が壁に当たるもの壁は壊れることがなかった。俺は慢心した。俺にもできるのだと、方法は違うが俺にもこいつとやり合えるのだぞと心で叫び続けた。
ピキッピキピキッ。
壁に亀裂が入る音が聞こえた。
嘘だろ、そんなはずはない。俺は完璧に想像して創造したはずだ。こいつの攻撃を防ぐ鉄の壁を創造したはずだ。いや、それは作れていたのだった。この鉄の壁は確かにナルバロの尻尾を完全に防いだ。防いだのだ。
そう、一度だけ。
一度防いだからそれはもう創造できたのと同じ、二度目を防ぐことを俺自身が想像できていなかったのだ。
鉄の壁を創造しただけで慢心した怠り、あの時防いですぐに自分の攻撃を想像しなかった俺のツケが回ってきたのだ。
崩れ落ちゆく鉄の壁から徐々にその姿が見えて来るナルバロは再度、大きく尻尾を振りかぶり俺へと払ってきた。
「変異創造ッ!」
もう一度同じことを防ごう。そうしようと俺は思い、同じように鉄壁を作ろうとした。
しかしそれも間に合わず、俺はナルバロの大きな大きな尻尾が身体の左全面に打撃され空に放り出された。
「ッは。」
痛い、ものすごく痛い。声も出ない。呼吸もできない。俺はどうなった。理解できない。
ナルバロは?マコトは?
一瞬の出来事だったが、俺の脳はフル回転してもなお状況が理解できず頭を強く打ちすぎたせいで目も眩んで見えない。
意識が途切れそうだ…。
「創士殿、しっかりしろ…目を覚ま…」
マ…マコ…トか?
はっきりと見えない、はっきりと聞こえないが俺に誰かが話しかけてきている。
あぁ、格好悪いな。俺がマコトのためにだなんて、俺がやらなきゃなんて図々しいにも程があったな。記憶を無くした今じゃ戦闘慣れもしていないし、ましてやクオリティの使い方すらもままなっていないのに。
少し、自分をあまりにも過信しすぎてしまったな。
「隠者模倣。」
「変異創造。」
薄れゆく意識の中で聞こえたものは俺が使うクオリティと【隠者模倣】というものだった。
考えていると痛みが段々と消え去り、みるみると意識が回復していく。
「っぐぁ…はぁ。はぁ、はぁ。」
意識が完全に回復して自分の体を確認すると先程まで流れていた血はとまり、傷も全て癒えている。
「無事か、創士殿。」
そう言って微笑む彼女の周りには黒い霧。ファントムが漂っていた。
「マコトの…クオリティで助かったのか?」
「それは少し違う。創士殿が自分の力で助かったのだ。」
「え?それって一体どういう…。」
「見ていてくれ。これが弱き敗北者と言われる所以のクオリティだ。」
そう言ってマコトはまたナルバロとあいまみえる。ナルバロも相当腹が減っているのか、涎は捻られた蛇口の水のようにこぼれ落ち息遣いも荒くなってきている。
先に動き出したのはナルバロの方だった。
ナルバロがマコトのファントムに反応したのだろう。ナルバロは無我夢中に餌を与えられた子犬のように彼女へと飛びかかっていく。
「変異創造。」
俺は耳と目を疑った。
マコトは俺のクオリティを囁き、そして俺がクオリティを使う時のようにファントムが現れたのだ。
「クゥルルルルル!」
出てきたファントムを待ってましたかと言わんばかりにナルバロはあまりにも嬉しそうに大きく鳴き声をあげた。
そして大きく口を開けマコトに噛み付いた。
その噛みつきを彼女は避けることなく金属できた己の右腕はナルバロの口の中に思い切り突っ込んだ。
「学習ができない獣だな。貴様の敗因は空腹であったこと。油断。そしてなにより。」
「我がサンビタリアに牙を剥いたことだ。」
ナルバロがマコトの右腕を噛みつき食いちぎることも諦めることもせず、微動だしなくなった。
やがてナルバロの口内から大量の緑色の体液に見えるものが溢れ出し大きな巨体は共に縮んで行く。
体液が溢れ出るのも止まるころにはナルバロは見る影もなく季節を終えた花のように萎れ、美しい黒い皮膚も茶色に枯れ果ててしまった。
マコトはナルバロの口から右腕を抜き出すと、手を突っ込んだ際にはなかった大きな剣を握っていた。
彼女が腰に携えていた剣そのものだが、手に一つ、そして腰にもう一つ携えられている。
一つしか持っていなかった剣が二つになっているのだ。
そんなこんなを考えている中、マコトが右手に持っていた剣は黒い霧に包まれて消えた。
「これが私のクオリティ。【隠者模倣】。」