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009 王子の初ダンジョン


 ゴツゴツとした岩肌のトンネルを進む三人。

 最初のスタート地点の開けた場所から、ほんの少しの距離の場所。

 あの場所も不思議だったが、このトンネルも不思議だ。

 やはり床は歩きやすいし、魔物と戦える広さも有る。

 ただ、周囲の明るさは随分と減っていた……視界が届く範囲は4mか5mか……だ。

 


 先頭は、押し出された様な格好の王子が勤める。

 若干に腰が引けてはいるが、他の二人が。

 「私達は後衛だから……」

 そう言われれば仕方無い。


 でも、王子って職業も後衛では無いのか? とも思う。

 それが職業っていうのも今一ピントこないのだけど……。

 持って生まれたモノだろう? 引き継ぐ家業みたいなものの筈。

 王子が職業として成立するなら、世間には長男って職業も有るって事には為らないのか?

 もし自分が八男だったら最悪だ。


 だが、この中でも王子が最年長なのも事実。

 なので、仕方無くの前衛だった。


 暫く進むと。

 「きゅー」

 と、何かの鳴き声が聞こえる。

 そして、その後に地面の引き摺る微かな音。

 

 「何だ? 魔物か?」

 王子は身構える。

 武器は前回の失敗を踏まえて、桧の棒を両手で握っている。

 オマケで貰った物なので折れても悔やまれないからだ。


 「エウラリア、明かりを点けてみて」

 マルタも首を傾げながら。


 それに答えるように光の魔法を放つエウラリア。

 掲げて上げた杖の先に光の玉が乗っかる様に現れて、周囲がボヤっと明るく成る。


 「おお……魔法だ!」

 思わず声の出た王子。

 魔法自体は昨日も見てはいたが、初めて役に立ったであろう実感に、ただ感動したのだ。

 

 そして、見通せた洞窟の7m程の先……。

 ズザザザザ……。

 目に飛び込んできたのは、青い半透明のスライムだった。


 「ここでの初モンスターもスライムか」

 いや……大体はわかっていた。

 魔物を倒して得た当たりクジのダンジョンだ……逃げられてだけど。

 その時の魔物を大きく上回る敵が出てくる筈は無い、それが出るなら誰もダンジョンには入らないし、ギルドや教会は入ろうとする物を止める筈だ。

 なんとか成る。

 どうにか成る。

 そんなギリギリでも可能性が有るから、入っても良いと為る筈だ。

 だからスライムに逃げられて入ったダンジョンはスライムがメインで当たり前なのだ。

 まあ……それでも最悪は有るのだろうけど、そこは自己責任か?

 それらも含めて自助が大前提なのだろう。

 魔物が居るとわかっているのに、何も準備もしない奴は死んで当然……って感じか。


 ……等と考えている王子自身はなんの準備もしていない。

 今、構えているその武器も、偶然に手に入れただけの檜の棒だった。

 自分の事は棚上げしての他人事。

 そのうちブーメランでも装備すれば……王子は中々の使い手に成れるのかもしれない。

 ただし投げるだけで……受け止める技術は、さてどうかは知らないが……。

 

 

 ニジリニジリと近付いたスライムと王子。

 桧の棒の射程圏に入ったとそれを振りかぶる。

 が、先に攻撃をしたのはスライムだった。

 突然にピョンと高くに飛び上がり、一気に間合いを詰めて王子の頬を平手打ち。

 スライムに手が有るかは知らないが、微妙に伸びた突起がそんな感じに見えた。


 -3のダメージ。

 

 受けた肉体的ダメージは小さいが、精神的なダメージは計り知れない。

 攻撃された頬を抑えた王子は。

 「父ちゃんにもぶたれた事が無いのに!」

 腰の引けた見た目で内股気味に叫ぶ。

 

 そんな情けない王子の姿を見たマルタ。

 「火の玉、火の玉、火の玉……」

 ポッと、ポッと、ポッと……と、50cm程で消える火の魔法を連発した。

 驚いて慌てたのだ。

 目を摘むって連射していた。

 もちろんスライムには届いていない……つまりはノーダメージだ。

 

 エウラリアはまだ少し冷静だった。

 目の前の敵を睨み付けるだけの事は出来た。

 攻撃手段を持たないエウラリアにはそれが精一杯なのだが、しかしスライムはそれを威圧と捉えた様だ。

 低く構えて……ピョン!

 狙うはエウラリアの胸に飛び付いて、ブニュブニュとうごめく。

 


 急に飛び込んで来たスライムに驚いたエウラリアは。

 「いやぁぁぁぁぁ……」

 と、両手で思いっ切りに弾き飛ばした。

 突き飛ばされたスライム。


 +2のダメージ。


 そのままコロコロと転がされる。

 今度はスライムが驚いた。

 ジッとエウラリアを見ながら、額から頬に汗が伝う……気がする。

 スライムの残りhpはあと1。

 これは不味いと逃げの体勢に入ろうとした時に気付く。

 あの娘は……光る杖を持って居なかったか?

 そして、目の前の三人の影が前から後ろに今も移動していないか?

 それはつまりは光源が動いているという事?

 ではその光源は? と、上を見上げたスライム……の、顔面にいつの間にかに投げられていた杖がヒットした。


 ブギュルと鳴いた? 音がした?

 どちらにしても戦闘終了の様だ。

 スライムは霧に成り霧散する。

 その後にコロンと小さなメダルが転がった。



 ゼイゼイと肩で息をする三人。

 王子は初めて魔物を倒した……主にエウラリアだが。

 そして得た経験値は10……合計11に成った。

 それはとても喜ばしい事なのだが……なんだろうか、この疲労感は。

 顎の下に伝う汗を拭う。

 「冒険者とは、毎日こんな危険でしんどい事をしているのか?」

 誰かに答えを求めたわけでは無い疑問だが。


 マルタはそれに答えた。

 「前にユダ王子と戦った時は、もっと簡単だったのに……」

 と、ブツブツ。

 それは、王子には嫌味にしか聞こえない呟きだった。

 

 「今……胸を触ろうとした……揉まれた……いやらし変態の目だった」

 エウラリアはそんな二人のやり取りとは遠い所に居た様だ。

 魔物にそんなスケベ心が有るとも思えないし……揉みたく成る胸でも無いだろうとは言えない王子。

 だが、そんなマルタとエウラリアのおかげか少し冷静に成れた気もした。


 「喉が渇いた……水は」

 呻くように呟く王子。

 「用意しとけば良かった……な」

 水差し……ではなくて水筒か……が、有れば。


 「そうだマルタ! 魔法の水の玉を見せてくれよ」

 良い事を思い付いたぞとそんな顔でマルタの肩を叩く。

 それは、マルタも少し冷静にとの配慮の積もりでもあった。

 ……エウラリアはまだ無理そうだがマルタなら、と。

 

 何がなんだかわからないマルタは言われるままに、水の玉を出す。

 「水の玉、水の玉、水の玉……」

 戦闘の余韻がまだ残るのか、魔法を連発する。


 そして王子はニヤリと笑い、その飛んでいる水の玉を口で受ける。


 -5! -5! -5!


「いってぇぇぇぇぇ……」

 口を抑えた王子。

 それはそうだ、水の玉も攻撃魔法だ! 痛くない筈がない。

 しかも、小さい上にすぐに消えて無くなる。

 そんなもので喉の渇きが潤う理屈など有るわけがない。

 床を転がる様にのたうち回る王子だった。

 そしてその出来事に、更に慌てるマルタ。

 それぞれ個別のプチ・パニックは暫く続く事に為る。

 

 それは仕方無い事だ、王子は自分が冷静だと、大きな勘違いをしていたようだから。

 そんな人間が何かをしようものなら、現状を悪くしかしない。

 ……たかだか一匹のスライムがもたらした悲劇だった……。




 30分程経っただろうか?

 王子は洞窟の岩肌の天井を見詰めていた。

 ボウッと。

 ジッと。

 その間、何が起こったのだろうか? と、延々と自問自答を脳が強制的に繰り返していた。

 それが少しつづフェードアウトして、呪いの様なそれが完全に消える去るのにそれだけの時間を要したのだった。


 のそりと立ち上がる王子。

 側で茫然自失でペタリと座り込んでいるマルタに声を掛ける。

 「大丈夫か?」


 声を掛けられたマルタは、ユックリと首を振り王子を見る。

 「何が?」

 無意識に返事を返して……その自分の声に驚いて、ハッと我に返った。

 「スライム!」


 「もう倒したよ……」

 たぶん……と、スライムのいた場所を見ればエウラリアの杖とメダルが一枚落ちていた。


 杖?

 「あ! エウラリアは?」

 王子の声に促されて、同時に振り返る。


 エウラリアは洞窟の壁にブツブツと呟いていた。

 「胸? 小さい? スライム? 変態? 小さい? ……チョビっとは、有るよね? そうよねだから狙われたのだし有る筈……揉まれた?……小さい?……胸?……」

 妙な念仏を繰り返し唱えている様にしか見えない。




 王子の初討伐……スライム一匹。

 得られた経験値は10pとプチ・パニックと呆けたマルタに念仏エウラリア。

 肉体的ダメージは-18なのだが、精神的ダメージはそれ以上。

 

 誰が見ても、その収支は赤字だと思われる……それも、大幅に……。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

続きが読みたい。

そう感じて頂けたなら、ブックマークやポイントで応援していただければ幸いです。

なにとぞ宜しくです。

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