第九ノ話 世界じゃ、ほんの数秒。
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ミシュランシェフに聞いたところ寺田卍丸の味の評価は星0.8らしいです。
せめて0.2ぐらいあげたげて。
「陛下。」
爺さんがマコトに耳に打ちを始める。
するとマコトはまた優しい目から殺意に満ち溢れた鬼人の如き目に変わった。
「創士殿。まだ募る話もあるのだが今はそうもいかないらしい。」
「我が国サンビタリアのジニアの森に幻獣が現れたらしい。」
「幻獣?」
「オルガニアが使う獣だ。私も今朝幻獣の報告を受け討伐してきたばかりだというのにどうも今回はスパンが早い。」
オルガニアは獣人族の国っていってたか。
獣人が獣を使うという点はあまり驚かないが幻獣?
ユニコーンやドラゴンの類を使っているというのか?
「ついてきてくれ。」
マコトは爺さんに渡していた大きな剣を腰に携え足早に歩き始めた。
俺は残っていたマールムの茶を一気に飲み干しマコトへと着いていった。
扉を開けると兵隊達に出迎えられ俺はその中の一人の兵に指を通すところに穴が空いた黒いグローブを一つ渡された。
「創士殿は戦いの際によくそのグローブを右手に付けていた。」
厨二病的展開すぎない?
グローブを両方つけるならまだしも、穴が空いた穴あきグローブを右手だけに装備しちゃうあたりだいぶお痛がすぎないか?
そんなもの付けてるやつは頭がイカれていると昔の俺に言ってやりたいものだ。
少し納得がいかないも俺はグローブを右手に装着して長く続く螺旋階段を降りて行った。
「国王陛下。我々の準備もできておりますゆえお供させていただいてもよろしいでしょうか。」
螺旋階段を降り到着した際に目にした大きな広間で沢山の兵隊達とメイドが待ち構えていた。
「構わん。私と創士殿だけでいく。」
「はっ。」
兵隊達は一同に俺たちへと跪き頭を下げた。
「創士殿が入れば問題ないだろう。」
笑顔で安心しているかのようにマコトは言うが間違いなく今の俺を連れて行くくらいならここにいる屈強な沢山な兵隊達を連れて行く方が何倍もマシだと思う。
そうは思うも俺は心の奥底にその想いは秘め、
「あったりまえよ!」
なんてドヤ顔でかましてしまったものはいいものの内心に、誰か僕を助けてあげてください、助けてあげてという声が交差している。
「どうか陛下。ご武運を。」
爺さんはどうやらここに残るらしい。
この際、爺さんでもいいからついてきて欲しいものだ。あまりにも俺には責任が重すぎる。
「サンビタリアに賛美と祝福を!」
マコトが腰に携えた剣を右手に持ち天高く上へと突き上げ大声で放つ。
それと同時には兵隊達、メイド達も
「サンビタリアに賛美と祝福を!」
「サンビタリアに賛美と祝福を!」
二、三回続けて謳われたその言葉は城内へと響き渡り、耳が裂けてしまいそうなほど大きな声と俺たちを勇気付けるかのような勇猛さに心が躍り、さっきまでの不安が嘘のように掻き消された。
その声を背に俺は広間を後にし、ここまで来るのに乗ってきた白馬のマコトの後ろに跨った。
「では行こう。サンビタリアの名の下に。」
マコトは颯爽と白馬の手綱をとり、走らせ始めた。
その速さは風になったかのように早く、そして風になったかのように心地が良かった。
さっきまでいた城がもう目に見えないくらい離れている。
手綱を握り俺に背を向けるマコトの後ろ姿が女性だと言うことを忘れさせてしまうくらいに逞しく、頼り甲斐がある背中だった。
暫くすると街に出た。やはりといったところか街の住人達は俺たちの方を見ては嫌な顔をし、時々罵声も飛んでくる。
これから俺たちはお前達を守るために戦いに行っているって言うのに悲しいものだな。
こんなものを一人でマコトは背負ってきたんだな。その気持ちを考えると俺だったら自殺してしまいそうなくらいに胸が痛いよ。
「待ってください!」
白馬の前に一人の婦人が立ちはだかり、それに気付いたマコトは白馬を急停止させた。
「急いでおるのだが、どうかなされましたか?」
「ジニアの森に遊びに行った娘が帰ってこないの。心配で心配で…。」
ジニアの森。幻獣が出たと報告された所だ。それが間違いないのであれば子供は危険な状態だ。
「叔母さん、その無能な国王陛下様に頼っちゃっても無駄だよ。助けれませんでしたってのがオチ。頼むだけ無駄。無駄。」
それを見ていた街のいい歳をしたおっさん達がそう言いそれに続くように、そうだそうだと賛同した声や、またお前のせいで死ぬんだなどの声が浴びせられる。
それでも目の前で懇願してきた婦人は涙し、もうなす術もなく藁にでも縋るかのように俺たちを見てくる。
自分で助けに行くのが親としての務めだろうと思ってはしまうが、何もできないっていうのが自分でも分かってるから本当に何もできないのだろうな。
「分かりました。安心してください。娘様は私が連れ戻って帰ります。」
こんな言葉を浴びさせられながらもマコトは笑顔で婦人に囁いた。
その言葉を聞いて婦人は少しは安心したのか膝から崩れ落ち地面に膝をついた。
それでも泣き続ける婦人に、マコトは白馬から降りて婦人の頭の上に右手を添えて呟いた。
「聖息吹」
赤い花弁が宙を舞い婦人の周りを円で描くように舞ってから消えた。
すると先程まで泣き続けていた婦人の目からは涙が消え娘を思う不安に募る顔も安堵の表情へと変わった。
「大丈夫です。必ず連れ戻ってきます。」
「はい、お願いします。」
優しく囁いたマコトの言葉に対して、婦人は冷静を取り戻し落ち着いた様子で答えた。
マコトは白馬に乗り直し、手綱を手に取り馬を走らせ始めた。
後ろを振り返ると街の連中は誰もいなかったが婦人だけが姿が見えなくなるまで頭をずっと俺たちに向かって下げていた。
「この国もまた呪われているのだ。」
「6年前のあの日を迎えるまでは国中皆優しくて皆が手を取り合い、王家も街も皆でこの国を支えていたんだ。」
「弱き敗北者と言われた王家のクオリティも街の皆は凄いとか羨ましいだとか皆が羨望の眼差しと信頼をくれていたのだ。」
マコトが話し出したのを俺は黙って何も言わず聞いた。
「クオリティを持てない彼らはそれでも自分が生きていける手段を見つけ出し、自らの手で野菜を育て、武器を持って狩りを始め、木や石を集め家を建て、数少ない力で頭で知恵を振り絞り生きてきたのだ。」
「そんな彼らが、ある日を境に。それもファントムと契約したクオリティという己らとは違う超越した物を目の前にしてなす術もなく愛する家族や友人、恋人を失ったのだ。」
「それに比べて私達王家はクオリティを持ちつつもそれに対抗できず目の前で死にゆく人たちを見ることしかできなかった。」
「そんな王家を見て、なんでクオリティを持っているのに何もしないんだ。私たちを守ってくれないのかと思うのは当然だろう?」
「そして王家は嫌われ、他国に囚われず我が自国でも弱き敗北者と罵られるようになった。」
「それは紛いなく事実であり、皆が思うことは正論だ。」
「この国は弱いのだ。私達王家も弱いのだ。だからそんな弱い国に産まれて尚も自分が弱いと認めたくないのだ。」
「人は弱い生き物だ。自分より下の物をつくり自分はよくやっている方だと言い聞かせたいのだ。」
「それが国の他でもない王家である私がその一番低い立場になり皆に非難されるなら、国はまだ幸せでいられるだろう?」
「だから、そんな弱い彼らを許してやって欲しい。彼らはそうでもしないと自分や自分の人生の価値が見いだせなくなってしまうのだ。」
マコトの顔は見えないが、白馬が走る風に乗ってマコトの涙が俺の頬に当たる。
そうは自分で言っても、想っても。辛かったんだろうな。
昔は仲良かったってなれば尚更だ。そんなある日を境に皆の態度が変わり、自分が嫌われ者もを買って出た。
自分の国の為にだというと聞こえはいいが、並大抵の器量じゃそんなことはできない。
そんな街の連中が、今、ほんの些細なことかもしれないが娘の様子を見てきて欲しいと婦人に助けを乞われたことも俺からすれば何を都合の良いことをと思うが、彼女にとってはとても嬉しく待ち望んだことだったのかもしれないな。
俺は黙って彼女の話に相槌をするでも何か返事をするでもなく、強く強くマコトの後ろから彼女を抱きしめた。
抱きしめた彼女の体は柔らかく暖かく、それでも鍛え抜かれた強さを感じた。
俺よりもずっと小さな体で、性別も女性なのに、こんな重たい重積を背負っていたんだな。
俺も気付けば自然と涙が溢れ出て彼女の背中を濡らしながらも強く強く抱きしめた。
彼女と俺の涙が白馬が切る風に乗せて、流れゆく時間はこの世界にとってはほんの数秒かもしれないが、俺はとても長く、胸に刻まれた時間だった。