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愛はある?

 

 返事は急がないとイーノックは言った。

 この1年間のイーノックを見て、判断してくれればいいいと。

 一年後、私が無事に優以上の成績を修めれば、そのときに正式にプロポーズするそうだ。


「さて、じゃあテスト勉強の追い込みと行こうか。予想問題作ったから、これを解いてみて。本当のテストのつもりで。時間、計るからね」


 イーノックの切り替えは早い。

 渡された予想問題のプリントによって、こちらの頭も切り替えられた。

 何とか8割を正解し、褒めてもらえた。


 翌日は1人で登校し、いつも隣にいるイーノックがいないとこんなに広いのかと、送迎用高級車の後部座席で思った。

 イーノックが巨漢という意味ではない。

 存在感……オーラってやつが、やっぱり圧倒的なんだよなぁ。

 私1人で高級車で送迎されるのは、どうもソワソワしてしまう。根っからの庶民ゆえ。


 こんな私が、イーノックと「結婚を前提に付き合う」って……

 昨日のことを思い出すたび、叫びたくなる。

 昨夜も1人ベッドの中で静かに転がりまくり、夢ではないことを噛み締めた。


 私にイーノックは勿体ない。

 だけど考えてみれば、考えるまでもなく好条件。

 見た目良し、頭良し、家柄良し、お金持ちで将来性抜群のハイスペック魔法使い。

 はっきり物を言うところがきつく感じるときもあるが、初めて会ったときから話しやすくて、優しかった。


 もしイーノックと結婚したら、ラングフォード家の豪邸に住み続けて、若奥様となるんだろうか。

 イーノックのご両親と同居といっても、旦那様も奥様もほぼ帰って来ないため、嫁姑問題も無縁そうだし。


 旦那様は誰もが羨むイケメンハイスペ魔法使いで、豪邸住まいで、義理の両親は常時留守。

 いいんじゃない? いいよねえ。絶対いい。


 こんな好条件が両手を広げて、さあおいでと言ってくれているのだ。全速力で脇目も振らずに駆け出して、体当たりで飛び込むべきだと、頭では分かる。

 いいじゃん、イーノックいいじゃん。いっとけ、私。

 何が引っ掛かってるの?


『3級以下の人間と交流する価値はない』

『トリッシュを尊敬してるし誇りに思うよ』

『血が遠いし』


 イーノックが私を高く評価しているのが、S級魔法使いであることと、親戚の中でも特に血が遠いから、という点。

 どちらも『優秀な跡継ぎを残すための』条件として最高だからだ。

 名門ラングフォード家の将来のための、駒。

 そんな風に感じてしまうからだろうか。

 政略結婚っていうの?


 でもそれは、私がイーノックを評価する点とそう変わりない。

 容姿、家柄、成績、豪邸、家族構成、将来性。全てにおいて高得点で、最高の相手だと。そこに愛はある?


 イーノックのことは素敵だと思う。私には勿体なさすぎるくらい、素敵だ。

 だけど愛しているのかと問われたら困る。

 だってまだ私たち、出会って間がないし。

 イーノックの素敵な部分も、表面をなぞって見ているだけだ。


 愛とは何か。恋愛経験のない私には難しいけれど、きっと良いところだけを見て好きになることではない。


 だからイーノックから提案されたように、この1年間でもっとイーノックのことを知ろう。

 私のことももっと知ってほしい。


 遠縁だけど同じファミリーと言ってくれた時点で、イーノックは私の特別な男の子なのだから。せっかく繋がった縁だ、大切に育みたい。

 会ったことのないひいおじいちゃん、天国で見守ってくれているかな。



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