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学園の外で

 


 パン作り講座は夏休みに入って4日目、学園から車で15分ほどのパン屋さんで開かれた。

 閑静な住宅街の一角にある『クレヌージェ』というそのパン屋さんは、いつも学園へパンを納入しているそうだ。クレヌージェのパンは学園の購買部で売られていて、学食のランチのパンもクレヌージェのものだそうだ。


 そう教えてくれたのは、学食のお兄さんだった。

 お兄さんは本日、パン作り講座の助手として私たちの前に現れた。お兄さんの顔を知っている生徒たちがざわついた。


「ねえ、この人って……」

「食堂のお兄さんだよね」


 その声を拾って、お兄さんはにこりと笑った。


「はい。皆さんの学園のカフェで働いています、クリフトン・ベイカー・マッソンと言います。クリフと呼んでください。クレヌージュ店主のベンジャミンは、僕の兄です。一回り離れてるけど仲はとてもいいよ。今日はどうぞよろしくお願いします」


 先に自己紹介があったベンさんは、大柄でガッチリとした体格だ。優男風のクリフさんと全く違うタイプだと思ったが、そう言われてみると顔の作りが似ているような……?

 赤茶がかった金髪も同じだし、二人とも少し垂れ目だ。人をほっとさせる感じの笑顔。


 パン作りは4人組の班に分かれて、教えてもらった。生徒は全員で8人なので2班だ。

 一緒に参加申込みしたアニーと同じ班になれた。

 学園外で会う、エプロン姿のアニーは新鮮だった。初めて会った日にさらっと話しかけてくれたように、アニーは他の初対面のメンバーにも気さくに話しかけていた。

 アニーはさばさばしているけれど可愛らしくて、本当に親しみやすい女の子だ。


 和気あいあいと作業は進み、パン生地を発酵させるため、合間で2回休憩を取った。その間にレシピに書き込みしたり、マッソン兄弟に質問をしたり、雑談をした。


 そのときの話で分かったのは、クリフさんは20歳で、お兄さんのベンさんは32歳。

 ベンさんは既婚者で、一児のパパ。奥さんは一緒にお店を手伝っているけれど、休店日の今日は子連れで実家へ帰っているそうだ。

 クリフさんは独身フリーで、いつか自分の店を持つことを目標に、学園カフェのシェフをしている。

 ということをこの短時間でぐいぐいと聞き出した、女子たちの聞き込み能力には脱帽だ。

 クリフさんが彼女無しの独身フリーだと言ったときには、目の色を変えた女子がいた。


 クリフさんがモテるのは理解できる。

 誰に対しても柔らかい丁寧な態度、親しみやすい笑顔。

 イーノックのように完璧に美しいというのではなく、全体的に品があって所々に愛嬌がある。良いタイミングでふわりと笑い、かと思えばすっと真面目な顔に戻る。

 優しくて真面目な人じゃないと美味しいパンが焼けないのかもしれない。


 マッソン兄弟の指導の下、焼き上がったミルクパンを皆で頬張りながら、ふんわかと丸い気持ちになった。

 甘すぎずほんのり甘い、ミルクの風味が口いっぱいに広がる、優しいパンだ。

 焼き上がったパンは2個食べて、2個はラッピングして持ち帰った。イーノックと一緒に食べよう。


 帰り際、ベンさんがチラシを渡してくれた。

 今日は特別な1日ワークショップだけれど、夏休みが明けてからも月に一度、パン作り教室を開いているそうだ。その案内のチラシ。

 また興味があったらどうぞとベンさんが言い、何人かの女子は真剣に悩んでいた。


 お店を出ると迎えの車が待っていたため、アニーと手短に別れの挨拶をした。

 また学校でね、とアニーが言った。

 アニーと個人的な話はあまり出来なかったけれど、今日1日ですっかりタメ口で話してくれるようになったことは進歩だ。


 学園の外というのが良かったのかもしれない。他の女の子たちとも自然に話せた。

 かちっとした制服に身を包み、魔法の等級で上に見られたり下に見られたりする世界は、やはりどこか窮屈だ。



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