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断罪劇は突然に

 翌朝登校し、『ロッカーよりイーノックを信頼して』通学鞄と実習着を教室後方にある棚へ置いた。


 主な座学は制服で受けるが、実践的な教科は、実習着と呼ばれる運動着に着替えて受ける。

 教室を離れた隙にまた隠されたり捨てられたりしないだろうか心配だが、ずっと見張ってもいられない。

 教室移動が必要な教科が多いし、トイレにだって行くもんね。


「ねえ、トリッシュ大丈夫? 無防備に棚に荷物置いちゃって。またやられるかもよ? 鍵付きロッカーに入れて置いた方がいいんじゃない?」


 セリーナが親切にアドバイスしてくれたが、「多分もう大丈夫」と曖昧に笑った。イーノックの名前を安易に出すことは、私の目立ちたくない希望に反する。


 何しろ、私の遠縁の男の子は有名人すぎる。


 イーノックの私生活について聞き出したがるクラスメイトは多いが、身内の個人情報をペラペラ喋ることには抵抗があるし、イーノックとの関係を誇示するようで嫌だから、「よく知らない」と言ってかわしてきた。


 虎の威を借る狐にはなりたくない。

 嫌がらせの件も、イーノックの力を借りて解決するつもりはなかったのに、耳に入ってしまった。


 昼食をセリーナたちとカフェテリアで取ったあと、日直の仕事でマリガン先生に呼ばれていたので職員室へ行き、大量のプリントを抱えて教室に戻った。


 そして、びっくりした。教室にイーノックがいたからだ。


「お帰り、トリッシュ。大量のプリントだな」

「日直の仕事で。イーノック、どうしてここに!?」

「そろそろ無くなってる頃だと思ってね」

「え?」


 イーノックは教室の棚をトントンと指で叩いた。私のネームプレートがついた場所に、あるべき物がない。


「実習着が……ない」

「だね。今朝、ちゃんと持って出たもんね。で、俺の言うとおり棚に置いていた?」


 こっくり頷くと、イーノックは口角を上げた。


「良くできました。じゃあ探しに行こうか」


 イーノックにぱっと手を握られて、教室から連れ出された。

 え!?

『無くなったら俺が責任を持つ』ってこういうこと?

 一緒に探してくれるってことだったのか!

 しかも手! お手手繋いで仲良く……ってこれめっちゃ目立ってない!?


「あっあのっ、イーノック……」

「ん? 大丈夫、すぐ見つける。馬鹿の一つ覚えみたいに、またゴミ箱だ」


 目的地が分かっているかのように、イーノックの足取りに迷いはない。

 スタスタと早足で、しかも足が長いから本当に早い。引っ張られる。

 ピタリと足を止めたイーノックが、前方を指して言った。


「ほら、あそこだ」


 二階の渡り廊下を渡りきったところに手洗い場があり、そこにゴミ箱があった。

 その前に立ってたのは、セリーナだった。

 ぱっとこっちを見て、ぎょっとした顔をした。イーノックがいるからだろう。


「あっ……えっと、あったわ、トリッシュの実習着。無くなってるのに気づいて、探してたの」


 セリーナの手には、私の実習着が入った袋が握られていた。実習着入れに学園の指定はなく、各々好きな柄の袋を使っているため、私の物だとすぐに分かった。小さなサクランボ柄の巾着だ。

 それを見せて、セリーナは固い笑顔を浮かべた。


「ありがとうセリーナ」


 なんて優しい友達だろう。私が気づく前に見つけて、戻しておいてくれるつもりだったなんて。


「良い友達を持ったな」


 イーノックもそう言って、握っていた私の手を離してセリーナへ差し出した。


「俺が持つよ」


 セリーナの顔色が悪い。張りついたような笑顔のまま、固まっている。


「どうした、早く寄越せよ」

「イーノック、やめて。緊張してるみたい」

「あの、わ……私が、教室まで持って行きます」

「てか、一生それ握っとく? 手を離せないんだろ? それ、俺が癒着の魔法をかけたからね。トリッシュ以外の人間が触ると、離れなくなるように。今朝かけておいた」


 えっ!と驚いたのは私だ。

 いつの間に……朝、車へ乗り込む前に荷物を持ってくれたときか。

 でもなんでそんなことを……


「お前さあ、それ見つけて拾ったんじゃないよな? トリッシュの棚から取って、捨てようとしたけど、手から離れなくて困ってた。だろ? はい、お前が犯人」


 イーノックの言葉に頭が真っ白になった。

 な、何を言ってるのイーノック。


「ちっ、違います! ここで見つけて拾って、それで手から離れなくて……」

「んな訳あるか。仮に、それをここに捨てた奴が俺の魔法を解除できるほどの能力者だったとして、そいつはまた新たに癒着の魔法を自分でかけ直したってことになるが。他人の風属性の魔法を解除したときと、自分の風属性の魔法を解除したときでは、違いがあります。さて、何でしょう? 4級の馬鹿は知らないかな」


 私も知らない。

 青ざめるセリーナに向けてイーノックは右手をかざして、解除と言った。

 すると私の実習着入れを握っているセリーナの右手の辺りから、透明の鳥が現れてバサバサと翼を動かした。小さなつむじ風が巻き上がり、くるくると旋回した鳥はイーノックの手のひらに吸い込まれるようにして、消えた。


「自分のかけた風属性の魔法のうち、使い魔を使役した場合は、解除すると主人の元へ帰ってくるんだ。これで証明できたな。俺が今朝かけたトラップに引っ掛かったのはお前だってことが。お前がトリッシュへの嫌がらせの犯人だ。言い逃れは許さない」



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