運搬屋と魔王
おぞましい姿の魔王はヤマトの姿を見つけると、不気味な笑みを浮かべた。
「お主も死んだのか?………いや、肉体を持っておるか」
魔王はヤマトの身体を上から下までじっくりと観察した。
そして全てを見透かしたように呟く。
「お主の人や物を運ぶ魔法は、死後の世界でも通用するということか。
なるほど実に興味深い」
魔王は考え込むように腕をついた。
「本来天界は魂のみでしか入れぬ場所。
お主の魔法は転移系の物だと思っていたが、天界の阻害魔法が反応しないことを考えると、この仮説は否定されたと考えるべきじゃろうか。
阻害魔法よりも強度の高い魔法か、阻害魔法に抜け穴があってそこからアクセスしているのか、それとも魔法という括りの能力ではない、特別な力だということか………。
様々な仮説は立てることが出来る。それを一つ一つ調べておきたいところだが―――」
魔王は饒舌にこちらの言葉を聞く気がないように、
というよりもそもそも独り言の近いトーンで言葉を並べる。
そして一通り満足をしたタイミングで、
今度はこちらに話しかける声色で言葉を投げかけた。
「それでお主の目的はなんだ?
何も観光しにここまで来たわけではあるまい。
ワシが本当に死んだことでも確認しに来たか?
それとも別の人間でも探しに来たのか?」
魔王はその鋭い眼光で睨みつけた。
魔法ではないはずのその視線で、十分にヤマトは身体を動かすことが出来なくなる。
ぐっと、息を飲む。
言うのだ。追放された彼らの為に。
「魔王、貴方を生き返らせにきた」
『!!?』
魔王とその後ろにいた天使が驚く。
「なるほど、そういうことも出来るのか」
「ちょっと待ってください。それは規則違反ですよ。
第一いくら来れるからって、生者がここに立ち入るのだって―――」
「うるさい。少し眠っておれ」
「ぐふっ……」
魔王の手刀が天使の首筋にヒットする。
天使は空気の抜けた風船のようにその場に伏された。
「それじゃあ、話を聞こうか。
まず死者を生き返らせることは可能なのか?」
「わからない。けどやってみる価値はあると思います」
「ほう。その意見には激しく同意じゃな。
何事も出来る出来ないではなく、試しにやってみること。
仮説があれば、仮説の数だけ試してみる。
それでどれだけの文明が発展してきたか。」
魔王は懐かしむような表情を浮かべた。
「それじゃあ、このゲートをくぐって……」
「待て。そう焦るな」
ゲートをくぐろうとした俺を魔王は静止させた。
「その前にお主の目的を話さんか。
これは交渉なのじゃろ?ワシを生き返らせて、お主は何の利益を生む。
いや、生き返ったワシに対して何の対価を望む?」
「対価なんて。俺はあなた達魔王軍の助けになればと」
「魔王軍か。奴らにあったのじゃな」
魔王は深くため息を吐いた。
「もう少し上手くやってくれると期待しおったが………。
運が悪いか、それともお前ら人間の力がワシの予想を上回っていたか」
魔王は頭を抱えた。
その姿はどこか人間らしく、そして子供を見守る父のような姿だった。
「つまりお主は、完全なる善意でワシを生き返らせようとしていると。」
「はい、そうです」
「そうか。そういうことか」
魔王は笑った。大きな声で。
それを意味することはわからなかった。
だがすぐに理解する。
「信用できないな。そんな言葉は」
魔王は吐き捨てるように言った。
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