学生の本分は勉強ですから
「まさしくトリッシュのことだな」
自分の価値を正しく分かっているイーノックは、私の価値を見誤っている。
「イーノック、私は全然優秀じゃないわ。S級の魔法が使えたのは、あの災害のときだけ。火事場の馬鹿力だったんだわ。普段の調子では、及第点を取れるかも怪しいわ。座学も全然ついていけないし。みんな6歳やそこらで魔法学園に入って、ずっと勉強してきたのよね。土台が違うわ、ついていけない」
学園に転入して1ヶ月が過ぎ、感じていたことだ。
学費が浮くと喜んで特待生制度に飛び付いたものの、早くも勉強についていけない。
この調子で定期テストを受ければ、あまりに成績が悪くて、特待生から外されるんじゃないかと不安だ。
勉強の悩みを打ち明けると、イーノックはすぐにこう言った。
「分かった。じゃあ一緒に勉強しよう。俺がトリッシュの家庭教師になるよ。平日の夜は家で座学を、休日には外で実践的なことを。俺がマンツーマンで教えれば、絶対に身に付くよ」
そ、それはとてもありがたい申し出だけど、腰が引ける。
『絶対に身に付く』とまで言われたらプレッシャーが大きい上に、ウィレミナ様の顔がよぎるからだ。
イーノックとはなるべく距離を置いて、ウィレミナ様を刺激しないように気を付けていたのに。
「それは悪いわ。イーノックにそこまでしてもらうのは」
「遠慮は無し。トリッシュの後見人になっているうちの親も、そうしろと言うだろうね。万一トリッシュが落第して、特待生から外れるようなことがあれば、うちの面子に関わる。トリッシュには権利と義務があるんだよ、ラングフォード家の一員として。やることはちゃんとやってもらわないと」
う、それを言われると言葉がない。
『学費と生活費が浮くからラッキー』だけで済まない。
そのための結果を出さなくてはいけないのだ。
「……はい、頑張ります」
「はい、良く言えました」
どっちが年上だか。
大人びた顔で微笑み、イーノックは言った。
「努力する人間は美しい。好きだ」
努力を始める前から、プレッシャーばかりがかかる。
3級以下の人間は交流価値がないと言い切るイーノックの評価基準は高い。
頑張っても、そこまで至らなかったらどうしよう。私のS級認定は、まぐれ当たりみたいなものだから。
本当に定期テストまでに何とかしなくっちゃ。困るのは私だ。
こうなったら背に腹はかえられない。
ウィレミナ様がどうとか、言ってられない。
「イーノック先生、何卒よろしくお願いします」
「うむうむ、苦しゅうないぞ」
翌日から心を入れ替えて(?)勉強に精を出した。
学生の本分は勉強ですもんね。さあ勉強勉強!
あの断罪劇があり、セリーナが退学してから、他の友達2人も学園を去った。
1人になった私は、クラスで腫れ物を触るような扱いだ。
いや、触らぬ神に祟りなしだ。
私に何か起こればイーノックが乗り込んで来ると、みんな学習したのだ。
ラングフォード家の跡取り息子であるイーノックは、皆に恐れられている。
イーノックのご両親を始め、ラングフォード一族は、国の重要機関の重役に就いていたり、大資産家だったりする。
彼らの下で働いていたり、援助や融資をしてもらったり、仕事を依頼してもらっているのが、みんなの親や親族なのだ。
だからイーノックのご機嫌を損ねることは御法度だ。
私はイーノックの親戚とはいっても血は遠く、ラングフォードの姓を捨てて縁を切った家出人の曾孫だ。
事情がありイーノックの家に下宿しているが、イーノックと親しい仲ではないと周りに強調していた。
だから、私への嫌がらせの対応にイーノックが出てくるとはみんな予想していなかったのだろう。私も驚いたし。
結果、みんなを騙したような形になってしまった。
虎の威を借る狐になりたくない、クラスに友達が欲しいとイーノックを遠ざけておいて、結局イーノックに頼っている。
Wヒーロータグ付いてますが、いつになったらタイトルの『食堂のお兄さん』出てくるねんと自分でも思う今日この頃。
タイトル変えたほうがいいのかしらー。
てかヒーローは1人に絞ったほうが良いのかしら。