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プレッシャー

 

 それからドレスショップで買い物をした後、ジョセフの運転する車で予約済みのレストランへ向かった。

 イーノックが家族でよく利用するというそのレストランは王都郊外の小高い丘の上にあり、料理はもちろんのこと、眺望も良かった。

 一番見晴らしのいい席に案内され、ランチのコースをいただいた。テーブルマナーはラングフォード家の執事さんにみっちり教えてもらっていたし、学園でもマナーの授業がある。魔法学園といっても、将来国の要職に就くことを目標に、マナーや学力のブラッシュアップも必要とされる。


 何とか付け焼き刃で体裁を成している私とは違い、目の前のご令息は呼吸をするのと同様に、自然と優雅な身のこなしだ。

 柔らかい牛ヒレ肉にすっとナイフを入れ、フォークで刺して口元へ運ぶ。その長い指、伏し目になったときの二重まぶたの美しいライン、長い睫毛。すっと通った高い鼻梁。

 つい、見とれてしまう。


 私の視線を受けて、イーノックが目線を上げた。深い藍色の瞳は、真夏の夜のようだ。どこかミステリアスで神秘的。そして誘惑的。

 目が合って、そっと微笑まれた。


 料理の感想を述べる、控えめなトーンの声は穏やかで、低めだが優しい響きだ。

 ショーウィンドウ街で学食のお兄さんに見せた態度とは、まるで別人。

 いつもこうだったらいいのになぁ、と思わずにいられない。


 でもこれがイーノックなのだ。

 優しいときと冷たいときの温度差が大きくて、十分紳士的に振る舞えるのに、わざと横柄な態度を取ることがある。

 身内には優しい。他人には冷たい。自分より下だと判断した相手には、強固な姿勢を取る。

 好きな相手には甘い。好きと嫌いがハッキリしている。


 ああ、だから私は怖いんだ。

 イーノックに嫌われるのが怖いし、イーノックの私に対する『好き』を額面通りに受け取ることも怖い。

 イーノックは私のことを好きだと言ってくれて、優しく、こうして特別扱いしてくれるけれど。それは全て、私が『S級魔法使いである』ということに起因している。


 土砂崩れした山を魔法で元に戻した、あの私の『火事場の馬鹿力』にイーノックは感銘を受けて、尊敬してくれたのだ。ファミリーであることを誇りに思うと言ってくれた。


 だけどあのときの奇跡の力は、あれ以降引き出せていない。

 イーノックが特訓してくれて、何とか1級レベルの地の魔法は使えるようになったが、A級までの壁が厚い。

 これではウィレミナ様の方がよっぽど上だ。


 ウィレミナ様からイーノックを奪って、結婚したいと望んだ訳ではないけれど、イーノックに失望されるのは辛い。

 あれだけ勉強に付き合ってもらい、これだけ良くしてもらっているのに、結局期待外れだったとガッカリされたら……

 イーノックの態度は豹変するだろうか?


 優しく微笑まれるたびに、それを恐怖に感じる。




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