表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/33

ファーストキス

 

 3日間の定期テストが無事終わり、そこそこの手応えがあったことをイーノックに告げると、褒め称えてくれた。


「まだ結果は返って来てないから、手応えが点数に反映してるかどうか分からないけど……。今回良くても、定期テストは後3回あるし」

「うんうん、着実に頑張っていこう。大丈夫、俺がついてる」


 頼もしい家庭教師の言葉に頷いた。

 イーノックに教えてもらえば成績は上がるし、気は抜けない。

 イーノックは優しいけれど厳しくて、妥協を許さない先生だから。飴と鞭で、私を上手く操縦するだろう。


 テストが終わり、毎日付きっきりの勉強からは解放された。


「ああ、そうだ。来月ライリーの誕生会を開く。トリッシュも参加してくれる?」


 ライリー・ノーラン・アクセルロッドは、イーノックの同級生でよく一緒にいる友達だ。

 イーノックの母親方の親戚で、幼い頃からの付き合いだそうだ。

 絹糸のようにサラサラの銀髪に、翡翠色の瞳。小柄で線の細い美少年。

 風の魔法のA級者だと聞いている。

 挨拶程度しか話したことはない。


「私も? パーティーに出られるような……ドレスを持ってないし、社交ダンスも踊れないわ」


 場違いだと慌てる私に、イーノックは笑った。


「ドレスは買いに行けばいい。大丈夫、そんなに畏まったパーティーじゃないから。普段よりちょっとだけお洒落して、ちょっとしたプレゼントを持ち寄って、みんなでワイワイ、美味しい料理を食べる会。ダンスは踊らなくていいよ」


 親戚で幼なじみで親友のライリーのために、レストランを借りきって、イーノックが主催するサプライズパーティーだそうだ。

 参加者はライリーと共通の友人3名と、その恋人たち、ライリーの婚約者、ライリーの弟妹。


「トリッシュはまだ俺の正式なパートナーじゃないけど、いずれ婚約したいと思ってるってライリーたちに話してあるから。仲良くなっておいてほしい」


 私たちが婚約することが既定路線になっていることにおののいた。


「でも、私たち、婚約すると決まったわけじゃ……」

「うん。でもそのためにトリッシュは学業を頑張ってる訳だし。ライリーは親戚だし、同じ学園の後輩でもあるんだから、親交を深めておいて損はないでしょ? お祝いする人数は多いほうがいいし」


 私がイーノックと婚約するために学業を頑張っている。そこに引っ掛かりは覚えたが、否定しきれない。

 それにライリーと親しくしておいた方がいいというのは分かる。お祝い事だし。


 しかし気になるのは、用意するドレスとプレゼントだ。

 買いに行こうと言われても、お金がない。

 私の生活費は、月々のお小遣いまでもラングフォード家ーーつまり、イーノックのお父様から頂いている。

 毎月余ったお小遣いは、いざというとき用に置いてあるが、ドレスとプレゼントを用意できるほど貯まっていない。


 正直にお金の心配を告げると、イーノックは笑った。


「もちろん俺が出すよ。俺がトリッシュに来てほしいんだから。トリッシュは何も心配せずに、買い物を楽しんでほしい」


 そして私の手をそっと取り、じっと私の瞳を見つめた。


「一応、初デートってことになるのかな。次の日曜日、予定空けておいて。朝から家を出て街で買い物をして、お昼はレストランで食事して、午後は海辺の別荘でゆったり過ごそう。テスト期間ずっと勉強漬けだったから、気晴らしにね」


「海辺の別荘?」


「親父が昔、趣味で波乗りをしていた頃に買った別荘があるんだ。ここから車で一時間半の海辺の町に。別荘といってもちっちゃい小屋だよ。けどすごく雰囲気がいい。潮騒を聴きながら、砂浜で猫を撫でてると、めっちゃ癒される」


 その光景を想像した。めっちゃ、いい。


「いいなぁ。波音に白い砂浜に、猫」

「でしょ、トリッシュも好きだと思った」

「さらさらの砂に、もふもふの猫!」

「いいよねぇ」

「砂でお城作りたいなあ」

「うん、作ろう」


 そういってイーノックは握った手をぐっと引き寄せて、私に顔を近付けた。

 えっ。

 斜めに傾けた唇がちゅっと私の唇に触れた。

 まぶたを閉じる余裕もなく、びっくりして目を見開いたまま、イーノックを呆然と見た。


「ごめん、あんまり可愛くて、つい」


 つい?

 つい衝動的に、はずみでしてしまったと。

 こちとらファーストキスだったんですが。


 あまりの衝撃に絶句し、叫ぶこともできず、かあっと顔が熱くなった。顔から火を吹きそうだ。

 羞恥で弾け飛びそうになっている私に、イーノックは繋いだ指先を絡めた。


「ああ可愛い、トリッシュ。早くプロポーズして俺のものにしたい。一年待つのは忍耐がいるが、俺もその分頑張るから、一緒に頑張ろうね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ