表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たまゆらの街  作者: 高梨 蓮
105/110

第105話 遠野 涼子 35 とおくさやけきひかり

 緩やかに、少女に道を譲り、遠野はその後を歩く。

 城山公園に人は少ない。

 催し物が為されているとは思えない閑散とした風景、言い訳程度に観光協会と看板の出ているおでん屋の前を通り過ぎ、少女は坂を登ってゆく。


 城山公園から城の方へ向かっているようだ、街が一望できる開けた場所に出て、遠野はそこが少女の目的の場所だろうかと思った。

 「ここですか?」

 問いかけた遠野に少女は首を横に振る。


 意外にも通り過ぎた奥に、思いがけない造作がある。


 「茶室?」

 城があり、庭園があれば、確かに意外なものではない。

 だが何故か、遠野はここにあるとは思わなかったのだ。

 通り抜けると、行灯が足元を照らす庭園、夜の灯りに紅葉が映える、庭が紅く染まっている。

 薄く透ける赤の色に、遠野は僅かに目を細めた。


 昼は茶を点てているのだろう座敷も今は閉められて、二人は濡れ縁に腰を下ろす。

 見上げた月が煌と白い、凛と冴えた空気が思いのほか冷たい。

 黙ったまま、遠野は冬の月を見上げている。


 「きれいですか。」

 少女が問うた。


 「きれいですね。」

 遠野が答える。

 そしてしばらくの間。


 遠野は、冬の凍てついた月が好きだった、こんな風に白い冴えた満月を見ると、いつも思いだす、しんとした夜の空気に静謐が響き渡るような凍てついた冬の月、刺すような冷たさ、何よりも玲瓏な月の白さ。

 何故、少女が知っているのだろう、と唐突に思った。

 もちろん、そんなはずはない、冬の月が好きだと、そう告げた覚えもないのだ。


 遠野は、月を見上げたまま、呟く。

 「とても、美しいわ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ