魔王と―――
「それじゃあ、そちらに向かう」
魔王はゲートへと足を踏み入れた。
扉に映る景色には、仲間たちが祈るように手を握る姿が描き出されている。
やるだけのことはやった。
自分の持てる知識と魔法を全て使い、今出来る最善の手を打ったつもりだった。
これで失敗したのなら、諦めがつく。
この世界では死者の蘇生がルール違反だという証明となるだけだ。
彼という特別を除いて。
魔王の身体がゲートを通過する。
足先と顔面がゲートをくぐり、地上へと姿を現す。
仲間たちの歓声と喜びの声が聞こえた。
成功したのだろうか。
だがその声は一瞬で不協和音へと変化した。
「魔王さまっ―――。魔王様!!!」
眼前で仲間たちが驚き暴れる姿が見えた。
そしてそれを最後に視覚が奪われる。
依然として、悲鳴の不協和音は聞こえ続ける。
「旦那様、身体が――っ。引き返してください!!」
腹心であるセレスの取り乱した声が聞こえる。
慌てるな。そなたは優雅な姿が美しい。
既に身体の感覚のほとんどが消えてしまっていた。
引き返しても既に遅いことを何となくだが理解していた。
仲間たちとの旅の思い出が蘇る。
奴隷として売り飛ばされそうになっていた、フィアを助け出した時のこと。
行き倒れていたフェーンにご飯をごちそうした時のこと。
サキュバスとし致命的な欠点を持つ、セレスに愛された時のこと。
その他にも、仲間たちとの出会いが思い出す。
だが最後の心残りは決まっていた。
ずっと諦めて忘れようとしていたのにも関わらず。
「メディア……」
娘の名前を呟いた。
いや本当に声に出ていたかはわからない。
喉も耳も既にはない。意識だけがそこに残存したのだから。
「旦那様――――」
霧のように散った魂を、セレスが優しく抱きしめたことだけは覚えていた。
『面白かった』
『続きが気になる』
と思った方は、広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価、
ブクマへの登録をよろしくお願いします!!
また感想や改善点も書いていただけたら、作者の励みになります




