運搬屋 獣人族と出会う
(女性?そして獣の匂い…獣人族か!!)
素早い身のこなしに合点がいった。
だが同時に疑問が増えた。
彼女の戦闘能力は、俺たちが倒した魔王そのものよりも明らかに勝っている。
もちろん戦闘能力の高さが主従関係を決めるわけではないが、
それでも獣人族の彼女ならば一人で俺たちのパーティを壊滅させていた。
今こうして思考を回すことが出来ているのは、彼女がこちらに手を抜いているからに他ならない。
獣人族の力ならば人間の首を切ることなど造作もないだろう。
特に俺は彼女がこうやって拘束するまで、存在に気づくことは出来なかったのだから。
「おい、聞いているのか!!」
彼女の言葉に肯定するべきか、否定するべきか。
どちらの方が彼女は隙をみせてくれるだろうか。
一瞬でも拘束が解かれれば十分に逃げることは出来る。
だがその一瞬の隙を作ることがこの上なく難しいのだ。
獣人族には『嘘』が通用しない。
嘘を吐いた人間には、独特の匂いがすると言われている。
ならば―――
「待ってくれ、俺は魔王を殺していない。俺は魔王を討伐に出たパーティなんかじゃない。
俺はただ人間の国から逃げてきただけだ」
怯えたように弱々しく抵抗の意思を見せる。
嘘は吐いていない。
俺は魔王に対して攻撃を行っておらず、パーティもつい先程追放されたところだ。
そしてユージに会いたくないから、こうして人間の国から逃げてきた。
嘘がわかるということは、裏を返せば嘘をついていないこともわかるということ。
自分の感覚に絶対の自信があるなら、俺は紛れもなく無関係な人間と判断せざる得ないだろう。
「嘘は―――吐いていないようだな」
今の彼女には、俺が人間の国を追放された犯罪者ぐらいに思えているだろう。
まさかこの状況を招いたユージに感謝する時がこようとは―――いや、そもそもアイツの所為か。
「そういうわけだ。離してくれないか?もし君たちの住処だというなら、すぐに出ていくからさ」
「うむ……」
獣人族の彼女は考える様子を浮かべた。
このまま釈放してくれれば話が早いのだが。
「お前が魔王様を殺した人間でないことはわかった。疑って悪かったな」
っと、彼女は申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる。
「魔王様を殺した人間なら尋問しようと思ったが、普通の人間なら―――殺すしかないか」
ですよねー!!
正直そんな気はしていた。生かしておく理由もないから。
「ちゃんと苦しまないように殺してやるし、お前の血肉は残さず食べるからな」
「ちょっと、待ってくれ!!殺される前に深呼吸をさせてくれ!!」
刃物が首の皮に当たり、血が肌を伝う感触がする。
危なかった。
どうやら解放してくれる気はないらしい。
なら危険を伴うが、プランBに賭けるしかなさそうだ。
俺が足元にゲートを出現させようとしたとき、脳みそに直接語り掛けるような声がした。
『力を抜きなさい』
「!!?」
その瞬間、俺はゲートを発生させるどころか、その場に立っていられることすらできなくなった。
それは俺を拘束していた獣人も同じように、二人して後ろへと倒れてしまう。
ゴトッと、石畳に体が打ち付けられる。俺は獣人の女性がクッションとなった為、後頭部を殴打することは無かった。
後ろからは結構な鈍い音がしたが、獣人族なので大丈夫と信じることにする。
「うちの若いものが、粗相を犯してしまいましたね」
仰向けなヤマトの体を覗きこむように女性が見つめた。
赤い髪と翼、色白で淫靡な姿をした女性は、人間の国では見たことの無い、物語の中の生物サキュバスだった。
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