特訓
翌日から、イーノック先生のご指導下で家庭学習を始めた。
自分1人でしていたときよりも、効率が段違いだ。分からないところはイーノック先生が懇切丁寧に解説してくれるし、絶対に身に付けなければというプレッシャーで気合いが入る。
イーノックは根気が良くて優しいけれど、甘えを許さない厳しさも併せ持っている。
イーノックが「ここまで」と決めたスケジュールは必ず遂行される。
特に休日はみっちりマンツーマンなので、全然気が抜けなくて辛い。
しかし泣き言は言ってられない。
来月、転校してきて初めての定期テストがあるのだ。
魔法学園では3ヶ月に1度、学習成果を試す試験がある。1年間で4回だ。その4回のテストの結果を踏まえて、1年間の評定がつく。評定の種類は、『秀・優・良・可・不可』だ。不可を取ると留年する。
特待生の資格を継続する条件は、評定『優』以上を取ることだ。
国宝レベルのS級者なら余裕で『秀』を取れるはずだから大丈夫と言われて、特待生になった私だが、いざ入学してみたら勉強についていけないという有り様。
魔法に関する知識だけでなく、基礎的な学力や社会的マナーなども必要になってくるのだ。その辺りもイーノックは完璧で、なおかつ魔法の実技も完璧。
薄いとはいえ、私にも同じ血が流れているはずなんだけどなあ。
「トリッシュもラングフォードの人間なんだから、やれば必ず出来るよ」とイーノックは言ってくれるけれど。
ひいおじいちゃん同士が兄弟ということは、ひいひいおじいちゃんとひいひいおばあちゃんが一緒ということか。
どんな2人だったんだろう。
「イーノックは、ひいおじいさんとの想い出ある?」
私のひいおじいちゃんは、私が生まれる前に亡くなっている。
「あるよ。長生きしたからねえ。けど最後の方は結構ボケてたからなあ。俺を子供の頃のじいさんだと思って、ずっと話してた。しゃんとしてた頃は、子供より孫より曾孫が一番可愛いって感じの人だったんだけどさ、記憶が逆行するとじいさんとの思い出話ばかりになって。なんか、いいなぁと思ったんだよね。やっぱり幾つになっても、親にとっては子供が一番なんだなぁと思ってさ」
勉強合間の休憩時間、何となくひいおじいさんのことを聞いたら、思いがけずいい話が聞けてしまった。
自分のことを一番可愛いがってくれていたひいおじいさんが自分のことを忘れ、おじいさんの話ばかりするようになって、拗ねるでもなく、そういう風に感じることが出来るなんて。イーノックって素敵だ。
「それって、いくつのときの話?」
「5、6歳かな。7歳のときに死んだから」
たった5、6歳でか。認知症のひいおじいさんにおじいさんと間違えられたまま話し相手となり、その親子愛に感銘するとは。ずいぶん早熟で大人びた少年だったんだな。
イーノックらしいなと思った。
「トリッシュは? ひいおじいさんとの想い出ある?」
「ないの。私が生まれる前に亡くなったから。ひいおばあちゃんと駆け落ち結婚だったことも知らなかったし」
「そうか……。うちのひい爺さんも、弟がいた話はしたことがなかったな」
「家を捨てて、駆け落ちした弟だものね。きっとその時点で、いないことになったんだわ」
「すごいよな、家を捨ててまで貫きたい大恋愛って。俺には想像できないな」
イーノックが言った。
「さて、休憩はお仕舞い。理屈は休憩前に説明した通りだから、次は実践といこう。トリッシュの属性は地だから、水の魔法との相性もいいはずだ。大地に脈々と流れる水をイメージして。母なる大地から湧き出る水を」
イーノックの家の敷地内には、魔法の練習場がある。休日にはそこに籠って、魔法の実践の手ほどきを受けている。
イーノックに教えてもらうようになってから、地の魔法は安定して、一級レベルのものは普通に使えるようになった。それ以上となると難しい。
そこで一旦地の魔法は置いといて、次に相性が良いと思われる水の魔法を特訓している。
地の魔法は1級。それ以外にもう1つ、2級以上の魔法が使えて、筆記テストでもそこそこの点を取れれば、評定『優』は固いだろうとイーノックは言う。
優を取って、来年も特待生でいられるように頑張らなくっちゃ。
ちなみにオールA級で筆記テストもほぼ満点のイーノックは、当然評定『秀』だ。