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ご褒美

 


 砂浜遊びをして確信を強めた。やっぱり私は土との相性が良いらしい。


 思えば、小さい頃から屋外での土遊びが好きだった。

 生まれ育った田舎は王都と違い舗装されていない道が多いし、空き地や野山がすぐそこにある。

 土を蹴って駆けずり回って遊び、泥だんごや泥ケーキを作ったり、砂山にトンネルを掘って遊んだ。

 実家は農家ではないけれど、自家菜園で野菜を育てていて、畑仕事もよく手伝っていたし。こまめに水やりや草抜きをして、大きく育った野菜を収穫するときの喜びを思い出すと、胸が踊る。太陽と土の匂い。


 それを彷彿とさせる初夏の砂浜で、イーノックにその話をすると、嬉しそうに瞳を細めた。


「でしょ。そーだと思った。トリッシュは自然の中でこうして大地と触れ合う機会を、定期的にもったほうがいい。大地の精霊たちに愛されているんだから。こうして触れ合って英気を養うといいんだ。そうすれば自然と魔力が増幅して、地の魔法でS級認定も叶うよ」


 ああ結局そこか、イーノックが気にしているのは。

 S級魔法使いとして学園に特待生枠で転入した私だが、この一年間でその実力を改めて示せなければ評定は落ちる。級は一年ごとに再認定される。ランクが上がる人もいれば、稀に下がる人もいるのだ。


「……特待生でなくなるのは困るもんね。私が早くもう一度S級の魔法を使えるように、そのためにここへ連れて来てくれたのね。砂浜遊びに付き合ってくれたのも……」


 ありがたい、けれどそれを知るとやっぱりプレッシャーがかかる。


「そのためもあるけど、純粋に、トリッシュに楽しんでほしかったから」


 イーノックが言った。


「トリッシュが嬉しそうだと俺も嬉しい。最近疲れた顔してたから。テスト頑張ったもんな。頑張ったご褒美だよ。今日買ったドレスもご褒美。また連れて来てあげるね。今度は船で沖へ出てもいいし。猫のジョージも連れて」


 にこりと微笑まれた。

 そうか、私は年下の男の子から『ご褒美』を貰う立場なんだなあと、改めて認識した。

 ここへまた来たくても一人では来られない。イーノックの許可がいるし、イーノックに連れて来てもらうしかない。

 何から何までイーノックが手配し、与えてくれた『ご褒美』だ。


 ご褒美ありがとう、じゃあまた頑張るねと屈託なく言えたら可愛いんだろうけど。

 プライドなのか何なのか、甘え下手な私は言葉に窮し、曖昧に微笑んだ。





 週明け、先日の定期テストの結果が科目ごとに返ってきた。

 その点数に愕然とした。思ったより悪い。

 3科目返ってきたが、どれも平均点ギリギリだ。私の感じていた確かな手応えとは何だったのか。

 テストを握りしめて蒼白した。イーノックに見せられない!




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