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ラングフォード家からの引っ越し

 アニーの言葉に現実を突きつけられた思いがした。

 世間の常識では、魔法使いは魔法使いとの結婚を望む。じゃないと、魔法使いが生まれる確率がぐっと下がるからだ。


 イーノックが私との結婚を望んだのも、それが一番だった。


 最上級生が卒業し、春休みに入ってすぐ私は引っ越した。

 一年間お世話になったラングフォード家を出て、クリフさんが仲介してくれたシェアハウスへ移った。


 古いけどしっかりした造りの一軒家で、魔法セキュリティも高度で安心できるとおじさまも認めてくださった。

 各自室には魔法で使役した部屋番がいて、部屋主の許可なく立ち入ることができない契約だ。

 家全体にも防犯の結界が張られている。家主との約束事を守れると宣誓した者だけが入室でき、約束事を破るとその場に拘束される。

 そう聞くと恐ろしいが、だからこそ安全に守られているという安心感がある。


 家を出る前に、イーノックと話をした。

 おじさまから、私のプレッシャーになっていると言われて以降、イーノックは私との距離を置いていた。

 どう接していいのか、距離感を計りかねているといった感じだ。

 期待外れだったと見切って、冷淡になったわけでもない。

 スパルタ指導の責任を感じて、自責しているようだ。家を出る前に改めて謝罪されたので、


「何度も言うけど、イーノックのせいじゃないのよ。単に私の能力不足」


 と笑ってみせた。

 本当にそう思うし、実際こうしてラングフォード家を出ることになって分かった。

 思ったより落ちこんでいないし、開放的な気分になっている。


 年度末の成績を落として、特待生枠から外れたときにはひどくショックで、みんなに申し訳なくて死にたいくらいの気持ちだったけど。

 結果を正面から受け止め、ショックを消化する日にちが経てば、「まあ仕方ないか」と思えるに至った。


 私はやれるだけのことはやった。よく頑張った。

 頑張ったけど駄目だったのは仕方ない。


 イーノックもそう思ってくれたら良いが、生まれつき恵まれていて、挫折知らずのイーノックには「努力してもダメなことがある」とは思えないのだろう。


「俺はまだ信じてるから」と引っ越しの日にも言ってくれた。


「せっかく伸びかけた芽を俺が潰してしまったけど、トリッシュの才能は膨大に眠ってる。きっかけさえあれば、芽どころの話じゃない。大樹がニョキニョキ生え繁って、きっと世界を変える」


 真剣に言ってから、ばつの悪い顔をした。


「ああ、これが悪いんだな。プレッシャーを与えるってやつだ。トリッシュは否定してくれていい。俺が勝手に信じてるだけだから」


「ありがとう」


 不意に泣きそうになった。

 遠い親戚の一つ年下の男の子が、あまりに純粋な気持ちで慕ってくれるから。

 イーノックと過ごした一年間の思い出が、走馬灯のように頭を駆けめぐる。


 転入当初の嫌がらせ事件を解決してくれたこと。毎日ランチを一緒に食べたこと。交際を申し込まれたこと。勉強を手取り足取り教えてくれたこと。一緒に出たパーティー、夏休み帰省で一緒に見た景色、海辺の別荘での合宿……


 今生の別れじゃあるまいし。泣いてどうすると、ぐっとこらえた。

 頑張ったけど駄目だったのは、全部自分の責任だ。納得している。笑って別れたい。


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