2~都合のいい女~
『向日葵の花束を君に。』のゲームは、母の死をきっかけに自分が子爵令嬢であったことが判明したヒロインが子爵家に引き取られ、貴族の子女のみ入学を許された学園に入学したところから始まる。光属性という特別な魔法属性を持つヒロインは、学園生活を通して攻略対象者との仲を深めていき、最終的に結ばれるという乙女ゲームにありがちなストーリーになっている。
ありがちなストーリーではあるが、攻略対象者のイラストが美麗でスチルも文句なしの美しさという点が他のゲームと比べても一線を画していたと思う。
そんなゲームの『都合のいい女』こと、エルフリーデはとてもいい子である。
乙女ゲーム『向日葵の花束を君に。』をプレイ中だった私はもちろん、この作品を愛しプレイしていた世の乙女たちの総意であると思ってもらってもいい。
インターネット上では、エルフリーデとオスカーの話題のみで盛り上がることができるほど。
『エルフリーデwwwまたしてもwww』
『嫌われ要素皆無なのに、なぜだwww』
『それを言ったら、オスカーもwww』
『オスカーをなぜ攻略対象としなかったのか』
『エルフリーデとの友情エンドがあってもよかったのに』
『エルフリーデ、最後までいい子で泣けてきた』
『エルフリーデ、そこ怒っていいとこ!!』
などなど、プレイ中の乙女たちがその都度つぶやいていた。
そう、エルフリーデはとてもいい子である。
そして兄であるオスカーもとてもいい子である。
『ファイルヒェン兄妹』自体が運営からみれば『都合のいい兄妹』なのだと思う。
エルフリーデの兄、オスカーは攻略対象者に負けず劣らずの美形として描かれている。
シルバーブロンドの髪に深い藍色の瞳を持ち、細いながらも剣術を得意としているせいか、しっかりとした体躯の持ち主。切れ長の目のせいか、どこかインテリの雰囲気もあるのが魅力的だ。
ただし、オスカーは乙女ゲームのお助けキャラである。
チュートリアルから操作方法や学園についてなどを丁寧に説明してくれる。美形なオスカーが説明してくれるので、目にも優しく、イケメンボイスのせいで真剣に説明を聞いてしまい、「お助けキャラでこれなら、攻略対象者はどんなイケメンなんだ?」とワクワクさせられる。
そして何より、オスカーの好感度をあげれば、各攻略対象者達の秘密や攻略法も教えてくれるのだ。オスカーを通して各キャラを攻略すると通常のハッピーエンドとは別のエンディングに辿り着くことができ、このエンディングが本当に良い内容でキャラによっては思わず涙してしまうほど・・・。
(だけど、攻略対象者ではないのよね~・・・・。)
スペック的にも攻略対象者と引けを取らないキャラなのに、オスカーとは恋人になれない。
ゲーム雑誌の制作会社のインタビューでは、「ファイルヒェン兄妹は使い勝手の良いキャラ。嫌われる要素がないキャラなので、すべての人に好まれるはず。だからこそ、攻略対象者からは外した。物語として考えた時にギャップもないし、単独としては弱いキャラなんじゃないかな?」なんて、書かれていた。
まぁ、気持ちは分からなくもない。
皇子、騎士、宰相子息、公爵家子息(悪役令嬢の双子の義弟)、魔法師団長子息、学園教師という肩書のそうそうたるメンバーの中に「侯爵令息」というのはパッとしない気もする。
そんなオスカーの妹エルフリーデは、更にパッとしない。
ヒロインが困っている際になにかと声をかけてくれるのだが、少しすると攻略対象者がやってきて何故かバトンタッチする。いや、最初から攻略対象者が助けにくればよくない?と何度思ったことか!
女の子のみの授業という設定場面ということもあり、設定上女の子のエルフリーデを一旦はさんでいるのかもしれない。悪役令嬢にも苦言を呈することができるのに、悪役令嬢の暴走が盛り上がる後半になると出番が減り、あれ?どこいった?状態が続くのもよくない。
(・・・・まあ、一番の問題はエンディングよね・・・・。)
そう、エルフリーデの最大の残念ポイントは『2番目の女』ということだ。
皇子の婚約者は悪役令嬢というここでもよくありがち設定なのだが、ヒロインが皇子とくっつけば、何故かエルフリーデは悪役令嬢の義弟である公爵家子息と結婚する。仲のよさそうな婚約者がいたにも関わらずだ・・・。
(しれっとエンディングでその事実が判明した時は私も流石につぶやいたわ・・・。仲良しの婚約者どこいった?!ってね。)
修道院送りとなった悪役令嬢のせいで評判の落ちた公爵家復興のため、家格の高さからエルフリーデが選ばれ政略結婚したということらしい。更には夫である公爵家子息はヒロインに「選ばれたのが僕でなくても、ずっと見守っているよ。」とかなんとか囁いている。仲良しの婚約者と別れて嫁いできたにも関わらず、目の前で夫が別の女を口説くなんて・・・・。
解せぬ。
ヒロインが皇子以外とくっつくルートでは、皇子と結婚。
国外追放された悪役令嬢の代わりに家格の高いエルフリーデが選ばれ、皇子の婚約者になる。もちろん、皇子も本命はヒロイン。皇子という立場でありながら、婚約者を差し置いてヒロインに好意をいだいていた皇子と結婚・・・・。
解せぬ。
(でも、びっくりしちゃうほど、いい子なのよね~・・・・。)
『2番目の女』になっても、ヒロインとお相手の結婚式に参加し笑顔で祝ってくれるエルフリーデ。
ヒロインが好きな向日葵を攻略対象者に配るエルフリーデ。
(この向日葵、最後にフラワーシャワー的な感じで皆が投げるのよね~。最高に綺麗なシーンだけど、美しいエンディングスチルのために演出を手伝わされているエルフリーデ。泣ける・・・。)
どのルートでも本命のいる男と結婚するエルフリーデが可哀そうで、色々試してみたけど彼女が婚約者と結婚するルートは発見できなかった。
「エルフリーデ、大丈夫かい?」
オスカーの横に立つ美青年こと、エルフリーデの父親が優しく頭を撫でてくれる。
(えーと・・・・私がエルフリーデで・・・・。ん?エルフリーデの婚約者って誰よ?!)
エルフリーデは『都合のいい女』である。
ヒロインではない都合のいい女には、細かい設定は存在しない。
エルフリーデの婚約者は、ゲーム上には一切でてこない。
姿だけでなく、名前すらも・・・・。