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 レストランでの食事を終えて、また移動した。車で1時間ドライブして、たどり着いたのは海辺の町だ。

 海岸を見下ろせる場所にある小さな別荘は、イーノックのお父様所有で、普段の手入れは現地の管理人に任せているそうだ。


 今日はラングフォード家のボーイ、コリンが一足早く来ていて、出迎えてくれた。

 コリンはイーノック付きのボーイで、朝起こしたり、食事の給仕をしたり、靴磨きをしたりと、イーノックの身の回りの世話を焼く係だ。女性でいうところの、メイドさんだ。

 ボーイにも階級があり、すべての家事使用人を仕切っているのが、執事のハワードさんだ。

 ラングフォード家の使用人は、全て男性である。その理由が「女性を家に入れて、万一イーノックと何かあってはいけないから」だと知ったときには驚いた。徹底している。


 昔、イーノックがまだ幼かったときには女性のメイドがいたそうだが、その女性がどうやらイーノックに誘惑めいた言動をしていたことが発覚し、解雇され、それ以後は男性の使用人しか雇い入れていないそうだ。


 それを聞いて意外に思った。

 そこまで徹底して、女性を家に置いていないのに、ずいぶんあっさりと私を居候させてくれたものだなと。『親戚』という強味か、私ならイーノックとどうこうなる心配はなさそうだと思われたか。

 それなのに、イーノックが私にプロポーズしたいと言い出して、おじ様おば様はご立腹するかと思ったけれど、それもまたずいぶんあっさりと承諾だ。


 おじ様とおば様も、私をイーノックの結婚相手として認めてくださるのだ。私が特待生でい続けるという条件を満たせば。

 優秀な魔法使いの跡取りを授かるためには、両親揃って優秀な魔法使いであることが、最も大事だから。しかし、血が近すぎてもいけない。だから私なのだ。


 でもなぁ、皆が期待しているほど、私は優秀じゃない。

 手のひらからさらさらとこぼれ落ちる砂を眺め、そっと息を吐いた。こうやって砂に触れていると気持ちが安らぐ。

 別荘からイーノックと歩いて、砂浜にやって来た。パラソルを立て、敷物の上に2人で並んで腰を下ろし、砂を弄って遊んでいる。

 爽やかな初夏の潮風と、ざざんざざんと聞こえる波の音。燦々とした太陽に、綿菓子のような白い雲。遠い水平線にカモメが飛んでいる。ああ、海だ。


「海っていいなあ」と感想をそのまま漏らすと、イーノックが頷いた。


「もう少し夏だと泳げるね」

「イーノック、海で泳いだりするの?」

「泳ぐより、船出して海釣りしたりのほうが好きかな。トリッシュは?」

「泳ぐの好きよ。釣りは駄目。じっと待つのと、餌にする虫が苦手」


 イーノックが笑った。


「女の子らしい理由だ。待つのは俺も苦手だけど。釣りたての魚をすぐに捌いて食べると最高に旨い」

「えっ、生で食べるの!?」

「うん、新鮮だから生食オッケー。苦手なら火の魔法でぱりっと焼くか、ふっくら蒸すかしてあげるね。どっちも美味しいよ」

「美味しそう~」


 みゃーと返事をするように猫の鳴き声が聞こえた。

 振り返ると、コリンが大きな猫を両手に抱いていた。


「おー、来た来た。この前言ってた、猫。癒し要員。海岸でさらさらの砂とふかふかの猫を触りたいって言ってただろ。こいつはジョージ、別荘の管理人の猫だ」


 おいでジョージ、とイーノックが手を出した。コリンからジョージが渡される。ずしっとしていそうだ。

 薮睨みの三白眼と低い鼻の、人相があまり宜しくない系の猫ちゃんだが、そこが可愛い。


 猫を渡すとコリンはまた去って行き、イーノックと2人でジョージを愛でながら、砂山を作った。

 バケツに海水を汲んできて、さらさらの砂に混ぜて泥にした。しっとりとした重量のある綺麗な泥で砂山を作れたし、お城も作れる。

 もっと夏で、それこそ水着だったら、イーノックを埋めておっぱいを作ったりも出来たんだけどな。と勝手にその姿を想像して、笑った。




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