生徒会室でランチ
クラスメイトたちはおおむね友好的に接してくれた。
両親共に魔法使いで王都で生まれ育った、王道スタンダードな『魔法使いの子供』の人生を歩んでいる彼らと違い、両親共に非魔法使いで、ど田舎出身という私は異端児だ。
物珍しがり、私の話を聞きたがった。
クラスメイトたちもイーノックと同様、大人っぽくて洗練されている。
お洒落な制服を見事に着こなし、所作も上品だ。
この魔法学園の入学条件は『属性一つでも5級以上の魔法が使えること』だ。
入学時点で6級以下の魔法しか使えない子供は、ランクを下げた学園に入りレベルアップをはかり、この学園への編入を目指すらしい。
お昼休みに入り、4人組の女子が一緒にランチを取ろうと誘ってくれた。
友達作りは初日が肝心だと心得ている私は、喜んで誘いに応じた。最初に「感じが悪い」と思われてしまったら、もうそれで全ての印象が決まってしまう。
彼女たちについて学園内のカフェテリアへ向かう途中で、イーノックにばったり会った。
奇遇だなと思ったら、イーノックが言った。
「トリッシュ、迎えに来た。一緒に昼を取ろう」
え?
「あっ大丈夫。みんなに誘ってもらってカフェに行くところ……」
と私が断った側から、みんなが慌てて言った。
「そういうことなら、私たちは別でっ」
「どうぞごゆっくり!」
「じゃあまた後でね!」
えっ!
みんなが声を上ずらせて慌てて去って行くのを、呆然と見送った。
「じゃあ行こうか」
「どこへ?」
「生徒会長室だ。俺はいつもそこで昼を取っている」
「でも私、お昼の用意がないわ」
「ジョセフが届けに来る。トリッシュの分も」
唖然とした。ジョセフはラングフォード家のお抱え運転手だ。
送迎の他に、ランチを届けるのも仕事だったとは。
「イーノックって生徒会役員?」
「籍だけ置いてる。いとこの生徒会長から、昼休みに好きに部屋を使っていい権利を得てる」
「生徒会長さん、いとこなのね」
「ああ。叔母の子だ。また折りを見て紹介するよ。今日は転校初日だから、何かといっぱいいっぱいだろ。覚えることが沢山あって」
「ええ、本当にそうなの。まだ校内の地図も頭に入ってないし、クラスメイトの顔と名前も一致しないわ」
「最初はそうさ。昼食後、校内を一巡りして案内するよ」
「ありがとう、助かるわ」
イーノックの親切は嬉しいけど、それはさっきのクラスメイトたちにお願いしたかった気もする。
仲の良い友達をクラスに作るための、取っかかりとして。
ジョセフが届けに来た、ラングフォード家のシェフ特製ランチを食べながら、イーノックが言った。
「さっき一緒にいた女たちとは、あまり親しくしない方がいい」
「えっ、どうして?」
「あの者たちは全員、4級以下だ。君の友人として相応しくない。せめて2級以上の者と交流した方がいい。下の人間と馴れ合うと、志が低くなるからね」
イーノックの言葉に驚いた。
私が彼女たちの友人として相応しくないと言われるのなら分かる。
「志……」
そんなものはない。
たまたま思いがけず、地の魔法が使えることが分かり、この学園への転入を国から推薦されたから、乗っかったまでだ。
何しろ特待生として学費は全て免除で、身元の引き受けを申し出てくれたラングフォード家が、生活費を全て面倒みてくれるというのだから。
うちはそれほど裕福ではない。私の学費と生活費が浮けば、それだけ3人の弟の進学費用に回せると思ったのだ。
そんな浅ましい考えの私に、イーノックの考え方は異次元だった。
「私はみんなより魔法を使えないわ。S級っていっても、まだ力を上手くコントロールできないし、他の魔法はからっきしだし」
「謙遜することはないよ。S級の魔法使いは国宝級だ。もっと胸を張って誇っていい。俺は君を尊敬してるし、ファミリーとして誇りに思う」
真っ直ぐな視線で真っ直ぐな言葉を向けられて、ドキリとした。
家族に愛されてのびのびと育ってきた私だが、平凡な容姿で、特に勉強ができるわけでもスポーツが得意なわけでもなく、出会って間もない相手に手放しで褒められるなんて経験はない。
尊敬してる、誇りに思うなんて、生まれて初めて言われた。それもこんなに綺麗で優秀な魔法使いの男の子から。
それは逆に、私がイーノックに抱くべき感情なのだろう。
血はとても遠いが、ラングフォード家の一員であり、イーノックの親戚であることは誇るべきことだ。
尊敬してる、誇りに思う、と言われながらイーノックは育ってきたのだろう。
微塵も卑屈さがない、堂々とした立ち居振舞いがそれを物語っている。