表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

夏休みの予定

 

「ああそうだ、トリッシュのご家族から夏期休暇中の帰省について連絡が来たよ」


 おじ様が言った。


「好きなときに帰ってきていいそうだ。夏期休暇が始まったらすぐに帰るかい? 君の好きなようにしてくれていい。日が決まったらハワードに伝えておくれ。手配させる」


「はい、分かりました。ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げて、書斎を後にした。

 もうじき実家へ帰省できると聞いて、気持ちが軽くなった。


「トリッシュ。その帰省の件だけど」とイーノックが声をかけてきた。


「トリッシュの実家へ、俺も行っていいかな?」

「えっ!?」

「ああ、何も最初から最後までくっついて行くんじゃなくて。トリッシュが帰ってしばらくしたら、訪ねて行きたいって意味。日帰りでいい。家族水入らずのところへ、そう何日もお邪魔するつもりはないよ」

「あ、うん……それはいいけど。すごく田舎よ? 観光地でもないし、見て楽しいものもないわよ」

「うん、大丈夫。観光はどうでもいい。トリッシュのご家族に挨拶したいだけだから」


 家族に挨拶と聞いて、ドキッとした。

 それはまさか、将来の婚約者として?


「そっ、それはまだ気が早い気が。一年後に私が優以上の評定を取れないと、プロポーズもされないんだし」


 焦って言うと、イーノックは目を丸くして笑った。


「あっいや、プロポーズ云々は置いといて。大事なお嬢さんを預からせて頂いている家の代表として、挨拶をね。トリッシュのこっちでの様子とかさ、本人以外の口からも聞いたほうが安心するだろうからね」


 落ち着いた微笑を返されて、かあっと顔が熱くなった。早とちりして恥ずかしい!

 プロポーズを受けるかどうかまだ決めてないと言っておきながら、これじゃすごく前のめりみたいじゃない。恥ずかしい恥ずかしい。


「あっ、そうよね。ごめん変なこと言って!」

「ううん。それはちゃんと決まったら、勿論改めてちゃんと挨拶させてもらうよ。ちゃんと決まらない内はあちこちに言わないようにって、親父に言われちゃってさ。ウィレミナに言ったから、そこから叔母さん連中にも話が回ったらしくて」


 げげ。顔色を赤くしたり青くしたりと忙しい私を見て、イーノックが言った。


「大丈夫だよ。みんなに認められるよう一緒に頑張ろう。あっ、そうだ。観光はどうでもいいって言ったけど、トリッシュの地元でどうしても見たい場所があるんだ」


「どこ?」


 そんな貴重な場所が田舎にあっただろうかと思考を巡らせる私に、イーノックはキラキラと瞳を輝かせた。


「トリッシュが復元した山。現場を実際に見たいな」


 数ヶ月前、地元は歴史的な豪雨に見舞われ、里山が崩れた。土砂崩れにより、家と父の職場との道が分断されてしまった。

 多くの人々の安否確認が取れず、とにかく崩れた山をどうにかしたいと必死で祈った結果、S級の魔法が使えてしまったのだ。

 そして一躍有名人となった私は、国の推薦を得て王都一名門の、魔法学園に転入できた訳だけど……。そこでの成績は冴えない。


「行ったら見られる? 立ち入り禁止とかになってない? 写真をたくさん撮りたいなあ」


 イーノックのワクワクした様子が眩しい。夏休み中に帰省した田舎で落ち合う約束を交わすと、すこぶる嬉しそうだった。


「あ、でもイーノックの家の予定は大丈夫なの? 長期休暇だし、家族旅行とか」

「行かない。うちは両親とも仕事漬けだよ。俺も夏期休暇中は、親父の仕事手伝うし。けど、トリッシュを訪ねて行く日は絶対に予定は空ける」

「おじ様の仕事を手伝うって……」


 おじ様は自営業者ではないし、国家のお仕事をしている。いくら優秀でも未成年の家族が手伝える仕事ってあるのかしら。


「国務じゃないよ。うちの親父、よくパーティーやら親睦会やらセミナーだのに招待されるんだけど、仕事でほぼほぼ行けないから。長期休暇の間は、俺が代わりにそーいう系に顔を出すんだ。ラングフォード家当主の一人息子が顔を出しておけば、体裁は整う。いずれ家は俺が継ぐからね。先方の顔は立つし、各方面にパイプを繋いでおけば俺も社会に出てからやり易いし」


「なるほどぉ」


 感嘆の溜め息が漏れる。この歳ですでにそこまで考えて、家の代表として社交を担っているわけだ。


「イーノックってやっぱり凄いのね」

「そう? そうでもないよ。へらへら笑って社交辞令を言うくらい、誰でもできる」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ