Ep.静かなる世界を求めて。
初めまして、寺田卍丸です。
最近、小説を書かのにはまってしまった歳を食った小若い衆です。
異世界転生…してみたいですよね。
僕の小説は転生しませんが…。
【初代の王がいなくなってから、玉座は数百と何千年と空席である。
『静かなる世界を求めて』
それが王の口癖であった。
きっと
貴方も口遊むであろう。
『静かなる世界を求めて』と。】
#平都暦1000年
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信じがたい話だ。まるで御伽噺のような話だ。
大昔にはこの世界全てを牛耳る王様がいて、世界は平定されていたと言う。
そんな凄い王様がいて、地位も名誉も金も女も有り余ってただろうに
『静かなる世界を求めて』
なんて格好のいい言葉だけ残して世界から姿を消したと来たもんだ。
そんなことなら王をやめる時、俺に女ぐらい分けてくれたって安いものだろう。
世界を平和にしたって、今でも貧富の差はあるし大事な時間を割いて無意味な労働を行い賃金をもらい、死に物狂いで生活してる人が多数っていうのが現状だ。
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『そんな迷信いつまで信じてんだwww
頭お花畑も程々だぜwww」
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送信完了っと。
平和ボケしてる世界の連中は平都暦1000年だがなんだか知らねえが、それにかまけてお祭り放題。
どうせこの投稿主も昔の神話を信じてるオカルターの一種だろう。
そんなお馬鹿さんには俺が鉄槌を加えないとな!
ピロン
「なんだ、誰からだ?」
このご時世に折りたたみの電子機器。平都暦1000年じゃやれAIだの、VRだのと騒がしいのに俺の時代は未だ発展途上にも程があるぜ。
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『貴方は玉座に座りますか?座りませんか?』
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おいおいここにきて何かの宗教とかの勧誘?
冗談きついぜ、おい。
こいつの投稿はお気に入りも0フォロワーも0な上、おまけにこれが初投稿。
#平都暦1000年 で平和ボケしているやつらの面白可笑しい馬鹿投稿を見ようと平日の真昼間から俺の貴重な時間を割いて見つけ出した変な投稿だからついメッセージおっくたりしちまったけど、こりゃ面倒な相手だな。
無視無視、さわらぬ神には祟りなしって昔っから言われてるだろう。
ピロン
なんだよ。また変なやつからか?
こんなハイペースで俺から返信もしてないのにメッセージ送られちゃうなんてメンヘラな彼女を持っちまった気分だぜ。まぁ、女なんて…産まれてこの方経験したことないんだけど…。
そんなことどうだっていいんだ。俺はまだ高校1年生、平都暦1000年、この栄えある年に入学できる選ばれたものだ。しかたないここは寛大な心を持ってお相手してあげるとしよう。
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『玉座に選定されました。王の資質をもつ次期王の器を持つ候補者として貴方をお守りいたします。』
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なにわけわかんないこと言って。
俺が王の資質を持っている?馬鹿馬鹿しいそんな資質があるなら俺だって今すぐこの現状から逃
その時だった。今思えば、今までは平和な世界だった。
本当に王がいたからこそ、この世界があったのかもしれない。
きっと、俺だけじゃない、この記念祭だのなんだので浮かれていた連中も同じタイミングでそう思ったはずだ。
もうここはあの時の世界じゃない。
「誰か!誰か助けてください!」
「ひぃぃ!腕が…俺の腕が…。」
外から悲鳴と恐怖に落ちた声が満ち溢れ、辺り一体は黒い霧に包まれていく。
「なんだよ…なんだよこれ…こんなのファンタジ小説やアニメを見すぎた俺の幻覚だろ?」
急いでTVをつけるも、どのチャンネルを回しても砂嵐が流れ放送という放送を行なっていない。
ようやく理解できた、いや理解するしかなかった。
これは現実、紛れもない現実なんだ。
「俺の…母さん!母さん!」
咄嗟にベッドから立ち上がり、リビングへ駆けていく。
いつもなら退屈で面倒臭い道のりが早く辿り着いて母さんの安否を確認したいと願う気持ちが募る長い道のりだった。
「母さん!」
リビングのドアを開けて目の前にした光景を俺はきっと死ぬまで忘れられないと思う。
黒い謎の霧に包まれ四肢を断裂された母さん。
その母さんの切り離された腕や脚がいつも朝食や夕食を済ます、他愛もない日常の一ページにもならないリビングに転がり落ち、母さんが横たわっている。
「創士…。」
首を絞められた猫のような声を、無理やりながら押し出した俺の名を呼ぶ声。
「母さん!しっかりして、今すぐに、俺が、俺が、俺が救急車呼ぶから!」
震えて自制心もなくなり、本当に頭が回らない。こんな状況、誰だってそうなるだろ?
だってよくわからない黒い霧に包まれて、母さんや外の皆がこんな状態じゃ。
「創士…逃げて。お母さんのことは…いいから。」
こんなどうしようもない俺でも、愛してくれた母さん。こんなどうしようもない俺でも、愛していた母さん。
こんな時でも、俺のことばかり気を遣うような母さん。
「畜生!逃げれねえよ、こんな。こんな状況じゃ。外だって黒いのばかりだし、母さん置いてなんて…。」
「創士…貴方…やっぱり優しいのね。流石お母さんの息子。大事な大事な息子…。」
俺の体も黒い霧に包まれていく。
母さんを抱いた俺の腕も、いつのまにか痛みもなく、床に転がり落ちている。
「創士…ありがとう…。」
「そんな顔して死ぬんじゃねえ!最後くらい、笑って…笑って…。」
母さんの涙を流しながら笑みを浮かべた顔が切ないほどに脳裏へと焼きつかれた。
「冗談でもいい、今はオカルトだってなんだっていい。俺が王の資質をもっているんだろ?なら助けろよ!助けて…ください…よ。」
こんな状況でよくもわからない、たかだか投稿で目にした胡散臭い俺が馬鹿にした者に縋るしか今の俺には、無能な俺には出来なかった。
ピロン
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『静かなる世界を求めて。』
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携帯の通知音とともに、俺は光に包まれた。