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086 次元の狭間


 光の爆発に飲まれた王子達。

 衝撃や痛みは感じないが、妙な浮遊感が襲う。

 先程からの空間の歪み? か、揺れにそれがプラスされて催す吐き気は倍増された気がする。

 エウラリアとマルタはそれに耐えきれずに、既に気絶していた。


 そして、その浮遊感の正体は。

 ドラゴンの放った光の玉の咆哮とポモドーロが放つ虹の光の鎖の様な光線がぶつかり……それが大地に刻まれた魔方陣と反応していた。

 次元の魔方陣。

 その回りが崩れ初めて居たのだ。


 大地から切り離されて宙に浮き。

 その範囲外はバラバラと崩れて落下していく。

 それは物質だけでなく空間も含めての事だった。


 そして、その狭間に居たポモドーロとその部下であろう者達はそこから溢れない様に必死でしがみついていた。

 だが、その努力も虚しく……一人、一人と上や下に落ちていく。

 ポモドーロだけは自身を虹の光に包み込み魔方陣の端に光の鎖で括り着けている。

 部下は見棄てて自分だけが助かる積もりのようだ。


 この結果を招いたのは王子がドラゴンを解放して、そのドラゴンが放った次元の技と、過去に虹の王子が展開していた次元の魔方陣とそれに力を加えたポモドーロの次元の技がぶつかったからだ。

 三次元に戻ったドラゴンの放つ次元の技。

 二次元に縛り付けようとした虹の王子の魔方陣。

 足せば五次元か?

 そんな単純なモノでも無いのだろうが……今の王子の居る世界は元の世界とは明らかに違っているようだ。


 ただ……このままではマズイのは王子にもわかった。

 それこそ次元の狭間での魂の霧散に巻き込まれる。

 魂ごと消えて無くなるのだ。

 蘇生のガチャなんて、そんな選択肢すら無くなるのだろう。


 ……そこから退け。

 ……逃げろ。

 ……撤退だ。

 王子の脳の片隅はそれを叫び続けていた。


 「どうすればいいんだ」

 王子はその叫びに尋ねる。

 

 ……未来の自分の可能性を信じろ。

 ……我を信じろ。

 ……己を信じて託せ。


 そう答える者の声に身を委ねる決意をした王子。

 ドラゴンに剣を突き刺した時と同じだ。

 同じ様に意識を未来の自分に渡せば良い。

 そう決断した王子は目を閉じて、ドラゴンに刺さる剣の柄を手放した。


 体が勝手に動く。

 揺れる地面を走り。

 エウラリアを右腕に掴む。

 次は左手にマルタを担いだ。

 そして、両手は塞がっている筈なのに……ドラゴンに手を伸ばす。

 右手では無い。

 左手でも無い。

 それでも何かを掴んだ王子は叫んだ。

 「ボンナリエール!」

 それは飛び退く剣技のスキル。

 そして後方に飛ぶ。

 

 もう一度叫ぶ。

 「ボンナリエール!」

 また後方に飛び退く。

 

 それを何度も繰り返した。

 「ボンナリエール!」

 飛ぶ。

 「ボンナリエール!」

 飛ぶ。

 「ボンナリエール!」

 飛んだ。


 魔方陣の端まで来ても、まだ叫ぶ。

 「ボンナリエール!」

 そして、魔方陣から外に出る。


 こぼれ落ちる。

 上にか下に落下する。

 それでも続けて。

 「ボンナリエール!」

 落ちる最中からまた後方に飛んだ。

 

 


 何度、飛んだかもうわからない。

 見える範囲に魔方陣の大地は無くなっていた。

 落ちる感覚だけの光も何もない世界。

 いや、時間だけは感じられる。

 後ろに飛んで後退しているのに、常に前に進む時間。

 その永遠の繰り返しに成る恐怖が王子を遅い始めた頃……唐突に光が爆発した。


 違う。

 光の溢れる世界に後ろ向きで飛び込んだのだ。

 

 真っ白な光の世界。

 それを認識した時と同時に背中に鈍い痛みが走った。

 平たい硬い鈍器の様なモノで殴られた様に衝撃が走る。

 痛みに詰まる息は声を出すことも許さないほどだ。

 もうボンナリエールと叫べない。

 技も使えない。

 と成ればそれは落ち続ける事を意味すると恐怖が王子を包む。

 そして、恐怖は王子の抱えるエウラリアとマルタを掴む腕に一層の力を加える。

 何があっても放さない。

 ……。

 だが、その時に初めて異変に気付いた。

 落下する感覚が無くなっている。

 先程の平たい鈍器が王子を上に押し上げている様だった。

 

 上に上にと持ち上げる感覚。

 それが暫く続くと、今度は目に入る光が弱まっている事に気付く。

 王子の頬を優しく撫でるモノも。

 鼻に感じる柔らかい匂いも。

 耳に聴こえる……波の音にも。


 波?

 海の音?

 匂いは潮の匂い?

 頬には潮風か?


 ハッと意識を取り戻した王子は……地面に寝転がっていて、目の前に広がる青い空を見ていた。

 上に持ち上げられる感覚は錯覚だったようだ。

 長く落ちる感覚に晒されていて、それが急に止まったから上にと錯覚したのだ。

 同じ様に暗闇で慣れた目には、普通の昼間の光でもそれは光の洪水の様に眩しい。

 そう……王子は何処かの海の近くの大地の上に倒れて居たのだ。

 

 「……助かった……のか?」


 「その様だな」

 王子の呟きに返事を返す者が居た。

 声の主はエウラリアでもマルタでも無いとわかる。

 もちろんポモドーロの嗄れた声でも無かった。


 誰だ? と、驚いた王子はそちらに顔を向ける。

 見えたのは、ボロボロに為った……ドラゴンのぬいぐるみ。

 そして、喋ったのがその ”ぬいぐるみ” だともわかる。

 明らかな異変が有ったからだ。

 ドラゴンのぬいぐるみは……空中に浮いていた。

 布で出来たチャチな羽で飛んでいたのだ。


 「誰?」

 どう確認しても、ただのぬいぐるみ。

 でも、意思を示して……飛んでいる。

 一瞬、プペやアンの様な使役された人形? とも考えたがそんな事をした覚えはないし。

 何より、ドラゴンのぬいぐるみの態度は王子に対して対等かそれ以上だと思わせるものだ。


 「ドラゴンだ」

 しかし返ってきた返答はそれだった。


 「いや、ドラゴンのぬいぐるみなんだから……それはわかる」

 見た目がそのままだ。


 「ドラゴンはドラゴンだ……まあ以前には名前は有ったが今はそれは遣っていない」

 頷いて。

 「あえて言うなら火竜か? 虹の王子と戦ったドラゴンか?」

 

 「さっきまで一緒に居たドラゴンか?」

 王子の驚きはスグに何故にと変わる。

 「それが……どうして」


 「貴様が掴んだでは無いか……ワシの魂を」


 「魂を掴む……」

 王子は思い出していた、確かに無い手でドラゴンを掴もうとした。

 それは突然の事で、ドラゴンを助けようと無意識に出た手? いや、手は出せなかった他の何かだ。


 「魂などは掴めん」


 「いやいや今、魂を掴まれたと……」


 「魂を物理的に掴まえるのは無理だ」

 ドラゴンのぬいぐるみは首を横に振る。

 「あの時、崩れつつ有るワシの体から魂だけを選んで手を伸ばしたのだろう? でもそれでは掴めんからか……ワシの魂をこのぬいぐるみに押し込んで掴んだと、そうでは無いのか?」


 「体が崩れる……」

 小首を傾げるしかない王子。


 「次元の狭間に囚われたのだ」

 説明が足りないと気付いたのか? ドラゴンは続けた。

 「虹の王子のせいだろうがな……だがその時は貴様が魂を切り離していたではないか、だからそれを掴んだのだろう?」

 

 「そんな事が出来たのか?」


 「出来たから、ワシは今こうして居るのだろうが」

 鼻を鳴らしたドラゴン。

 「そんなスキルでも持っているのだろう?」


 やはり首を傾げる。

 王子は転生者では無い筈だ、次元に関わる技は……剣に由来するモノしか使えない筈だ。

 それ以前に魂をアレコレは神の領分だろう?

 そんな事が出来る筈が無いと、それでもメイン・ボードを開いて確かめてみる。


 「……有った」

 思わず声が出て……目が見開かされた。

 メイン・ボードの傀儡士の欄に ”人形想像……スキル入魂” と、有ったのだ。

 「これか……」

 出来合いの人形にさ迷える魂を入魂するスキルだった。


 フム……ドラゴンの魂をぬいぐるみに入れ込んだ。

 次元の狭間で霧散する事を防ぐ唯一の方法がそれだったのだ。

 王子はドラゴンのぬいぐるみを見ながら。

 「生きてて良かったじゃあないか」


 その王子の台詞に。

 「ワシは死にたかったのだ!」


 余計な事をとまでは言わないが、感謝はされないらしいと笑う王子だった。

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