表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/33

嫌がらせ

 泥棒猫呼ばわりされた翌日から、分かりやすくて地味な嫌がらせが始まった。

 教室に置いていた教科書が数ページ破られていたり、机に油性ペンで小さく「バカ」と書かれていたり。

 失った教科書のページはセリーナに複写させてもらい、机の落書きはセリーナが水属性の洗浄魔法で消してくれた。


 自分が第一発見者ならひっそりと自己処理したが、落書きを最初に発見したのはセリーナで、朝教室に行くと私の机を取り囲んで数人で騒ぎ立てていたのだ。


「あっ、トリッシュ。ちょっと見てよ、これ!」

「ここ、この落書きよ。ひどいでしょ、ねえ机の中身は無事? それもちゃんと確認した方がいいよ!」


 セリーナたちに急かされて机の中身を確認し、置いていた教科書が破られていることも判明した。


「どうする、マリガン先生に言う?」

「トリッシュが言いにくかったら、私たちが言うよ」

「犯人捜し出して、とっちめましょう」


 いきり立つみんなに、セリーナが「待って。もしかして……」と声を落として言った。


「生徒会長じゃない? 昨日トリッシュ、因縁をつけられてたじゃない。この泥棒猫って言われたんでしょう」

「えっ、何なにその話!」

「しっ、声が大きい。あのね……」


 セリーナはヒソヒソと周りの友達に昨日の出来事を話した。


「すごい、修羅場ね」

「イーノック様の取り合いね」

「ウィレミナ様を敵に回すと怖いわね」

「でもイーノック様はトリッシュのことを気に入ってるし、ウィレミナ様よりトリッシュの肩を持つんじゃない?」

「だから目の敵にされるんじゃない」

「ああ、そうよね。それが原因だものね。ねえトリッシュ、どうするの?」


 皆が騒ぎ立てる中、私は冷静に思った。


「これ、ウィレミナ様がやったんじゃないと思うわ。下級生の校舎棟へ来て、教室で何かするのって目立つし。ただでさえウィレミナ様は目立つお方だから、そんなことをしないんじゃないかしら……誰に見られるとも限らないし」


「そうね。でもそこはほら、手下を使ったのかも。生徒会長だもの。取り巻きが沢山いて、下にも顔がきくのよ。自ら手を汚さずとも、嫌がらせくらいできるのよ」


 セリーナが言った。

 予鈴が鳴り、担任のマリガン先生が教室に入ってきたため、そこで話は中断した。

 私への嫌がらせが、生徒会長のウィレミナ様の指示によるものかもしれないと気付き、皆も少し怖じ気づいたようだ。

 犯人を捜し出してとっちめようとは、もう誰も言わなかった。

「どうするの?」とだけ聞いてきた。


 どうしよう、分からない。

 嫌がらせをされて腹立たしいし悲しい気持ちはあるが、犯人を捜し出してとっちめる勇気は私にもなかった。


 異端児の転校生として注目を浴びていることで、ただでさえ居心地は良くない。

 変な騒ぎを起こして、さらに悪目立ちするのは避けたい。

 生まれながらに優秀で名門の出で、見目麗しく、どんな視線を浴びても颯爽としていられるイーノックやウィレミナ様とは違う。

 私は注目されるのが苦手なのだ。

 なるべく目立たず、敵を作らず、人畜無害に生きていきたいと願っている。

 S級のオーラが全然ないとウィレミナ様に言われたけれど、オーラなんてなくていい。


 このくらい別に大したことないと地味な嫌がらせに耐え続けていたある日、イーノックにラングフォード家の書斎に呼ばれた。


 イーノックとは学校でなるべく接触しないように気をつけていた。

 クラスメイトとの付き合いを優先したいと告げて、ランチはセリーナたちと取ることにしていた。元々学年が違うため、わざわざ出向かなければイーノックと顔を合わせることもない。

 まあ通学の送迎の車は同じで、帰る家も同じなんだけど……。


「トリッシュ。学校でひどい嫌がらせを受けているという噂が耳に入ったんだが、本当か?」


 ドキリとした。イーノックの耳に入るほど噂になっているとは知らなかった。


「ひどいってほどのものじゃ……ちょっとした悪戯よ」


「へえーー例えば?」


 イーノックの口調は落ち着いているが、視線が鋭くて痛い。

 蛇に睨まれた蛙のように身が縮こまる。


「教科書やノートを破られたり、机に落書きされたり、ポーチをゴミ箱に捨てられてたり。でも物は全部鍵のかかるロッカーに入れるようにしたから大丈夫よ。落書きは水の魔法が得意な友達が消してくれるの。自分でも消せるように、もっと魔法の訓練しなくちゃね」


「教科書ノートや実習着や鞄から何から、全部ロッカーに押し込んでるのか? 無理がないか?」


 イーノックの言う通り、少し無理はある。本来机の中に入れて置くものや机の横に吊って置くものや、棚に入れておく鞄や実習着など全部を、ロッカーに押し込むのだから、ぎゅうぎゅうだ。

 授業のたびにそこから物を探し、人の倍以上の時間を要する。

 しかしそうしておかないと、棚に置いていた実習着がいつの間にか無くなっていて、トイレのゴミ箱から出てきた経緯がある。


「トリッシュ」とイーノックが険しい顔のまま言った。


「明日からその必要はない。机の中に教科書ノート、文房具、棚には通学鞄と実習着を入れるといいよ。もしそれらが無くなるようなことがあれば、俺が責任を持つから。いいね? 俺がこう言っても鍵つきのロッカーの方が信頼できる?」


 はい、ロッカーの方が信頼できますなんて答えようがない聞き方だ。

 イーノックの迫力にごくりと生唾を飲んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ