第04話 遠野 涼子 2 午後の金色の光
羽生の駅に着いたのは、午後もまだ早い時間だった。
簡単な地図を頼りに、ほろほろと才覚寺を目指し、清流荘に到着したのは、ビジネスホテルなどで言えば、チェックインにはまだ微妙に早い時間帯だった。
本来、宿でも融通の利かないところなら、少しは顔をしかめられていただろう、だが、清流荘の、ものやわらかな物腰のふっくらした年配の女将は、眉ひとつしかめることなく、遠野を、その部屋に案内した。
庭の見える一階の部屋。
部屋の時計は、どこかなつかしいようなごく古い置き時計だった。
時刻を見ても、夕食には少し早い。
彼女は、さっそく市内を見て回ろうかどうしようかと思案したが、何しろ一週間ある。
急いて慌てて駆け回ることもないと、たちまちのうちに思い直した。
ポットには湯が入っていた。
茶櫃には、淡い青の絵付けの風流な湯飲みと、今時茶筒が入っている。
パックのお茶ばかりが用意されている昨今に、これも珍しいことと、彼女はのんびりお茶を入れることにした。
これはこれで、なかなか悪くない。
庭に面した窓を開けると、きりりとした秋の空気が室内に入ってくる。
窓を閉めている時には気付かなかった、筧の音が、こーんと響いた。
彼女は、明日からの計画でも立てようかと、持参の観光地図を開いた。
羽生は、さほど大きな街ではない。
古く、伝統もあるが、ひとが歩いて通行することが交通の主な手段であった時代の都市が基盤なだけあって、市街地は、それこそ一日あれば、十分歩いて巡れるほどの街であった。
外縁部はもちろん広く、田畑や山が広がっているところもあるが、いわゆる「羽生」と呼ばれているのは「羽生市」の中でも、この市街地の一角のことを指すのだった。
城は、市街地の南の外れの山の上にある。
この山も、小山というよりいっそ丘といった規模で、この宿からも歩いてでもごく近い。
明日は、お城に行ってみよう、と彼女は思った。
気付けば、そろそろ夕方の時間帯にさしかかっていた。
観光と言わないまでも、せっかくだから真向かいの才覚寺くらいは参詣してみようかしらと、少しだけ外出する。
この街には、才覚寺と言わず、そこここに、教科書に載りそうな由来のお寺がいくつもあった。
秋の早い日が沈む。
西の空が茜に染まり、夕餉の時間が近付いてきていた。