良かれと思ったことが裏目に
仁王立ちしているゴーレムと砂浜に横たわるイーノックを置いて、走り出そうとしたとき、ゴーレムが動き出した。
両腕を大きく振りかぶると、ドスンドスンと両足を踏みしめて、こちらに向かってきた。
えっ、嘘、イーノックが操っていないのに動き出した!?
最初の一撃は咄嗟にかわした。
なるべくイーノックから距離を取って、こっちに引き付けなくちゃ。
しかし振り切れる相手ではない。
このまま背を向けていては危険だと判断し、観念して足を止め、振り向いた。
その瞬間、ゴーレムの大岩のような腕がパンチを繰り出してきた。
さっきまでイーノックに稽古をつけてもらっていたのだ。トレーニング内容を生かし、砂塵の防御魔法を発動させた。
しかし先ほどとは比べ物にならないほどゴーレムの動きは速く、パワフルだ。
手加減なしの本気モード。
防御魔法が力で押し負け、後方に吹っ飛ばされた。
砂浜に尻餅をついた。
立ちはだかるゴーレムが太陽を遮り、暗い影を落とす。岩窟のようにゴツゴツとした顔に洞穴のように窪んだ暗い目で、私を見おろすゴーレムは非情だ。
直立不動したゴーレムはゆっくりと両手を広げて、こちらに倒れこんできた。
全身で押し潰す気だ。
腰を打った痛みと恐怖で足がすくみ、動けない。
目を瞑った。もう駄目だ、死ぬ……
助けて、イーノック――!
覚悟した瞬間は訪れなかった。
ばらばらと頭上から砂が降りかかった。
砂ぼこりにむせ返りそうになりながら、薄目を開けて、状況を確認した。
一体何がどうなって……
「あ」と口をぽっかりさせた。
崩れたゴーレムの砂塵が舞い散る中、立っていたのはイーノックだった。
良かった、無事で――!
というか、イーノックが助けてくれたんだ。
何か言葉を発しようとしたが、口を開けたまま硬直してしまった。
イーノックの私を見る目に、失望が浮かんでいたからだ。
そしてため息混じりに吐かれた言葉。
「駄目だったか……」
それは大きな落胆を意味していた。
呆然とする私を助け起こし、イーノックはネタバレを話した。
ゴーレムが暴走したのは、そう見せかけただけで、絶体絶命の危機に瀕して、私の潜在能力が解放されるかもと期待したそうだ。
本当に死ぬかもしれないと思った私は、ショックのあまり、イーノックの話に何一つ共感が出来なかった。
そうして一泊二日の合宿は幕を閉じ、この特訓は悪い方向へ作用した。
ゴーレムに殺されかけた恐怖がトラウマとなり、私はすっかり魔力のコントロール能力を失ってしまったのだ。
年度末の実技試験の結果は散々なものとなった。順当にいけば「良」は取れると思っていた評定は「可」となり、特待生の枠から外されることが正式に決定した。




