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シェアハウス見学

 執事のハワードさんに話を通し、シェアハウスの見学に行くことをおじさまにご了承いただいた。

 クリフさんに電話をした。知らない人が出たが、すぐにクリフさんに取り次いでもらえた。

 次の日曜に見学に行くことに決まった。学園の食堂で働いているクリフさんは、基本的に日曜が休みだ。

「アニーも誘っていいですか?」

「もちろんいいよ」

 当日、待ち合わせ場所に来たアニーは私以上にソワソワしていた。

「2軒隣にクリフさんが住んでいるなんて、本当にいい環境ね。学園からもバスで二駅だし」

 アニーの評価基準は、前者に重点を置いているようだ。

 最寄りのバス停まで迎えに来てくれたクリフさんは、相変わらず爽やかでにこやかだった。

 私とアニー、平等に話を振って場を繋いでいく。気づかいが上手だ。

 クリフさんと一緒にいるときは、周りが気にならない。クリフさんが上手くもてなしてくれているから。

 イーノックもいつもエスコートしてくれていたが、ハラハラしっぱなしだった。

 誰かがイーノックの機嫌を損なうことをしないか、イーノックがまた尊大な態度を取らないかと、気を揉むことが多かった。

 そうならないようにと気を配り、イーノックが上機嫌ならほっとした。

 イーノックが私のプレッシャーになっている、とおじさまは言った。確かにそうだったんだろう。


 逃げるようにラングフォード家を出て行こうとしている今、イーノックに合わせる顔がない。

 まだ同じ屋根の下に住んではいるが、おじさまの配慮で学園への送迎車は別になったし、もうじき春休みに入る。

 来週は最上級生の卒業式があり、卒業祝いパーティーも行われる。

 卒業生とその親族、卒業生が直接招待した在校生のみ出席するパーティーだ。

 イーノックは従姉妹で生徒会長のウィレミナ様の招待を受けて、出席する予定だ。エスコート役として指名されたのだ。

 もし私がS級認定の特待生のままなら、イーノックからプロポーズされる資格を得ていた。イーノックが、ウィレミナ様のエスコート役を引き受けることはなかったはずだ。

 ずしりと敗北感を感じる。

 イーノックを本当に好きかどうか分からない、実際にプロポーズされてみないと分からない、なんて偉そうに思っていたのに。

 結局、そのスタートラインに立つこともできなかったんだ。思い上がりもいいところだった。

 イーノックがあまりに凄い凄いと、手離しで褒めてくれるから。まっすぐに特別な好意を向けてくれるから。調子に乗ってしまったんだ。


「どう? 気に入ったかな?」

 クリフさんの穏やかな問いかけにはっとした。

「はい。お部屋の感じもいいですね。なんか落ち着きます。実家の部屋みたいで」

 クリフさんの紹介してくれたシェアハウスは、一階が共用スペースで、二階が個人部屋になっていた。四部屋あって、二部屋は来年度の新入生が予約済とのことだ。

 勉強机とコンパクトなベッドが備え付けなのもいい。クローゼットの大きさもちょうどいい。

「シェアメイトとの顔合わせが、まだできないのが残念だけど。あの魔法学園の生徒さんだから優等生だし、後輩になるね」

 クリフさんが言った。

「地方から出てくる子たちなら、きっと純朴でいい子たちよ」

 とアニーが言った。

「トリッシュと私もそうだし」

「私はど田舎から出てきたけど、アニーはお父さんの仕事の都合で、世界中を飛び回ってたんでしょ。同じではない気がするけど」

「世界中の僻地よ。ど田舎もど田舎。魔獣の生息地なんて」

「桁違いなのね。グローバル」

「そうよ」とアニーは可愛く笑い、

「二人ともいい子だよね」というクリフさんの言葉に頬染めた。

 アニーとクリフさんは本当にお似合いだと思う。上手くいってほしい。


 入居するかどうかの返事は近日中にすると約束し、クリフさんと別れた。

 バス停へ向かいながら、アニーが言った。

「私もあの家に越したいなあ。トリッシュと一緒に暮らせたら、夜までお喋りしたり、また一緒にパンを焼いたりできるし」

 想像すると、楽しみにしてしまいそうになる。

「そうなったら嬉しいけど、せっかく入れた学園寮を出るってもったいないよ」

「うん。パパも賛成しないだろうし、無理。無理って分かってるから、余計悔しい」

 言葉以上にがっかりした様子のアニーに、

「クリフさんのことなら、任せて」と言った。

「情報が入ったらアニーに伝えるし、もし会う機会が作れたらアニーを呼ぶわね」

 アニーは少し目をみはってから、ありがとうと微笑んだ。

「協力してくれて嬉しいわ。でもね、あんまり深入りしても駄目なの」

「え?」

「これ以上クリフさんを好きになっても、困るの」

「どうして?」

 不穏な空気に眉をひそめた。

「だってクリフさんは非魔法使いだもの。魔法使いは魔法使いと結婚しなきゃ。パパは常々そう言ってて、研究者の弟子の中から優秀な魔法使いを私の婚約者にするって」



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