運搬屋と人形
ヤマト達が嗚咽を漏らし涙を流していると、
突然抱きしめていた人形が動き出した。
「うぇ、苦しい」
『ふぇ?』
ヤマトとセレスは柄にもなく変な声が出た。
困惑し呆然としていると、先程とは違い人形は暴れだした。
「苦しい、離れろ……」
そう言ってヤマトを押しのけた。
離れた位置からヤマトは再度人形を見た。
不思議なことに人形は先ほどまでとは違い、セレスの腕に鎮座し、
ぜぇぜぇと息を吐いていた。
セレスの魔法なのか。
そう思ったものの、他でもない彼女自身が動揺していたので違うのだろう。
「まさか人形の中に魂が入り込むとは―――興味深い」
人形はそう言うと、首をひねりセレスの方を見た。
「セレス。お主この人形に何か細工をしよったか?」
「もしかして―――旦那様?」
「そのようじゃ。
それでセレス、この人形に――」
「旦那さまぁ////」
そういうとセレスは人形を抱きしめ、身体をくねらせ、人形のいたるところを淫猥な手つき触っていた。
相手が人形であるはずなのに、見てはいけないものを見ている気になってしまう。
「やめんか!!人前で!!」
人形は腕を広げてどうにか抵抗して見せた。
その様子を見て、セレスは淫猥な行為をやめた。
「それでセレス、この人形はなんじゃ。
ワシが生きていた頃にはもっていなかったじゃろ」
「はい。旦那様。
この人形は旦那様の灰で作っております。
旦那様が居なくなった後、寂しくないように……」
その言葉だけを聞くと、一途な未亡人の愛の言葉に聞こえる。
だが今日一日彼女と接し、人形に対する淫猥な行動を見ていると―――
あぁ、やっぱりサキュバスなんだな、と痛感させられた。
「その様子だと、貴方はやっぱり――」
「あぁ、魔王じゃ。心配をかけたな。
よくわからないが、この人形の中に魂が定着したようじゃ」
そう言って小さくて柔らかい人形の手をちょこんと挙げる。
先ほどまでの威厳を考えると、ずいぶん可愛らしくなったものだ。
「今、失礼なことを考えたな」
「すみません!!」
訂正。可愛い人形に入っても、威厳と恐ろしさは健在だった。
「それでどうして?」
「あくまで仮説じゃが、魂と元の肉体は磁石のように引かれ合う性質があるのかもしれぬな。
灰とは言え、ワシの肉体の一部が魂を引き寄せたのじゃろう」
そう言うと腕組みをして見せる。
「じゃが元々の力の全てを引き寄せることは出来てないみたいじゃ。
本当に一部分。記憶とか最低限の魔力と魔法とかぐらいしか今は使えぬみたいじゃな」
そう言ってマッチサイズの炎を出して見せる。
それは人間の子供が最初に覚える魔法と同じレベルだった。
「これは肉体の全てが揃っているわけではないからだろうな。
ワシの灰が集めることの出来た魂が、これだけということなのじゃろう」
魔王はそう言ったあと「あくまで仮説じゃがな」と付け加えた。
灰しか集めれなかったから弱体化している。それはつまり――
「すみません」
「すぐに謝るのはお主の悪い癖じゃ。今すぐ直せ。
死んだと思った肉体がここまで動かせるのじゃ。それだけで十分じゃ」
魔王は元の身体の時と同じようにヤマトを叱りつけた。
「何よりワシは肉体労働よりも頭脳労働の方が得意じゃ。
この世界のありとあらゆることを知り尽くしたワシの頭脳。
そいつを生き返らせたこと、神様とやらには後悔してもらわないといけないのー」
そう言って子供向けの可愛らしい人形とは思えない不気味な笑みを浮かべる。
あぁ、もしかして生き返らせてはいけなかったのだろうか……
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