運搬屋と魔王軍
どうやら彼女は俺の力を過大評価しているようだった。
ならばこのチャンスを逃すわけにはいかない。
「わかった。お前たちを見逃してやる。だからこの拘束を解いてはくれないか?」
「はい。わかりました」
そう言うとサキュバスは言葉を唱える。
『自由にしてください』
そういうと体の所有権が戻り、一瞬バランスを崩しかけた。
勘違いが無いように言っておくと、俺では、いや人間の国ではこの化け物たちに立ち向かうことは出来ない。
攻め込まれたら一瞬で崩壊し、まして攻めて勝てるような相手ではないことは、この体がよく理解した。
ならば今俺が出来ることは、この化け物に勘違いさせたまま、人間の国から遠ざけること。
幸い彼女か魔王の誤解からか、本人たちも明日には出ていくつもりだ。
(その前に相手の戦力を把握しておきたいか)
素直に出て行ってくれるならいいが、もし敵対することがある場合、相手の戦力を知らなければ万に一つの勝ちすら拾えない。
「出て行ってくれるなら、こちらもわざわざ攻め込む必要はないだろう。だがお前たちが本当に出ていくという確証が持てない。証拠を見せてもらいたい」
明日出るというなら、残りの魔物は出ていく準備をしているだろう。
その様子で大体の戦力が把握できると予想した。
「わかりました。ですが少しお待ちください」
そういうとサキュバスは俺の後ろで仰向けでのびていた獣人族に向かう。
『傷よ、治りなさい。そして目を覚ましなさい』
そういうと獣人族は目を覚ます。
「えっと……」
「起きましたか、フェーン。貴方は他の者たちの手伝いに行きなさい」
フェーンと呼ばれた獣人は状況がわかっていないのか、目をパチクリさせた。
「よくわからないけどわかった」
フェーンはその素早い身のこなしで扉の外へと出ていく。
今存在を把握している状態でも、目で追うのがやっとな速さをしていた。
「それとフィア。危ないからあまり一人では出歩かないで」
「ごめんなさい……」
サキュバスはそう言うと、フィアと呼ばれたエルフの手を優しく握る。
何となく彼女たちの立ち位置がわかったような気がする。
「お待たせしましたわね。それでは仲間の所に案内しますわ」
サキュバスに言われるがまま扉の外に向かう。
魔王討伐の際、俺は既にこの城に入ったことはあるので、別段改めて驚くような所はなかった。
ただ気になる点はいくつもある。
・どうして魔王討伐の時に彼女たちは助けに入らなかったのか。
・人間の侵攻を恐れていたのなら、どうして事前に逃げなかったのか。
・魔王たちはどうして、俺を強いと勘違いしていたのか。
疑問と推測を巡らせながら歩いていると、サキュバスが話す。
「こちらですわ」
「えっ……」
城の中央。二階から中庭を見下ろすと、そこには魔物達がいた。
数はおよそ40体。
彼女の言う通り、この城から出ていく準備をしているようで、巨大な動物の魔物背に荷物を載せていたりしていた。
ただ気になった点はそれだけではない。
それら40体の魔物の種族はバラバラだったこと。
獣人、スライム、マンドラゴラやオオカミなどの馴染みのある魔物から、
ドラゴンやユニコーン、鉄の塊のような機械まで見慣れないものまで。
二つとして同じ種族はいない、とまでは言わない。
だが多くても2体まで。それぐらいにバラバラだった。
そしてもう一つ。
魔物の体の多くは、欠損と呼んでも差し支えない状態であった。
ユニコーンの角は折れ、ドラゴンは片羽を無くしている。
オオカミは眼帯を付けており、ドワーフの片手は義手を付けていた。
「こいつら――いや彼らは一体……」
全員ではないが多くの者がそうであった。
魔王軍と呼ばれる魔物だ。そのはずなのに。
サキュバスは言うかどうかと悩んだ。
そして悩んだ末に、言った方が利になると考えたのだろう。口を開く。
「我らが魔王軍は、故郷を追放された者たちの集まりなのです」
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