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すみません、プライベートが忙しく執筆する余裕が…(´;ω;`)ブワッ
少しでもお楽しみいただければ幸いです!
『あれで良かったのか?』
「はい」
『私としてはもっとしてもよろしかったと思うんですがねぇ』
『アズライル様、レイコが決めたことです。まぁ、結構いい攻め方だと私は思いますがね』
『む? 結局レイコは何をしたのだ?』
その場にいなかったヴァミリオンが問う。
「簡単なことですよ。王族には二度と子が出来ないようにしたのです。ついでに側近たちにも。あと、二度と私のような被害者が生まれないようにこの世界にある異世界召喚の知識を奪わせてもらいました」
『む…? 優しすぎないか?』
「そう思います?」
玲子はすっきりした笑みを浮かべた。
「私が知る限り、王というのは世襲制のはずです。ですから次代が望めなくなった彼らを、あの国の貴族がいつまで王として認めるでしょうかね。それに第一王子の所為で異世界召喚の知識は失せました。つまり彼らは二度とイズマール様を―――魔王を殺すことは未来永劫無いのです。それを知った各国は? 国内の貴族たちはどうするでしょうかね?」
『……なるほど、一気に攻めるのではなく徐々に、なのか…。我らでは到底考えられぬな』
「いくらイズマール様が人間を滅ぼすつもりはないと言っても彼らからすればその存在自体が脅威です。その脅威を除く術を失ったのがたった一国の王子の所為だとすれば、彼らの失脚は免れないでしょうね」
初めは異世界召喚の知識だけ奪えればいいと考えていた。反省し、自身を顧みることが出来たのであれば、だったが。だが、あの王子は変わらなかった。だから玲子も決めた。王族に連なるもの全て、ということに彼らが気付くのは何時だろうか。王族の者が降嫁した場合もそれに含まれることに気づいているものは、果たしてあの場にいただろうか。
もし気付いたとしてももう遅い。術は発動したのだから。そうして貴族たちが子を望めなくなれば、この国がこの先どうなるのかなんてものは想像に難くない。そして怒りの矛先がどこに向かうのかなんて、火を見るより明らかだろう。
『なるほど、そこまで話を聞けば納得の復讐かもしれませんね。私たちは殺して終わりにすることが多いですから』
『うぅむ…人とは面白いものよなぁ』
三人は玲子が花音に対しても復讐をしたことを理解していないようだった。そしてそれを玲子が自ら口にすることはないだろう。もちろん、問われれば答えるが。
玲子は花音が嫌いだった。
同じ世界から来た少女。もし、自分と性格が合うようであり、助けを求められれば助けるつもりだった。だが、彼女は自分が特別だと思い込み、玲子を罵った。ただ罵られるだけであれば、まだ我慢できたかもしれない。だが、あの第一王子が彼女を大切に扱い、それを当然としたのが気に障ったのだ。
愛だのなんだのはいい。だが、それをこちらに押し付けようとするのが酷く苛立たしかった。
まるで、玲子は誰にも愛されないのだと言われているようで。
元の世界ならば玲子にだって愛してくれる人がいた。家族だったり、友人だったり。付き合っている人はいなかったが、昔に男性と付き合ったことだってある。それを知りもしないくせに口先ばかりの花音が嫌いになった。これから先、彼女が助けを求めたとしても玲子は助けないだろう。彼女の言う愛とやらであの第一王子と一緒に野に下ればいいのだ。
『して、これからレイコはどうするのだ?』
不意にヴァミリオンが問う。
それに玲子は少し考え込んだ。
『レイコにはこのまま城にいてもらわねばならんぞ。あの国は周りの国にどう説明するかはわからんが、すくなくとも魔王と共にいることは気づいているだろう。私としてはこれ以上面倒な争いごとが起きて欲しくないのでな。レイコには私の補佐を頼みたい』
イズマールが当然のように言う。そして玲子はイズマールが語った未来があることを知り、自身でも知らぬうちにほっと息をついた。
『そうですね。それにレイコがいれば城も明るいですし。私としてもこのままいてくださる方がいいですね』
メルディスが続けて言う。
『そうですね。それに聖女が陛下の傍にいるとわかれば他の人間の国も簡単に手出ししなくなるでしょう』
アズライルはにこにこと言う。
『わかりませんよ? レイコを何とか懐柔しようとする輩がいないとは限りません』
『それもそうだ……おぉ、いい考えがあるぞ!』
『なんですか?』
「?」
ヴァミリオンが楽し気に言うので誰もが言葉の続きを待った。
『レイコが魔族の誰かと番になればいいのだ!』
「!?」
『それは…いいですね! レイコ、良ければ私なんかどうです?』
「えっ…!? いや、あの…」
いきなりの話の変わり方に玲子はうろたえた。どうしていきなりそんな話になったのだろうか。わけがわからない。
『それもいいかもしれませんね』
『うむ、悪くない』
「!?!?」
何故かメルディスとイズマールも同意している。
「なんでこんな話になっているんですか!? 別にそうならなくたって私はお城にいますよ!?」
『そうは言っても、です。レイコが我々とこれからもずっと共にいるためには、婚姻は一番いい手段でしょう』
「メルディス!? 私、流石にそれで結婚相手を決めるのは…それに相手の方にも悪いし」
『それならば私はどうだ?』
「……イズマール様、話を聞かれていました?」
イズマールの言葉に玲子は胡乱気な視線を送る。恋愛結婚を夢見ていたこともあった。だが、年を重ねるにつれて簡単ではないことくらい玲子も知っている。だが、流石にこのような形で結婚したいとは思わなかった。
叶うならば、せめて、望まれて結婚したい。妥協とかではなく。
『ん? ならば私はいいだろう』
「どういうことですか…?」
イズマールはその赤い瞳を弧に細めながら玲子を見つめた。その瞳に何かの感情が揺れ動いているような気がして、玲子は何故か気恥ずかしくなった。
『私は其方を手放したくないからな。其方だけが私の唯一。その唯一を傍に置きたいと思って何が悪い?』
『―――陛下』
『なんだ、メルディス。あぁ、言い方が悪かったか?』
『いくら陛下と言えども、レイコを悲しませるような真似はしないでいただきたく思いますね』
『おや? メルディスが珍しいことを…さては貴方もですか?』
アズライルが茶化すように言う。しかしメルディスは冷静に返した。
『さて、どうでしょうね?』
「ちょ、ちゃんと否定してよ…!」
玲子としては結婚しなくても居させてもらえるのであればこのままいたい。今までのようにただ飯ぐらいではなく、ちゃんとイズマールの補佐としての仕事をして。
『まぁ、今はいいだろう。だがなレイコ、私は存外本気だぞ?』
「イズマール様まで……そんなことをされなくても私はお傍にいますよ?」
玲子がそう返せば、イズマールはどこか納得していない顔をした。しかし直ぐににやりと笑みを浮かべる。
『なるほど。ならば好きにさせてもらおう』
「えぇーーー…」
****
なんでなんでなんでなんでっ、なんでこんなことになったの!? 花音は心の中で悲鳴を上げていた。本当なら、あの場で魔王を倒して今頃はカイゼルの正妃として隣に立っているはずだったのに。
あの後、魔王たちは来た時と同じように軽やかに去っていった。そしてその気配がなくなった瞬間、その場は阿鼻叫喚となった。
「なんてことを!!」
「全て第一王子の所為だろうが!!」
「どうするんですか、陛下!!」
「このままでは他国に…!!」
王妃は既に気絶し、別室へと運ばれていた。
「ちょっと!! ねぇ!! 助けてよ!!」
花音が叫ぶが、誰一人としてその声に耳を傾けるものはいない。聖女としてお披露目をしたときはあんなにもちやほやしてくれていたというのに。
そんな時、見覚えのある姿が目に入った。
「ねぇ! フロレンシア!!」
「…あら、カノン様」
「ねぇ、助けて!! 私これからどうなっちゃうの!?」
「私に言われましても…お伝えしたとおり、カノン様が聖女でないことは事実ですから…」
「でもでも! カイゼル様は私を愛してくれているのよ!? それに第一王子なんだから…」
「いえ、カイゼル殿は廃嫡されましたので既にこの国の王子ではありません。というより、私たちもとても忙しいの」
フロレンシアは隣に立つ父親らしき人物に視線をやる。その人の顔色は酷く悪かった。
「なんでよ!? 協力してくれるって言ったじゃない…!」
「それは貴女が聖女である場合の話ですわ。それにカイゼル殿はこの先どうなるかもわからないお人。私に出来ることは何もありませんわ」
そういえば、カイゼルはいつの間にかどこかに連れられていた。
「異世界からの召喚者よ。我々には急ぎ検証すべきことがあるのだ。悪いが貴女に構っている余裕などない
行くぞ、フロレンシア」
「はい、お父様」
「ちょ、ちょっと!!」
誰もが慌ただしく部屋を出ていく。そしてそこには王と花音だけがぽつんと残された。
「……カノン、か」
「お、王様、わ、私どうなるの…? カイゼル様は…?」
「……其方には悪いことをした。愚息の所為で在るべき世界から引き離された哀れな娘よ。だが、其方は聖女として名乗りを上げてしまった。其方を野に放つことは出来ぬ」
「ど、どういうこと…? 私は望まれて、来たはずで…」
花音の言葉に王はゆるりと首を振った。
「魔王を倒すべく望まれたのはマジマレイコ様だ。其方には申し訳ないことをした」
「―――わ、私が聖女なのよ!? そして王子様のカイゼル様と結婚するの!! ここは、私が本来いるべき世界なのよ!!」
喚く花音を、王は憐れむように見て兵に視線をやった。
「彼女を北の離宮に」
「ちょ、何よこれ!? 放してよ! 北の離宮って何!? 誰か、誰か!!」
北の離宮とは表に出せない王族が閉じ込められる場所だということを知る者は少ない。そして閉じ込められた彼・彼女たちは、一生涯そこから出ることなく死ぬ。カイゼルも似たような場所に生涯幽閉されることが決まっている。北の離宮より劣悪な場所だが。
誰もいなくなったそこで、ルイは天井を仰ぎながら深くため息をついた。
「―――これで、我が王室は終わり、か…」
マジマレイコは復讐の内容を話してくれていた。王族とカイゼルの側近たちに二度と子が出来ないようにした、と。この国の貴族全てに同じようにしても良かったけれど、国を混乱させるつもりはないから見逃してあげる、とも。
王家も各貴族も基本的には子がその名を継ぐ。よっぽどのことがない限り、縁者から養子をとることをしない。
だが、もし養子をとったとしてその子にも同じ呪いがかかれば?
「長く続いた王家の終わりとしては…あまりにも情けない…!!」
ルイの目尻から一筋の涙が零れ落ちる。たった一人の王子の行いによって終わるにしては、あまりにも酷すぎる結末だった。個人としてはカイゼルを殴りたい激情に駆られそうになる。だが、カイゼルを信じ、何もしなかった自分こそが悪いのだとも気づいていた。
「シュナイデルにも、愛想を尽かされるな…」
王であるルイが息子の出来の良いほうを王太子にすると決めたのが悪かったのか。二人ともっと話し合い、切磋琢磨するように促さなかったのが悪かったのか。
後悔が胸中を占める。だが、全ては今更なのだ。




