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運搬屋と朝食

「おぉ、ヤマト。やっと起きたか」


 セレスの肩に載ったヌイグルミの魔王は言った。


 やっと、という言葉が合う程度には、日は既に昇っている。

 あれからフィアのことを考えて眠れなかったものの、気づくと意識が途切れており、今に至る。


 現在ここは魔王城の食堂らしき場所。

 らしいというのは、人間では想像の出来ないような光景が広がっているからだ。


 各々が席に立ったり座ったり、飛んでたり、床から生えていたり。

 食べている物も、オイルに血液、小動物に石の塊まで。


「人間用の食事も用意しておりますので、席に座ってください」


 セレスはお盆を持ちながら席に案内してくれた。

 『人間の食事』という言葉に安心した。

 ここなら『人間が食事』でも何一つ不思議ではないから。


 ただ彼女の言う通り、人間の食事が用意されていた。

 鶏卵の目玉焼きに、動物の肉を使ったソーセージ。

 これは紛れもなく人間の国の食事だった。


「お口に合いそうですか?

 人間の食事を作るのは久しぶりですので、味付けや素材に対して問題があれば教えてください。

 次作る時には変えますので」

「いえ、見た目は全く問題ないです」


 そう、不思議なぐらい問題がない。

 この魔王軍にはヤマトの他に『人間』という種族がいないにも関わらず。


 食べてみた所、味に対しても問題はなかった。

 強いて言うなら、少し味付けが薄いぐらいだが、それは好みの問題で済む範囲だった。


 どうして?という疑問があり、セレスに聞こうと思ったものの、

 彼女は忙しそうに他の仲間の食事を配膳していた。

 多分、調理に関しても彼女がやっているのだろう。


 忙しい相手の手を止めてまで話すことでもないので、

 また時間の空いた時にでもしようと、ここは疑問を頭の片隅に置くことにした。


 ヤマトは誰とも話すことなく、食事を進める。

 新人の自分には仲の良い相手もいなければ、他種族の相手と話す勇気もない。


 何より一人の食事には慣れていた―――。


「すみません。お隣いいですか?」

「!?」


 見ると隣に盲目のエルフ、フィアが立っていた。

 その後ろにはセレスがおり、食事の乗せたトレーを持っている。


「ヤマトさまには、まだ人間に似たエルフの方が話しやすいと思いまして。

 問題はありませんでしたか?

 確か、人間の国とエルフは敵対関係に無かったと記憶しておりますが」


「いえ、大丈夫です。

 ありがとうございます」


 セレスはニコリ、と笑うと、フィアの前に食事を置いた。

 人間の食事に近いものの、野菜が中心のメニューだった。


 あと特筆する点としては、汁物がなく、手で掴んで食べれる食事だった。

 多分盲目な彼女に配慮した結果なのだろう。


 彼女は盲目ながら手慣れた様子で食事を口に運んでいた。

 それでもたまに掴もうとした場所に何もなく、空を掴もうとする。


「もっと右だね。いや、手をそのままにしていて」

「? はい」


 彼女の手に野菜を握らせる。


「ありがとうございます」


 そう言ってフィアはそれを口に運ぶ。

 

 そのやり取りを何回か続けていると、

 面倒になったのか、それとも興味本位なのか、または両方か。

 思いついたように野菜を手に取り、


「そのまま口を開けてて」

「?」


 ヤマトは野菜を優しく口に運んだ。

 フィアも意図が分かったのか、運ばれた野菜を小動物のようにちょっとずつ咀嚼する。


 しばらく野菜を持ったままその愛らしい様子を眺めていると、

 そのままヤマトの指まで口に運ばれた。


「ごっごめんなさい」

「いや、ゴメンね。遊んじゃった」


 勢いよく謝る彼女に申し訳なかった。


 触れた唇と口内の温かさを感じていると、

 後ろから声がする。


「仲が良いのはいいことじゃが………、まぁ老人が口を出すことでもないか」


 ヌイグルミの魔王はユニコーンの背に乗り、二人の後ろに現れた。


 誤解です。と弁明をしようとしたものの、その前に魔王は口を開く。


「ヤマト、この後は暇か?」

「はい、特には何もありませんが」


 勇者パーティを抜けた今、魔王軍の用事以外に仕事はなかった。


「この後、ワシと一緒に人間の国に行くぞ」

 その言葉が意味することを、この時のヤマトは知らなかった。

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