運搬屋と夢
「俺の本当にやりたいこと……」
「我々の拠点移動を手伝ってもらう代わりに、
ワシがお主の本当にやりたいことを手伝おう。
ワシは他人に貸しを作ることも借りを作ることも好かない。
それが無償の善意という名のお恵みだというのなら、尚のことな。
お主と対等に取引をしたいのだ」
魔王の言葉にヤマトはしばし考えた。
やりたいこと。
少し前は、目の前の魔王を討伐することだった。
そして魔王を倒した仲間と共に―――
「そうだ。この世界の果てを俺は見たかったんだ」
思い出した。
つい昨日までずっと思い描いていたものだったのに、
ユージに否定されてすっかり忘れていた。
「俺は人間の国の地図の外に。白紙の地図を埋めに行きたいんです」
それがヤマトの夢だった。
ヤマトのユニークスキルは、一度行った場所にゲートを繋げる能力。
魔王城を最後に人間の国が統治する、地図に載っている範囲の場所は既に踏破していた。
だが知っている。
地図に載っていない場所にも世界があることを。
国境という曖昧な線を引かれた外にも、生物は住み、暮らしていると。
そんな誰も見たことの無い場所を一度見てみたかったのだ。
そしてもしとても綺麗な景色が広がるというのなら、
ゲートを繋げ色んな人に見てもらいたい。
それがヤマトの夢だった。
「とても良い夢だ。わかった。協力しよう。
じゃが―――」
魔王は少し困った顔をした。
変なことを言ったと思われただろうか。
ユージに馬鹿にされた時の記憶が蘇る。
やっぱり変えようか。そう思ったがその前に、魔王は口を開く。
「なんじゃ、結局我々と目的は同じということか」
「あっ……」
そうだ。拠点の移動を手伝うといことは、人間の国の領土から出ていくこと。
そして安全な領土を見つけ、ゲートを繋げるということは、
ヤマトが未知の場所に足を踏み入れ、安全か確かめるということだ。
その上で安全ならばゲートを繋ぐのだから、ヤマトの未知場所に行くことも、
魔王軍を安全に移動させることも同じことだと言える。
「自分の目的の為に、魔王軍の移動を手伝うと提案したのじゃったんだな。
お主を見誤り、叱りつけて悪かった」
そう言って魔王は頭を下げた。
「いえ、俺はそのことに全然気づいていなかったんです。
貴方の言っていたことは間違っていなかったです。
そして俺の夢を思い出させてくれてありがとうございました」
ヤマトも同じように頭を下げた。
まるで商人が商談に成功させたように。
取り引きという意味では同じことなのかもしれないが。
「気づいておらんじゃったか。
もしかしたら潜在的に自分の夢に近づこうとしていたのかもしれないな
もしそうなら、それだけお主の夢が本気ということじゃ」
そう言って魔王は肩を叩いた。
ヤマトは嬉しくなった。
自分の夢を褒められたことを。
自分の夢に対する自分の想いを褒められたことを。
「ありがとうございます」
今は一言だけの感謝の言葉しか出せなかった。
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