運搬屋と魔王の演説
「皆の者、よく聞け。これがワシからの二度目の遺言じゃ。
全員決して聞き逃すことないように」
魔王はゲートの前に立つと堂々した佇まいで声を放つ。
その姿はまさしく魔王であり、群れのリーダーとしての風格があった。
魔王の声と姿はゲートを通して地上に届いているようで、
ゲート越しに驚きや嗚咽、安堵のような声が入り混じって聞こえた。
死んだと思っていた主と再会したのだから、当然の反応なのだろう。
だがそんな様子に魔王は意を介さない
「泣くな、しゃべるな。ワシの話を聞け。
一度しか言わぬ。一度しか会えぬ。
目に焼き付け、耳に焼き付けろ」
その声に俯いていた頭を起こし涙を拭う者。
喜びの余り飛び跳ね、歓喜の声を上げていた者。
その他声にならない声を上げていた者。
それらは全て静まり『魔王軍』という名に恥じない
統率の取れた集団へと変わる。
まるでスイッチが切り替わったのではないか、と思わせる程統率の取れた集団に
ヤマトは感心と敵にならなくてよかったという安堵の息を漏らした。
魔王は皆がこちらに意識を向けていることを確認してから、口を開いた。
「ワシはこれから地上に戻る。じゃが無事に戻れるかはわからぬ。
じゃから期待はするな。覚悟はしておけ。
そしてもしワシに何かあっても、絶対にこやつを恨むな。憎むな。
仇を撃とうとは絶対に思うな。
こやつは、お主らに協力する仲間だ。
お前たちと同じように故郷を追放され、それでも夢の為に進もうとしている。
こやつをワシは仲間だと認めた。
その意味を我が軍なら理解しておるな」
「………」
魔王の遺言はヤマトの為の物だった。
もし死んだ場合、ヤマトは今度こそ殺される可能性があった。
その可能性を摘んだのだ。
ヤマトの為に。魔王軍の為に。
ヤマトのことを仲間だと認めてくれたのだ。
「後は一度目の遺言で言った通りじゃ。
人間の国を恨むな、復讐を考えるな。
奴らに命を掛ける価値など無い。
恥をかいてでも、全員必ず生き残れ。
これは命令だ。以上じゃ」
『!!』
魔王軍は声に出さないものの、全員が言葉を理解したことが、ゲートの外側のヤマトにもわかった。
「それじゃあ、そちらに向かう」
そう言うと魔王はゲートに足を踏み入れた。
その姿は戦場に向かう戦士のように勇敢であり、果敢であり、
ご武運があるようにと祈らざるを得ない姿をしていた。
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